澆季溷濁②
☆
某所 治療施設
虎杖悠仁達が死滅回游結界に侵入する以前の時間。
「...まさか、きみがここまでになるとはね、葵」
九十九由基は、ベッドに横たわる弟子・東堂葵を見ながら呟く。
特級呪霊・真人との激闘の末、片手の喪失と黒閃、無移転変により受けたダメージにより昏睡状態に陥っていた。
「本当なら、よく頑張ったってキスの一つでもしてやりたいんだが、きみの唇は高田ちゃんのモノだったか」
高田ちゃん。世を賑わす高身長アイドルであり、東堂が熱狂的に推す少女である。彼は高田ちゃんと結婚したいと考えており、己が釣り合う男になるその時までその身は清らかでいることを心掛けている。なので、代わりに額に掌を当て、その上から軽くチュッとキスを落とす。
「安心しなよ、葵。あとはお師匠様に任せて、君はゆっくり休むといい」
それだけ告げると、背を向け立ち去ろうとするが、ドアの前で止まると微かに止まり、一度だけ振り返る。
「偏屈な君がそんなになるまで入れ込むあの少年...そうとういい男なんだろうね」
・
・
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そして、現在。
「......」
「と、東堂さん!?良かった、目ぇ覚ましましたか!えっと、九十九さん九十九さん...あっ、電波届かないところにいたんだっけ...とりあえず、俺のことわかりますか!?」
目を覚ました東堂は、慌てふためく新田新をしばらく見つめながら、ぼんやりとした思考を纏めると、ふらふらとしながらも立ち上がる。
「ちょ、無茶せんといてくださいよ!東堂さん起きたばっかなんですから!」
「虎杖(ブラザー)はどうなった」
「え?虎杖くんは、その...」
新田は言いづらそうに口をつぐむ。それだけで、東堂には充分だった。
「ブラザーは、いま苦しんでいるんだな」
「あ、あの、虎杖くんのとこに行くとか言わんといてくださいよ?いま何処にいるかもわかりませんし。そもそも東堂さんが万全ならまだしも、その身体じゃ逃げきれませんて」
瞬間、東堂の脳髄がフル回転し、情報を即時即座にまとめていく。
ーーーブラザーに起きた新田が言いづらいこと。ブラザーが死んだ?いや、違う。新田はいま何処にいるかもわからないと言った。それに術式が使えない俺では逃げきれないとも言った。呪霊や夏油傑関連か?違う。奴ら相手なら逃げるではなく倒せない・敵わないと表現するはずだ。俺がブラザーのもとへ向かった時に逃げなければならない相手ーーーそれはつまり、内部からの追跡!即ち原因は高専上層部!下手にブラザーの元へ向かえば、奴らの監視下にあるであろうここからも追っ手が放たれることになる!つまりいま、術式すらない俺にできるのは動かないこと!
ーーーこの間、約0.2秒の判断。
(そんな中、俺にできることは...)
「新田。手を貸してくれ。屋上へ向かう」
「はい?」
・
・
・
屋上。
自殺防止用の金網で仕切られたスペースの中央に、東堂葵と新田新は立っていた。
「虎杖くんのいるところに向かうって言わなかったのは助かりましたけど、なにするんです?」
「いまの俺が向かったところで足手纏いになるだけだ。たが!ブラザーに伝えなければならん!あいつには置いていかれてしまったが、それでもこの魂はお前の側にあると!俺とお前、そしてお前の紡いできたこれまでの全てがお前の味方であると!!」
東堂は息を大きく吸い、溜めて、溜めて。一気に吐き出す。
「ブラザアアアアアァァァァァ!!!!!」
大気が震えるほどの声量に新田は思わず耳を塞ぐ。
「ブラザアアアアアァァァァァ!!!!!」
己の喉が悲鳴をあげ、血塊が込み上げるが構わない。
血反吐を吐こうが、何度も最愛の心友を叫び続ける。
術式も。呪力も。なにも込められない、原初の呪い(エール)を。
ただひたすらに叫び続ける。
その友を想う一念が、奇跡を起こす。
☆
声が聞こえる。
ーーーあとは頼みます
走馬灯というのはこういうものを言うのだろうか。
ーーー悪くなかった!
溶けかけていく意識から、己が見た光景をつなぎ合わせるように。
ーーーオマエを助けたことを一度だって後悔したことはない
色んな景色が目一杯に流れてくる。
ーーーお前は何を託された?
そうだ。俺は。俺はーーー!
☆
ぐい、と起き上がり、虎杖は裏梅を押し倒す。
そんな様を裏梅はくすくすと嘲る。この瞬間がいつになっても愉快で堪らない。あれだけご大層な高説を、信念を垂れていた連中が、快楽に逆らえず不様に果てる。その滑稽さが昔からたまらなく好きだった。
(さあ、見せてみろ虎杖悠仁。性欲に支配された哀れな色欲猿の表情を)
己に被さる虎杖の表情を見た裏梅は、しかし驚愕に目を見開く。
虎杖悠仁の目に宿る、活力の光に。
(こいつ、まだ堕ちてーーー)
どちゅん!!
虎杖の腰が深く沈み込み、裏梅の子宮口を強く叩く。
「ーーーあっ」
その勢いに裏梅は悲鳴をあげる。
どちゅん!!どちゅん!!!どちゅん!!! 先程よりも荒々しく、的確に子宮を叩かれる度に脳が甘く蕩けるような快感に支配される。
「く、あぁっ」
堪らず甘い声が漏れるが、しかしさほど問題ではない。
今まで喰らってきた中でも、最後に激しく求め合うことは山ほどあった。だから問題ない。問題はないはずーーー
虎杖悠仁と目があった瞬間、その経験則は間違いであったことに気づく。
この目は。堕落とは正反対のこの目は!
(獲物を狩る猟犬ーーー!)
即座に離れようとする裏梅だが、一手遅れてしまう。
ーーー黒閃
「っ、あああああ♡!?」
今までの比ではない衝撃が膣を伝わり、裏梅は意識を刈り取られかける。
黒閃とは。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みである。
かつて東堂葵は言った。
腹でモノを考えるのか、頭で怒りを発露できるか。違う、俺たちは全身全霊で世界に存在していると。
打撃。それはなにも拳や蹴撃だけによるモノではない。
頭からつま先まで、その何処からでも打撃は放つことができる。
即ち。理論上は勃起したちんぽでも黒閃は放てるのだ。
無論、並大抵の術師には行えぬ。
しかし、それを成し遂げるのが虎杖悠仁。全身黒閃人間とでも言うべき、黒い火花に愛されし申し子だ。
(マズイ、このまま連続で突かれたらーーー!)
黒閃とは呪力が打撃と誤差0.000001秒以内に衝突した際に発生する空間の歪みだ。つまり裏梅には知覚できない。
故に防ぎようもない。対策もない。だからこそーーーこの現象に耐性のない裏梅はセオリー通りに、咄嗟に呪力を流してしまう。それが最大の過ちであることも気づかずに。
虎杖の腰が再び迫る。裏梅は回避は不可能と判断し、集中して呪力を込める。本来ならあり得ない脅威に、深く意識は研ぎ澄まされていく。
ーーーその先で爆ぜる1/1000000の火花。
ーーー【【黒閃】】
「ッ...!」
「な、に...!?」
虎杖とは違い、裏梅に感覚的にも狙ったわけではない不本意な火花が爆ぜる。
重ねていうが、黒閃は打撃による現象。手足のみならず、女陰ですらその対象である。
釘崎野薔薇。
真人。
東堂葵。
本来ならば黒閃の機会に恵まれなかった彼らが虎杖悠仁と共にいることで扉を開いたように。
裏梅もまた、不本意ながら黒閃に至ったのだ。
(これが、黒閃...!)
初めての感覚に裏梅は戸惑う。黒閃に至った者は、一時的にアスリートでいう『ゾーン』に入った状態になり、感覚が研ぎ澄まされる。
キメた者にとってはプラスでしかない。そう、本来ならば。
虎杖の腰が再び迫る。
(問題ない。今の私なら一度突かれたままでも術式が発動できる!)
ここまで至ってはもうお遊びはお終いだ。一度突かれるのと引き換えに術式を発動し虎杖を心臓まで凍り付かせる。それで全てが終わりだ。
本来ならば呪力が乱れて出来ない芸当も、今ならできるという高揚感と確信に溢れ出す。
どちゅん!!
虎杖の肉棒が裏梅の子宮口を叩く。
「ッッッッ!?あへええええええ♡♡♡♡♡」
だが。裏梅は普段の澄まし顔からは考えられないほどのアヘ顔を晒し絶頂する。
黒閃に至った者は感覚が研ぎ澄まされる。その感覚とは、性感帯も例外ではない。
虎杖の黒閃ちんぽと己の鋭敏化した快楽は、歴戦の猛者である裏梅でも耐え切れるものではなかった。
「俺はオマエの名前も知らない」
冷めた声で虎杖が言う。
「でも、オマエのせいで宿儺を殺しにいけないなら。オマエがあいつの味方をし続けるなら。俺はオマエを壊すくらい犯す。手足が凍りついて動かないから、あったまって動くようになるまでオマエを犯し潰す。何を言われようが関係ない。それが俺の役割だ」
その言葉に裏梅の腹の底が冷え込む。
普通に戦いいたぶるだけであれば確実に裏梅が勝てる。下手に全身を凍えさせ、肉棒だけ動くようにしたのは、裏梅自身。これは彼女の身から出た錆ーーー呪いである。
「ふ、ふじゃけ...んあっ♡」
舌足らずに反論しようにも子宮を突かれて喘ぎ声が漏れる。
どちゅん!!
「お゛お゛ぉおおおお♡♡♡♡♡」
どちゅん!どちゅん!どちゅん!
「おっ♡ おほっ♡ っ~~~♡♡♡♡」
一突きされる度に脳天を突き抜ける快感の稲妻が脊髄を走り、裏梅の思考をいとも容易く溶かしていき、獣のような喘ぎ声が漏れる。
「お゛♡ お゛♡ うぐぅっ♡♡♡♡」
子宮から走る稲妻に脳を焼かれ、あまりの快感の強さに意識を飛ばしかけるが、虎杖のピストンの勢いによってすぐに引き戻される。
どちゅん!どちゅん!どちゅん!
「あぎゅぅ♡♡♡ おほっ♡♡♡ あひぃ♡♡♡」
これまでの人生で味わったことのない凄まじいまでの快楽に、裏梅はなす術もなく白目を剥きかけながら、快楽を享受する。
(な、なんだこれはっ♡♡ しらないっ♡♡♡ こんなちんぽしらないっっ♡♡♡♡)
これまでに感じたことのない圧倒的な快感に身悶えるしかない。
(こ、こんなのを……受けたら……♡♡♡)
どちゅん!どちゅん!!どちゅん!!どちゅん!!
(もどれなくなる♡♡♡♡♡♡)
ーーー黒閃
「んおおおっっ♡♡♡♡♡」
これまでとは比べ物にならない衝撃に、裏梅の意識が一瞬飛ぶ。
(ま、まずいっ♡♡♡♡)
なけなしの理性が警鐘を鳴らす。快楽に屈しかけたが、なんとか堪えることができた。しかし、一度その快楽を刻み込まれてしまった子宮は虎杖の肉棒を求めて疼き続けてしまう。
(い、いったんあの肉棒から逃れるためにもっ♡)
だが今の裏梅は腰が砕け満足に動くこともできない。故に逃げることもできない。
どちゅん!どちゅん!!どちゅん!
「あへぇぇ♡♡♡ あ゛っ♡ おっほぉぉ♡♡♡♡♡」
(ま、負けるな♡ ただ気持ちいいだけのまやかしだっっ♡♡♡♡)
どれだけ耐えようとしても、子宮から走る稲妻に理性が蹂躙されていく。そのあまりの強さに自分が何を叫んでいるかもわからなくなっていく。
どちゅん!どちゅん!!どちゅん!
「あぎゅっ♡♡♡ あへっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡♡」
(駄目だっ♡♡♡ もう耐えられないっっっ♡♡♡♡♡)
そして裏梅は。
「おっほおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおお♡♡♡♡♡♡♡」
盛大に絶頂を迎える。肉棒から放たれる白濁を子宮で受け止める快感に、下品に舌を突き出しアヘ顔を晒してしまう。
当然、その絶頂は今までの比ではない。脳内麻薬が過剰に分泌され、神経が焼き切れんばかりの快感が脳を焦がしていく。
「あ゛~♡♡♡♡ あ゛~~♡♡♡♡」
あまりの快感に全身が痙攣し、意識が吹き飛びそうになる。それでもまだ足りないとばかりに肉棒は裏梅の子宮を刺激し続ける。
(い、イッた♡ イッたからやめて♡♡♡)
既に絶頂したというのに、容赦なく突かれる感覚に気が狂いそうになる。
だがどれだけ懇願しようにも声が出ない。それ以前に快楽に焼かれている脳みそでは思考が纏まらない。
(た、たすけて♡♡♡)
この快楽を与えてくる相手に助けを求める始末だ。それほどまでに今の裏梅は追い詰められていた。
どちゅん!どちゅん!!どちゅん!
「おっ♡♡♡♡ お゛っ♡♡♡♡」
(おわらにゃい♡♡ もうイッてるからぁ♡♡♡♡)
もう子宮が蕩けてしまっているのに、何度も何度も突かれ続ける。その快感に脳が焼き切れそうになるがそれでも止まることはない。もはや快楽というより拷問に近い責めに、裏梅は気を失いかける。
どちゅん!どちゅん!どちゅん!
「あ゛~~♡♡♡♡ あ゛~~♡♡♡♡」
(だめぇ♡♡♡♡♡♡しぬ♡♡♡♡♡♡♡♡)
『死ぬ』とすら思えてしまうほどの快楽を与えられ続け、意識が遠のいていく。そして遂に……
「ふぎゅっううううう♡♡♡♡♡♡♡」
裏梅は愛液を撒き散らし、盛大に絶頂し、意識を失った。
☆
バシュウ、と音を立てて結界が崩れる。終わったか、と視線を向ける宿儺は目を見開く。
立っていたのは、虎杖悠仁。裏梅は、着物を品なくはだけさせ、潮を撒き散らし、白目を剥きアヘ顔で痙攣していたからだ。
「裏梅ーーー」
思わず名前を呟く。
その僅かな隙を差し込むように、真希の跳蹴りが宿儺の頬を捉えた。
「よそ見してんなよ」
「ーーーチッ」
「宿儺ァァァァァ!!!」
叫びと共に虎杖が跳びかかる。
挟み討ちの形になったが、宿儺は極めて冷静に対処する。
「『鵺』」
両手の掌印と共に鵺を召喚し、狙いを定めず雷撃を落とす。
伏黒恵の肉体は身内を傷つけようとすると著しく呪力出力を落としてしまう。故に無差別に雷撃を放ち、当たろうが当たらまいが距離を置かせるのを優先した。
「「くそっ!」」
舌打ちと共に真希と虎杖は悪態を吐くも、既に遅い。宿儺は鵺の脚を掴み、失神する裏梅を小脇に抱え、鵺を飛び立たせていた。
「悠仁!」
真希の合図と共に、虎杖は構えられた掌に乗り、放り投げられることで追い縋る。
迫り来る虎杖と向き合う寸前、ちら、と裏梅へと目を向け、改めて虎杖と対面する。
「小僧。やはり貴様は不愉快だ」
宿儺が掌を翳すと、幾多もの斬撃が放たれる。伏黒の魂に抑え込まれ威力こそ出ないが、足場のない人間を叩き落とすだけならば充分。そのままなすすべもなく落ちていく虎杖を、宿儺はやはり不快気に見下ろし続けながら飛び去っていった。
「くそっ...くそぉ!」
悲痛な叫びと共に地面を殴りつける虎杖に、真希はなにも声をかけることはできず。
宿儺に乗っ取られた伏黒と傷ついた虎杖に心を痛めつつ、落ち着いてきた頃を見計らって声をかける。
「虎杖。まだ恵が死んだとは限らない。幸い、死滅回游にはヘンテコな奴らが山ほどいるんだ。もしかしたら宿儺を剥がせる手段を知ってる奴もいるかもしれねえ」
その言葉に、滲んでいた涙を拭い、虎杖は「押忍」と返事を返す。
気を取り直した虎杖に微笑みかけると、真希は言う。
「...とりあえず、そのちんこは仕舞おうな」
☆
パァン、パァン、と肉を叩く音が響き渡る。
「あっはっはっはっ、裏梅ってば、私の息子のムスコに負けちゃったの?」
「わ、笑うなぁ...ヒギィ♡」
裏梅の嬌声が漏れる。
いま、裏梅は羂索の前で臀部を晒され宿儺に叩かれていた。
尻叩き。古来より伝わる、他者に見られれば無条件で社会的死を与えられる屈辱の行為である。
「いやこんなの笑わないなんて無理でしょ」
「お互い、少々興が乗りすぎたな」
「い、いえ、宿儺様は決して...あふぅ♡」
スパァン、と小気味の良い音と共に裏梅の尻肉が揺れる。
「しかし君にしては優しい仕置きだねえ」
「いや?こいつからしてみれば痴態を貴様に見られるのは死よりも屈辱だろう」
「えー、私ってそんなに嫌われてる?」
「こいつはそういう女だ。...これくらいにしておくか」
裏梅を地面に下ろすと、宿儺は裏梅の拵えていた「浴」に入る支度を始める。
慌てて立ち上がり、宿儺の手伝いをする傍ら、あの快楽を刻み込んだ男に対し、ギリと唇を噛み締める。
(よくも私に恥をかかせてくれたな...おのれ虎杖悠仁...!)
その様を見て、羂索は存外面白いことになりそうだとニヤニヤ笑みを浮かべていた。