潔カイ
潔は出会したカイザーの顔を見て、隠すことなく嫌な顔をした。にんまりと笑うその顔は世間一般で言うと整っている顔なのだろうが、潔にとっては碌な思い出がない顔だ。
「なあ世一ィ、お前、太ももフェチなんだって? クソ童貞らしいなぁ」
「悪いか」
ほら今だって。妙な絡み方をしてくる。もう潔も慣れてしまっていちいち大仰に反応することは無くなったが、それでもムカつきはする。
別に良いだろ太もも好きでも。わざわざ人のプロフィールのフェチの項目まで読むなんて、暇なのかこのクソ皇帝は? それならサッカーの練習しろよ。俺はそれを喰ってもっと先に行くから。
「いや? 悪くはないな」
「じゃあなんだよ」
「せっかちな男は嫌われるぞ世一。俺はただ……そうだな。女日照りの哀れな世一に少し褒美をやろうと思っただけだ。未だ俺に膝をつかない愚かさは一周回って見事だからな」
嫌味言いに来たなら帰ってくんねえかな。俺も部屋に戻りたいし。潔は面倒な顔を隠しもせず、カイザーの言葉の続きを待った。カイザーが寄越す褒美とやらに興味がないと言えば嘘になる。碌なものではないだろうけど、一緒にサッカーしてくれるとかなら普通に嬉しいし。カイザーのサッカーの実力に関しては純粋にすごいと潔は思っているので。
「俺の脚に触れさせてやろう、世一」
「……」
「どうした? 嬉しすぎて声も出ないか?」
黙り込んだ潔をカイザーが覗き込む。潔はふう、と息を吐いた。何を言うかと思えば。
「男に二言はないぞ……!?」
あんな世界一の振りをする足に触れられるなんて、たとえそれがカイザーのものだとしても嬉しいに決まっている!!
目をキラキラと輝かせて早く部屋行こう、とカイザーの腕を掴んだ潔にカイザーは口角を引き攣らせた。予想外の反応だったらしい。潔のサッカーバカ具合を侮ったカイザーの負けだ。潔は少し胸が空く思いだった。
「ふ、ゥ……」
こんのクソ世一が……!! 確かに触っても良いと言ったのはカイザーだが、加減ってものがあるだろう。普段の遠慮しいなお前はどこに行ったんだ。
潔の反応を見て早まったかと思ってはいたが、カイザーのプライドは自分の発言を覆すのを許さなかった。その結果が今の状態である。クソが。カイザーは悪態を吐いた。
「やっぱ筋肉のつき方も違う……? 人種の違いか……?」
「……ッ」
潔の手がペタペタとカイザーの足に触れる。触れやすいようにとベッドに転がされた時点ではっ倒しておくべきだったな、と思うが後の祭り。流石に大事な商売道具たる足で潔を蹴り飛ばすわけにはいかない。そんなことをしたら貧弱な潔はぶっ飛ばされて最悪大怪我だ。それは避けたい。今後のキャリアにも影響が出る。
抵抗できないカイザーを良いことに、潔は好き勝手触れている。くすぐったくて困る。潔は完全に思考の海に沈んでしまって、カイザーの詰まる息にも気付いていない。屈辱でしかない。
「なあカイザー。お前って体柔らかい? 足ってどれくらいまで上がる?」
潔がカイザーの足をぐっと上げる。カイザーは今だ、と潔の首に足を絡めた。三角絞めのように締めてやる。
「そこまでサービスする義理はない。最後にお前のだーい好きな太ももを堪能させてやるよ」
「え、なに? 怒ってる!?」
「このクソ世一が」
ぎゅうと締めると潔がカイザーの腿をタップする。その必死さに免じて、今回は許してやることにした。
「俺が寛大なことに感謝するんだな、世一」
「もお、なんなんだよ。まあ……勉強になったから……ありがとな」
「クソボケ世一。お前に感謝されてもな。とっとと自分の部屋に帰れ」
お前悪態吐かないと会話できないの? と言いながら部屋を出て行った潔。それを見送って、カイザーはベッドに大の字になる。そして大きな溜息を吐いたのだった。