灰かぶりvsコウモリ

灰かぶりvsコウモリ


デンジは魔人パワーの外出許可を得ると、ニャーコをさらった悪魔の元へ、パワーと一緒に向かった。路面電車の車中、ポチタの話題を振ってみたが、パワーは乗ってこなかった。

乗り継いできたバスを降り、住宅地から外れた一軒家に2人は到着する。パワーに案内される形で家に近づいていくのだが、デンジはある事に気づく。

「テメーが姿見せたら、猫を人質にされんだろ?こんな近くまでついてきちゃダメでしょ?」

「おお?そういう設定じゃったか?」

「設定〜?」

パワーの態度に違和感を覚えたデンジは攻撃を仕掛けるが、彼女のカウンターにより昏倒してしまう。デンジはパワーによって、家に潜んでいたコウモリの悪魔に差し出されてしまった。

コウモリの悪魔はデンジの身体から、文字通り血液を絞り出して飲む。しかし、その血は不味かった。不味い血で復活した事に腹を立てたコウモリの悪魔は市街の人間達で口直しをする事に決めた。

パワーは約束通りにニャーコの返還を要求したが、怒りが収まらなかったコウモリはニャーコを捕らえていた檻ごと腹に入れる。

助ける暇すら無く、飲み込まれるニャーコを見ていたパワーは、諦めたような表情でデンジに顔を向ける。ポチタを失ったデンジへの共感を言葉によって示すと、自身もまたコウモリの中に飲み込まれていった。

「んん?」

「俺の遊び場ァ返せ!」

「わたしの血を飲んでる……!?気持ち悪い!」

飛翔するコウモリの悪魔に取り付いたデンジは、コウモリの手に捕まってしまう。しかし、その直前、スターターロープは引かれていた。

コウモリの手から抜け出したデンジと、隻腕となって地上に堕ちたコウモリの戦闘が繰り広げられる。コウモリの悪魔が口腔の器官を展開し、衝撃波をデンジに見舞う。

「散々な目ぇばっか遭ってよぉ……我慢しかしてね〜のに…まだ家にすら行ってねーんだよ〜!!」

「ちっ、近寄るなアア!!」

衝撃波によって吹き飛ばされたデンジは、負傷を意に介する事なくコウモリに向かっていく。その姿にコウモリの悪魔は恐れを成した。

コウモリの悪魔が繰り出した拳の上を、デンジのチェーンソーが滑る。コウモリの悪魔はチェンソーの怪人に斬殺された。

「なぜワシを助けた…?ウヌを殺そうとしたのに……」

コウモリの腹の中から助け出されたパワーが、己を抱え上げるデンジに問いかける。

「まだ教えてねえだろ…」

「ああ…そうじゃった……」

「騙してスマンかった。ニャーコは助かったからの、ワシの一押しを教えてやるわ」

パワーの言質をとったデンジは拳を突き上げる。直後、突き上げた腕が円形に抉られた。ヒルの悪魔である。彼女はコウモリを殺したデンジ、その後ろにいるパワーへと襲いかかった。

戦闘が始まったが、満身創痍のデンジはヒルの悪魔へ有効打を与えることができない。

「コウモリは私と一緒に人間をすべて食べる夢を見ていた…。無謀だけど崇高で素敵な夢。それを子犬程度にぶち壊された。さっさと死んでちょうだい」

「遊びに誘う前に死ねっかよ…!」

「あらあら!お熱い相手がいるのねえ…けどかわいそう。アンタはここで死ぬのよ」

デンジは捨て身の突進から、頭のチェーンソーでヒルの悪魔を切りつけた。

「俺ん事見下してんじゃねえよお……。よかったなあ、男がいてさ!じゃあ愛バトルしようぜ!愛バトル!!俺がテメーをぶっ殺したらよお〜…!てめえの愛ィ!片思い以下な〜!?」

「吠えててカワイイわあ!子犬ほど吠える吠える!いいわ!アタシが食べてあげる!!」

哄笑と共に突撃したデンジはヒルの頭部にチェーンソーを突き立てるが、刃が殆ど伸びていなかった為、致命傷を与えることはできなかった。

デンジを喰らうべく、ヒルの悪魔が大口を開けた瞬間。アキの召喚した狐の悪魔がヒルを飲み込んだ。

「…なんでアキ君の家に訳ありの子ばっかり集めるんですか!しかも女の子!」

アキからパワーが家にやってきた話を聞いた姫野は、即座にマキマへ苦情を入れた。

「面倒見の良さと2人に振り回されない意志の強さ、そして実力。早川君以上の適任はいないよ」

「私は!?」

「酒乱の気がある女性はちょっと…ごめんごめん。負担が大きいのは承知してるから、姫野さんも早川君をできるだけ手伝ってあげて」

マキマは姫野との通話を終えた。

パワーは家に来てすぐ、デンジとの約束を果たした。デンジがついていくと、様々な筐体が並んでいる店舗の入口にパワーは彼女を案内した。

「なにここ?」

「なんじゃ、知らんのか?ここはなあ…」

パワーはこの店で遊んだことはないが、楽しそうな音に興味を強く持っていたのだ。

「ゲーセンだろ!見たことぐらいあらあ!」

デンジは大きく肩を落とした。彼女が探しているのは、マキマの興味を引きそうなスポットだ。楽しそうではあるが、こんな場所に彼を誘えない。

デンジは後処理の書類確認に赴いた際もまだ落ち込んでいた。確認に付き添っていたマキマは、デンジの様子に気がつくと声をかけた。

「俺ぁ…俺は知らないなりに色々調べてみたんです。でもこれだって所が全然見つからなくて、やっと見つけたかと思ったら、また全然期待外れで…

もしかしたら…俺はこれからも、また違うモンを探した時もっ、時間ばっかり過ぎるんじゃねえのかって…そんなの…糞じゃあないですか…」

「デンジちゃんはなんの話をしてるの?」

「ゲーセンには誘えねぇなって話です…」

「ふん…」

マキマは考え込む仕草をする。すぐにポーズをやめ、彼は確認作業が終わったら2人でゲームセンターに行こうとデンジを誘った。

「マキマさん…ゲーセン、行くんすか!?」

「いや、初めてだ。デンジちゃんは?」

「はじめてっす…」

「じゃあ、初めて同士か。どんな所だろうね?」

休憩に1時間ほど、とマキマは断りを入れる。宣言通り、デンジは書類仕事が済むと、1時間ほどパワーが案内したゲーセンでマキマと遊んだ。

「頑張り屋なのはいいけど、普通の大人は君くらいの子に多くは求めないものだよ。デンジちゃんは、もっと楽にしていいんだ」

「はい…」

夢のような時間である。店を出るときには、マキマが手を繋いでくれた。

「僕の手の握り方、覚えといてね。デンジちゃんの目が見えなくなっても、僕の手の力で僕だってわかるくらいに覚えておいてね」

「覚えました……」

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