瀞霊廷門前・市丸ギンとの遭遇
スレ主目次
「…あ…あぁ… …ああああああ…」
「………誰だ?」
瀞霊廷の門を持ち上げた兕丹坊はその門の内側に立っている糸目の死神を見た途端尋常でないほどに震え出した。
一護は眼光を鋭くし、目の前の男が何者なのかを尋ねる。
「…少なくとも私たちに好意的ではないのは確かだと思うけど」
つい先程まで一護はこの巨漢の男と戦闘を繰り広げていた。両者の戦闘音は少なからず瀞霊廷の中にまで響いていただろう。
兕丹坊が冷汗を滴らせながら糸目の死神の名前を答える。
「さ…三番隊隊長… …市丸ギン…」
「あァ こらあかん」
その男、市丸ギンが口を開いた一瞬だった──門を持ち上げていた兕丹坊の片腕が派手に弾け飛ぶ。
「…あかんなぁ…門番は門開けるためにいてんとちゃうやろ」
***
上がっていた門は兕丹坊が腕を失ったと同時に下に落ちようとしていたが、それをもう片方の腕と首の後ろで固定し、根気だけでどうにか食い止める。
無くなった左腕から血を大量を失いながらも必死に門を死守した。
「ふッ‼︎!」
斬った犯人はその様子に感心しながらも、しかし門番でありながら瀞霊廷に旅禍を招き入れようとした兕丹坊の行動を咎めた。
「おー片腕でも門を支えられんねんや?サスガ尸魂界一の豪傑 けどやっぱり門番としたら失格や」
──これが限定霊印が施されていない隊長格の実力…。
数としては〝1人〟しかし現世の人間である一護達には想像もつかないほどの年月を生きた存在──それが死神だ。
今の一護達では到底勝てる相手ではない。
一護と石田の修行での成果はある程度見てきたつもりだが織姫とチャドが何をしていたのかを璃鷹はよくは知らない、夜一という喋る黒猫と何かをしていたらしいが特に興味もなかった璃鷹はその誘いを拒否していたからだ。
しかしどれほどの力を獲得したと言えど死神…隊長には始解の『その先』が存在する。
璃鷹は独り言のように呟いた。
「初戦のすぐ後に次は隊長なんてついてないなぁ…」
兕丹坊は恐怖から顔を強張らせて市丸の顔を見れないでいた。
その様子を緊張しながら見届ける石田達とは対称に、一護は冷静にその勇姿を見ている。
そして市丸に対して巨漢の男は恐怖を紛らわすように吠えた。
「負げだ門番が門を開げるのは…あだり前のこどだべ‼︎」
瀞霊廷での門番を任されていると言っても兕丹坊と市丸の間には天と地ほどの力の差がある。
それを理解した上で人情を突き通そうとする兕丹坊に市丸は冷たく言い放つ。
「──何を言うてんねんや?」
「わかってへんな 負けた門番は門なんか開けへんよ 門番が〝負ける〟ゆうのは…『死ぬ』ゆう意味やぞ。」
〝一閃〟脇差のような斬魄刀が兕丹坊の巨体を目掛けて飛んでくる。
しかし肝心の兕丹坊は避けられないと知っているのか、それとも最後まで己の信念を貫くつもりなのか微動だに動かなかい。
一護の大太刀が兕丹坊に向けられていた斬撃を受け止めた。
「…井上 兕丹坊の腕の治療をたのむ」
負傷した兕丹坊の治療を織姫頼むと、一護が市丸を見据えた。
一護の容姿に見覚えがあった市丸は納得したように言った。
「…キミが黒崎一護か」
「!知ってんのか俺のこと?」
一護は驚いたように聞き返した。
──…一護の情報が共有されている…。
ルキアが行った現世の人間への死神の譲渡が極刑ならば注目されるべきはその死神の力を譲渡された〝対象〟だろう。
それに一護はしっかりと恋次と白哉の前で名乗りをあげている。
恐らくあの夜、彼らがソウルソサイティに帰還した後一護の容姿も含めて上に報告したのだろう。
一護の髪色は良くも悪くもよく目立つ。
「脇差やない。これがボクの斬魄刀や」
市丸の雰囲気が変わったことに気づいた璃鷹は一護の場所まで走る。
「一護っ‼︎」
市丸が構えの姿勢を取ると、始解の会号を唱える。
「〝射殺せ〟『神槍』」
目にも止まらぬ速さで市丸の斬魄刀が伸縮したかと思えば、璃鷹は丁度重なるように一護の上に覆い被さるが抵抗する暇もなく兕丹坊 を後ろにした形で3人同時に飛ばされて、門から跳ね返される。
「く…黒崎くん!鳶栖さん!」
「黒崎っ!!タカちゃんッッ!!」
3人の飛ばされた方向へ駆けていく石田達だったが夜一は後ろを振り返り叫んだ。
「‼︎しまった‼︎門が下りる…っ‼︎!」
兕丹坊の今までの努力は虚しく、支える者がいなくなった門は無常にも閉じられていく。
「バイバーイ♡」