溺れて、溶けて、最後まで
一目見た瞬間、体に電流が走った。人生二度目の恋だった。
その時ワイはとある廃墟に出向いとった、と思う。経緯は衝撃で頭から吹っ飛んでしもうたけど、任務でないことは確かやった。
自分の体躯を大きく上回る背丈、溶けて崩れたようにも見える濡れた肢体。時折体の一部が水音を立て床に沁みては消えていく。そのすべてが艶めかしさを帯びて、視界に入れるだけで脳内麻薬が駆け巡る。
確かに、渋谷事変の後からこういった欲求は増してきた、あるいは取り戻したと思う。それでもここまで明らかに掻き立てられるのは初めてだった。口の端を伝いそうになる涎の存在に気づいて慌てて飲み込む。
「……ィ…て…」
その呪霊は、口らしき部位から言葉を発していた。ぐちゃぐちゃと雑音が混じり何を言っているのか聞き取れなかったことにどうにも腹が煮える思いがして、改めて耳を澄ます。
「愛…して…」
彼女と呼んでいいのかはわからないがとにかく彼女から、右手と左手であったであろう溶けた物体がこちらに向かって伸ばされる。ワイは何も言わずに、そっと彼女を抱き返す。アバラが何本か逝った気がするがそんなの関係ない。反転で治す。
「なぁ…いつから、ここにおるん」
「……ワか、らなイ。ずっと、ズっと前から…」
自分の問いに答えてくれたその声が、官能的な響きとなって鼓膜を揺さぶる。見た時点でとっくに決心していたことが、早く出せと自分の中で主張している。
その欲望に従って、大きく息を吸って、吐いて、それから喉を震わせた。
「あのな、あんさんがよかったらでええんやけど…ワイと一緒に、来ぉへんか」
「愛する。愛するわ。あんさんが望むだけ、いやそれ以上。未練がなくなっても成仏したいなんて思えないくらい甘やかす。死ぬまで一緒にいたる」
途方もないと思える数十秒間、返答を待っていた。頬を赤らめる劣情には、気づかないふりをした。