潜竜の反芻
・フランス戦の潔世一のゴールを読み返して成早君について書きたくなった
・彼の存在って大きいよねって話
・安定の捏造
報告書:潔世一の裏抜け技術の習得について
記述者:アギ
証言協力(敬称略):二子一揮、剣城斬鉄、氷織羊、黒名蘭世、蜂楽廻、千切豹馬、馬狼照英、凪誠士郎、潔世一
ブルーロック(以下、BL)のドイツ棟に所属する潔世一は、ネオエゴイストリーグで行われた試合中に見せた数々のオフ・ザ・ボールの動き、中でも裏への飛び出し(以下、裏抜け)の技術の高さから、ピッチ上の人間の位置を認識するという点において、高い空間把握能力もしくは行動予測能力を持つと予想される。
だが、あるルート(注:1)から入手した彼がBLに来る直前の試合の映像では、相手のチームのDFを引き付けて空いた空間を作り出し、そこにいる味方にパスをするという能力は見受けられたが、今のような自分で相対する一人または複数の選手たちの意識を引き付けた上で自らその裏を抜けるような行動は見られなかった(サンプルが少ないので行為を行った試合映像を発見できていない可能性がある)。これは、BLに入獄してからの潔世一の技術の向上が彼の行動を変容させたのか、他の選手から学んだことでこの技術を身に着けたのかは分からなかった。
また、潔世一が出場した元U‐20日本代表との試合や、ネオエゴイストリーグにおけるスペインのFCバルチャ、イングランドのマンチェスター・C、イタリアのユーヴァース、フランスのP・X・Gとの試合を見たところ、元U‐20日本代表との試合時においては既に裏抜け技術が身についていると見做すことが出来た。更に、マンチェスター・Cの試合では更なる裏抜け技術の向上が見られた。
よって、BL収監から元U‐20日本代表との試合までと、マンチェスター・Cとの試合中に彼の技術を向上させる要因があったことが予想される。
潔世一の技術のメソッドを可視化することが出来れば、一般化することで他の選手の技術の向上に寄与するであろうと推察される。ただ、技術は得てして積み重ねるものであり、習得時期に関しては本人の主観と周囲の客観でズレが生じる可能性がある。そのため、潔世一本人だけでなく、彼に関わってきたBLの選手にもインタビューを行い、これを記した。
今回の証言協力者に関して、様々なデータを得るため、一次選考、二次選考、トライアウト、U‐20日本代表戦、ネオエゴイストリーグのチームメイトやライバルなど様々な関係で彼と関わってきたBLの選手を選出した。快くインタビューを引き受けてくれたこと、ここに感謝を記す。
また、この研究に当たり、映像の提供やインタビューを許可してくださったBL代表:絵心甚八殿、並びに各棟のマスター達へ深くお礼申し上げる。
注1:
映像は絵心甚八より提供された
証言者:二子一揮
潔世一との関係:一次選考(ライバル)、U‐20日本代表戦(味方)、イタリア戦(ライバル)
インタビューの最初が僕で良いんですか?イタリア戦で潔君と話した後に、試合中の動きが変わったからですか。それは光栄ですね。それで、聞きたいことは潔君のオフ・ザ・ボールの内の裏抜け技術についてですか?そうですね…僕らイタリアのユーヴァースと試合中に、メタ・ビジョンという概念について教えてくれました。彼曰く、周辺視野を使ってフィールド全体を俯瞰で捉える能力とのことです。感覚で使用している能力を概念化・言語化することで技術化するのって凄い難しいのに、凄いですよね。話が反れました。戻しますと、恐らく彼はイングランド戦で修得した、いえ、意識的に使いこなせるようになったのがメタ・ビジョンだと思われます。その前の元U‐20との戦いでも裏抜け技術自体は高かった気がしますね。…一次選考の時は、申し訳ないのですが後々の彼と比べてまだそこまで裏抜けの技術が高くなかった気がします。一次選考で僕らのチーム以降の試合か、二次選考もしくはトライアウト中に何かがあったのではないかと推測します。二次選考では僕は彼とは戦わなかったので、僕が分かるのはこれくらいですね。確か、一次選考で最後に彼らと戦ったのが斬鉄君(剣城斬鉄)だと聞いたことがあります。お力になれましたでしょうか。
結果
一次選考の二子一揮との試合ではまだ潔世一の裏抜け技術はそこまで高くなかった。元U‐20日本代表との試合までに裏抜け技術を習得した可能性がある。
また、イングランド戦にてメタ・ビジョンを習得した可能性がある。
追記1
ネオエゴイストリーグの生き残りの中で、潔世一は一次選考で馬狼照英(チームX)、二子一揮(チームY)、鰐間淳壱(チームW)、凪誠士郎(チームV)、御影玲王(チームV)、剣城斬鉄(チームV)の順番で試合を行ったとのこと。
追記2
一次選考、二次選考、トライアウト、元U‐20日本代表との試合、ネオエゴイストリーグの順番でBLPLは進行している。
証言者:剣城斬鉄
潔世一との関係:一次選考(ライバル)、フランス戦(ライバル)
うむ?潔世一の裏抜け技術についてだと?…そうだな、一次選考の時に彼のチームと戦ったが、正直にいうと、彼らのネバーランドの精神による力強さの方が印象にあるな。ん?ネバーギブアップじゃないかって?それだな!すまない、ありがとう。で、潔世一の裏抜けについてか…あまり詳しくは覚えていないが、そこまででもなかった気がするな。今の潔世一が凄まじいという意味でもあるから、正しく相対評価できているとは言わないが、絶対評価なら一次選考の時よりも今の彼の方が上だな。あまり力になれずに済まないな。確か、七星(七星虹郎)が潔と氷織(氷織羊)と共にトライアウトで同じ班だったと言っていた覚えがあるから、聞いてみたらどうだ?
結果
一次選考では潔世一は裏抜け技術について修得していないと推察された。よって、潔世一は二次選考またはトライアウトにおいて裏抜け技術を習得した可能性が高い。
証言者:氷織羊
潔世一との関係:トライアウト(味方)、U‐20日本代表戦(味方)、ドイツチーム(味方)
え?潔君の裏抜け技術?うーん、そうやなあ。僕、トライアウトで組んだのが初めてやから、それまでは知らんけど、そん時はすでにかなり裏抜け上手かったと思うで?U‐20日本代表との試合のラストプレーとかほんとよう視てるわあって感じやし。ネオエゴイストリーグは僕はイタリア戦から組んだから、黒名君(黒名蘭世)の方が潔君の変化が分かるんとちゃうかな?
結果
トライアウトでは既に裏抜け技術が身についていたと推測される。よって、2次選考中にオフ・ザ・ボールについて修得したきっかけがあると推察される。
証言者:黒名蘭世
潔世一との関係:ドイツチーム(味方)
潔の裏抜け技術?青薔薇(*ミヒャエル・カイザー)から見取って(注2)進化したから、邪魔してきたけど良い素材、素材。イングランド戦でアイツ(ミヒャエル・カイザー)が邪魔してきた後、潔の動きが進化したな。ネオエゴイストリーグ前の潔についてはスペインの蜂(*蜂楽廻)が一次選考からのチームメイトで二次選考でも組んでいたらしいから、何か知っているんじゃないか?
結果
同じドイツチームのミヒャエル・カイザー(敵&素材)から見取ったと証言が得られた。
スペインの蜂楽廻が一次選考と二次選考を共に組んでいたとの証言が得られた。
注2:
日本には見取稽古というモデルの動きや技を見て修得する練習形態がある。
証言者:蜂楽廻
潔世一との関係:一次選考(味方)、二次選考(味方→ライバル→味方)、U‐20日本代表戦(味方)、スペイン戦(ライバル)
はいは~い!潔の相棒だよ!潔の裏抜け技術についてだって?う~ん、潔は出会ったときから俺の相棒だからなあ。あ、でも、二次選考の時、初めは俺と組んで、凛ちゃん(糸師凛)のチームに負けて俺が奪われて、もう一度潔とのチームと戦ったときはすっごい潔成長してたんだ。だから、俺といない間に何かあったのかも。え?誰と潔が組んでいたかって?え~と、確か千切りん(千切豹馬)と馬狼(馬狼照英)と、凪っち(凪誠士郎)だね!凪っちは初めに潔と俺とも組んだんだよ!千切りんと馬狼はどっちが先に加わったのかわかんない!でも、千切りんは一次選考で同じチームだったから、潔の進化について何か知ってるかもね!
結果
二次選考で、蜂楽廻と初めに組んだ時は未だ裏抜け技術を修得しておらず、次に彼と対戦した時には裏抜け技術を修得していたことから、この間に修得する要因があったと考えられる。
追記3
二次選考は勝ったチームが相手のチームメンバーから1人を指名して強奪できるシステムで、5人になるまでこれを繰り返したという。
証言者:千切豹馬
潔世一との関係:一次選考(味方)、二次選考(ライバル→味方)、U‐20日本代表戦
で、俺の所に来たってことか。残念ながら、俺よりも王様(馬狼照英)の方が先に潔のチームになったぞ。潔の裏抜け技術なあ。俺と戦ったときにはもう身に着けていたんだよなあ。まあ、それまでにも予兆というか、アイツ(潔世一)自身は自覚していなかったけど、能力自体はあったんだよ。あんときの凪(凪誠士郎)から学んだとは思えねえから、王様か王様と組んでた奴となんかあったんかね?そういや、潔じゃねーけど、一次選考の時にそれが上手い奴はいたな
結果
千切豹馬と試合した時は既に裏抜け技術を認識し身に着けていたと証言が得られた。潔世一と凪誠士郎のチームと馬狼照英と誰か(以下、A)のチームで試合をしたときに裏抜けの技術について認識した可能性が高い。
証言者:馬狼照英
潔世一との関係:一次選考(ライバル)、二次選考(ライバル→味方)、U‐20日本代表戦(味方)、イタリア戦(ライバル)
あ?二次選考の潔とクサオ(凪誠士郎)との試合で、アイツが裏抜け技術を修得したかって?…あんとき俺と組んでた奴(A)が、下手くそなりに裏抜けが上手かったということは覚えてるな。俺が言えるのはそんだけだ。
結果
馬狼照英とAとの試合で裏抜け技術を修得したとほぼ確定した。また、Aが裏抜け技術を潔世一に教えた、もしくは見取られたと推察できる。
証言者:凪誠士郎
潔世一との関係:一次選考(ライバル)、二次選考(味方)、U‐20日本代表戦(味方)、イングランド戦(ライバル)
んで、俺の所に来たって訳?はあ~めんどくさ。答えなきゃダメ?…あの時の試合はあんまり覚えてないけど、確かに裏抜けが上手かったおチビさん(A)がキング(馬狼照英)とくんでたね。あのおチビさんが潔に何言ったのかは知らないけど、潔が進化したから、切っ掛けにはなったんじゃない?これ以上は知らないや。あの試合で負けたらBLから脱落するって決まってたしね。
結果
潔世一がAから裏抜け技術をに学習したのは確定した。
証言者:潔世一
え?俺のオフ・ザ・ボールの動き、それも裏抜けですか?二次選考の凪(凪誠士郎)と共に馬郎(馬狼照英)と試合した時に何を掴んだですかって?…そこまで調べているのなら、アイツ(A)の名前は出しませんが答えられる分は答えます。そうですね、あの時は未だ俺は弱くて、あの試合では俺とアイツのどちらかが死ぬのが分かっていて、俺がアイツを喰らって生き残ったんです。別れるときに、アイツが俺の事を適応能力の天才って言ってくれまして、それまでは俺は自分の適応能力について自覚していなかったんです。アイツ凄いですよね。それに、「死ぬまで勝ち続けろ」ってエールまでくれました。俺は自覚した適応能力を武器に、今まで生き残ってきたので、ある意味で今の俺になる切っ掛けですね。それに、アイツから喰らったオフ・ザ・ボールの動きはずっと俺の柱の1つですから。俺はアイツとの出会いを失えませんし、忘れません。一次選考の時も同じチームで、面倒見も良かったですし、人としてはアイツの方が真っ当だなと今でも思います。え?どうして勝ったときに選ばなかったんだって?アイツを喰っちゃったからですね。その時は未だキング(馬狼照英)を喰ってなかったので、キングを選びました。あの時はそれで脱落するってわかってましたけれど、もしも生き残ってたらまたパワーアップしたアイツを喰えたかもしれないと思うと、ちょっと惜しいとも感じます。ああ、馬狼を選んだことに後悔はありませんけどね。
(以下、裏抜け技術とメタ・ビジョンについての体感や技術を教えてもらった。これは別紙に纏めてあるので、そちらを参照して欲しい)
結果
Aが潔世一の裏抜け技術の根幹、または認識に関わっており、また、彼の適応能力について見抜き、言及したことが分かった。
以上より、潔世一の裏抜け技術の習得並びに適応能力には、二次選考のAという存在が強く関わっていることが分かった。また、千切豹馬の証言により、自覚はしていなかったようだが、元々高い空間認識能力は有していたと見做される。このことから、技術自体の基礎はBL入獄前からあったが、自覚することでそれらを意識的に使えるようになり、また、足りない技術を意識して鍛えるようになったことで、飛躍的に能力が向上したと考えられる。
結論として、日々技術を磨くこともそうだが、己の武器が何か、足りないものは何かを理解することが重要だと考えられる。ただし、これらは自力で認知・分析することは周囲や自身の相対的な評価と絶対的な評価の解離からも難しく、外から指摘されることで初めて認識されることが多いと思われるので、Aのように他者を正確に分析して指摘できる存在を見つけることも重要な指標になると考えられる。
また、今回は個人情報保護の観点から二次選考のAと潔世一との試合とその前後の映像は閲覧できなかったが、潔世一の才能を見抜き、開花させる切っ掛けになったAのような人材を見つけるためにも、BLの責任者である絵心甚八殿並びに権限を持つ人間に対して彼の映像を閲覧する許可を申請することにした。
最後に、多くの選手の技術の向上を願って、この報告書はBL責任者他、各棟のマスター達にも提出した。彼らからの教授によって選手がとう変化するのかについても観察したい。
これで、潔世一のオフ・ザ・ボールの内の裏抜け技術に習得についての報告を終える。
「ふわ~眠。今日もバイト頑張りますか、っと」
朝日に照らされた青空を見ると、あの青を思い出す。お金が惜しいのでBLTVを見ていないが、アイツは今も元気にボールを蹴って誰かを喰らっているのだろうか。
「お兄ちゃーん。何かお手紙来てる~」
「ん?俺当てに?」
妹に呼ばれて、その手に振られる封筒に目を向ける。誰からだろうか、全く心当たりがないのだが。前回来たのは、脱落してしまったがあの監獄への招待状だった。
「そう!この前の日本サッカー協会みたいな奴だったりする?」
「はは、まっさかー」