炎は消えず、受け継がれる その3

炎は消えず、受け継がれる その3


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「どわ~~~!!! 何か飛んできたァ!!!」


地の底から這い出てもなお追い続けるサカズキの執念深さから抱えたルフィとウタを身を挺して守り、乱入してきたクロコダイルによって上空に逃がされたジンベエを逃げていたバギーが掴む。


バギーと共に脱獄した囚人たちはその姿を見て「脱獄の同志”麦わら”のルフィを助けたキャプテン・バギー」に感動の涙を流している。

そんな風に囃し立てる周りに困惑しながらサカズキの一撃を躱しつつ逃げるバギーはふとあることに気付く。


「ん? あの人形はどこ行った…」

「あ~~~~っ!!!」


ジンベエが掴んでいたはずのウタがいつの間にか離れた場所に落下していく姿をバギーは発見した。


煮えたぎるサカズキの一撃は今のルフィにとっても耐えられるものではないが、それ以上に人形のウタにとって危険極まりないものだ。

苛烈な攻撃がジンベエの肉体を貫き、ルフィの胸に大きな傷を残す。しかしジンベエは自身の肉体がどれだけ焼け焦げようとも、ウタだけには通さなかった。


だがそれ故に限界を迎えるのも早かった。何より自身を掴むバギーの姿に安堵してしまったのだろう。

体力も何もかもを消耗したジンベエの力がほんの一瞬緩まってしまった。恐らくウタを離してしまったのはその時だ。


「クソがァ!! 手間かけさせやがってェ!!!」


ここでウタを見捨てて逃げるのは簡単だ。だがバギーはルフィに念押しされている。

「ウタに酷いことをしたら許さない」と。


知らぬ存ぜぬでシラを切り通しても、絶対にこいつは許さないと確信している。

だからバギーは下にいる自分を信じる囚人たちに向かって叫んだ。


「おいお前らァ!!! ウタ…じゃわかんねェな!! その人形をこっちに渡せェ!!!」


「キャプテン・バギー!? なんでこの人形を!?」


囚人たちが困惑の声をあげる。

確かに”麦わら”のルフィが大事にしていることは皆知っているが、寄りにもよって何故この状況でこんなものを気に掛けるのか?


「うるせェ!!! そいつは麦わらの仲間なんだよォ!!!」

「置いてったら麦わらにおれが殺されちまうってのに見捨てられるかバァカ!!!」


情けなく自己保身の塊のような叫びをバギーはあげる。

その姿を見て、囚人たちは……


「『麦わらの仲間、見捨てられるか』だと……?」


「キャプテン・バギー、あんたって人は……そんなにもっ!!」


「わかったぜキャプテン・バギー!!! 受け取ってくれェ!!!!」


囚人たちには肝心な部分が聞こえていなかったようだ。

たとえ人形であっても同志のことを見捨てないバギーの姿に感動している。


実のところ、”白ひげ”の家族に向けた「二人を守れ」という最後の叫びをバギーたちは聞き逃していた。

もし、バギーたちがウタのことを見捨てていたら……それに知らぬ存ぜぬを貫き通そうとしていたら……

混迷の中で人の動きなど誰にも分からぬとはいえ、バギーの手元には先ほどまでウタを掴んでいたジンベエもいるのだ。そうなったら言い逃れはできない。


こうして”道化”のバギーは我知らず一命をとりとめることができたのだった。



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「………………!!!」


サカズキは己の拳を剣一本、腕一本で防ぎ切った目の前の男に驚愕する。

止めたことではない。この男であれば容易いことだろう。


問題は、何故この男がここにいるのかという一点のみだ。


「……よくやった…若い海兵」


男が防いだ拳に狙われていた若き海兵コビーはサカズキと睨みあう男の後ろで泡を吹いて気絶していた。

目的を果たしながらも止まらぬ海軍に、これ以上犠牲を出す戦争を続けないようにと勇気を振り絞ってサカズキの前に立ちはだかった。


その勇気を、男は心から讃えた。

たった数秒に過ぎない時間であっても、コビーが命を賭けて稼いだ時間は今”世界の運命”を大きく変えたのだ。


「この戦争を……」


受け継がれた意志を絶やさぬように。止まらぬ戦禍を広げぬように。

傍らに落ちている”彼”に預けた麦わら帽子を男は拾い上げる。


「終わらせに来た!!!」


”白ひげ”に並ぶ”四皇”の一人、”赤髪”のシャンクスは戦場に響き渡るよう、力強く宣言した。



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「フッフッフッフ!!!」


戦争が終わり、静けさを取り戻し廃墟の山となった「マリンフォード」に一人、笑う男がいた。


「”白ひげ”は死に、”正義”の象徴だった「海軍本部」はこのザマ……」


王下七武海の一人”天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴは自身が立ち会った歴史的瞬間に打ち震えていた。

その場に居合わせたことではない。この瞬間から世界に巻き起こる新たな”嵐”の訪れに。


「荒れるなァ!! この世界がよォ!!」


それでこそだ。こんな世界、何もかも壊れちまえばいい。

だが壊れるにしても、どうせなら盛大な方がいいに決まっている。その為に準備をしなければ。


「しかし……」


一つ、気がかりなことがあった。

遠目からだった為に詳細は分からなかったが、この頂上戦争に乱入してきた”麦わら”のルフィの傍らにいた動く人形。

”麦わら”のルフィの手配書に映り込んでいたその姿を見た時から「まさか」という想いがドフラミンゴの中にはあった。


似たようなものが世界にはあるのかもしれない。世界とは不可思議極まるものなのだから。

だがしかし、もしもアレが自分の危惧した通りの”オモチャ”だったとしたら……


「フフフフ……」


脳裏に浮かぶのは”麦わら”のルフィ。今はまだルーキーでしかないが、いずれは危険な存在となるだろう。

同時に、ああいう存在は世界に大きな変化を巻き起こすものだ。そういう意味ではまだ刈り取るべきではないか。


どちらにせよ、今はまだアレを気にするより楽しめることがある。

”四皇”の一人”白ひげ”エドワード・ニューゲート。最も偉大なる大海賊の死。そして彼が死の際に放った”ひとつなぎの大秘宝”の実在。


多くの人を海に駆り立て、さりとて誰も”海賊王”の座に到達できなかったがゆえにつまらぬチンピラ共が群れてきた”大海賊時代”に、再び火がつく。

”時代のうねり”は止められない。”人の夢”が終わらぬ限り。


「面白くなってきたじゃねェか!!!」


荒れ狂う未来を思い描き、人を嘲る夜叉は笑う。

いずれ来る世界の崩壊。それを待ち望みながら、ドフラミンゴは請け負った仕事を果たすために闇へと消えていった。



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「その能力はァ!!! おれが貰うっ!!!」


”黒ひげ海賊団”の一人、ジーザス・バージェスが目の前に立つ男に向かって吠える。


「エース……」


男…”革命軍参謀総長”にしてルフィとウタと兄弟盃を交わした義兄サボは己の身に宿る”メラメラの実”の炎に向けて語り掛ける。

目の前の男バージェスが所属する黒ひげ海賊団は”能力者狩り”なるものを行い、悪魔の実の能力を奪っているのだと言う。


自分はつい先ほど能力者となったばかりだが、弟のルフィは”ゴムゴムの実”の能力者でバージェスに狙われていた。

そして詳細は聞く余裕がなかったが、妹のウタ…人間になっていたことには驚きと同時に「ドレスローザ」で巻き起こった事態と即座に結びつき怒りを覚えた…も恐らく能力者だ。


「おれらの弟と妹の為だ……力貸してくれ」


つまり、この男は自分たちの愛する弟妹(きょうだい)の命を狙う敵なのだ。

ならば自分が倒さねばならない。道半ばで倒れ、死したもう一人の兄弟の分まであの二人を守らなければ。


纏う炎の勢いが更に増す。サボの独白に応えるかのように、炎はうねり高まっていく。


「お前も許せねェってか?……おれもだよ」


一度は消えたはずの火が再び灯る。”二人分”の決意を乗せて業火となり、周囲に熱を伝える。


「兄貴として……弟妹(きょうだい)は守らなきゃなァ!!!」


炎は継がれ、燃え盛る。

彼の遺志はもう一人の兄に継がれ、彼方まで照らす炎となって煌めいていた。


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