帰り道(潔愛)
「あのさ、気のせいだったらごめんなんだけど」
「んー?」
「なんか俺と歩く時だけ、ゆっくりしてる? 気がするんだけど……」
潔に指摘されたことは事実だった。せっかくの逢引なのだから、できる限り長く一緒にいたいと思うのは普通のことだろう。それくらいのいじらしさは愛空にもある。二人揃ってスポーツマンなのもあって、意識せずに歩くと自然速くなってしまうし、そうでなくても引く手数多な潔を独占できる時間は貴重なのだし。
うん、と肯定した愛空に、潔は頬を掻く。覗き込んだ顔から察するに、女の子と歩くときの癖なのかなとでも思っているのだろう。愛空は女好きだと思われるような振る舞いをしていた自覚があるし、過去の女性関係を隠すようなこともしていない。女性二人との所謂修羅場を見られたこともある。
「俺には気い使わなくても良いよ。確かに、身長差はあるし……お前の方が足も長いけど、置いてかれるほど柔じゃねえから」
体格差に試合中のことを思い出したのか悔しそうな顔をするのに笑ってしまう。潔だって小さくはないのだが、ブルーロックの連中は揃いも揃って体格が良いし、愛空はその中でも特に体格が良いと言われる方だ。
慰めるように頭を撫でるとじっとりとした目で睨め付けてくる。頭上の手を無理やり退かしたりしないのは甘やかされることへの慣れを感じさせた。愛空は身長が伸びるのが早かったのもあってあまり頭を撫でられた記憶がないので、潔の反応は新鮮だ。少し力を入れて髪をぐしゃぐしゃにしてやると潔は自分の頭を撫でつけてもぉ、と言った。
「なんだよ?」
「んや、潔ってそういうとこ鈍いよなーって。気なんか使ってねえよ。お前と少しでも一緒にいたいっていうお兄さんの気持ちは汲んでくれねえの?」
「そう言われると何も言えなくなるだろ」
ふん。鼻を鳴らしてそっぽ向いていても口の端が上がっているのは隠しきれていない。潔の反応は愛空の言葉に好感を覚えていることがはっきりとしていてむず痒い。表情を戻した潔が愛空をチラリと見上げる。
「まあ愛空が好きでやってるなら良いよ。……なんか食って帰らない? お腹すいた」
「お、じゃあ今日は俺が奢ってやるよ」
「まじ?ご馳走様です」
ちゃっかりした様子にこいつめ、とまた頭を撫でる。今度は睨むことなく大人しく撫でられている。むしろ自分から愛空の手に懐いてくるくらいだ。
「おいおいどういう心境だ? さっきは嫌がってなかったか?」
「愛空って大人っぽくてずるいと思ってたんだけど、思ったより俺のこと好きで可愛いから、ちょっとくらい撫でさせてやっても良いかなって」
「……お前は全然可愛くないよな」
せっかく格好つけているのだからそれを引っぺがすような真似をするな。愛空は顔を見られぬよう、潔を撫でる手に力を込めたのだった。