渋谷事変ー異聞ー 壱
“現代最強の術師”五条悟の封印。
最悪とも言えるその異常事態を皮切りにして、呪いに包まれ混沌を極める渋谷の街。
その街中を駆け抜ける影が1つ。
露出度の高い服に身を包んだ赤髪の少女。その容姿とは裏腹に、纏っているオーラは只者ではない。
(今の気配…まさかとは思うけど宿儺の……!)
つい先程感じ取った強い気配。その気配の強い方へと彼女は駆ける。
彼女の名は───
「頭が高いな」
その言葉と共に、二人の女子高生と人型の異形の上を斬撃が飛ぶ。
火山のような異形の頭部が斬られ、切断面から紫色の血液が溢れ出す。
「片膝で足りると思ったか?実るほど何とやらだ 余程頭が軽いと見える」
ピンク色の髪の青年───虎杖悠仁に受肉した“呪いの王”両面宿儺は飄々とした態度で嗤う。
「ガキ共 まずは──」
不意に、宿儺の声が止んだ。瞬間、宿儺が立っていた場所に濃密なエネルギー波が大砲の如き速度で着弾する。
「……ほう、五条悟以外にも少しは骨のある術師が居るようだな」
振り向いた宿儺の視線の先に立っていたのはエネルギー波の元と思われる少女。
そう、先程渋谷の街を駆け抜けていた少女である。
「虎杖くん……じゃないですよね。その体、返して貰いますよ」
宿儺か、と呟いた少女───五人の特級呪術師の一人、橘留は宿儺を見据える。
冷たくも真っ直ぐな眼差しを受ける宿儺は、余裕たっぷりに顎へ手を添えて口を開く。
「返せ、か。これは異なことを言う」
クックッ、と笑みを零す宿儺。しかし何をするでもなく異形───大地の特級呪霊・漏瑚の方へ向き直る。
「まあよい。呪霊、オマエは何の用だ」
「用は……ない!」
漏瑚ら呪霊達の目的は宿儺の完全復活。
虎杖の適応が追いつかず一時的に自由を得ているだけの宿儺に、虎杖との間に“縛り”を作らせ、肉体の主導権を永劫得させる。
それが漏瑚のプランだった。が──
「必要ない」
宿儺はそれを切り捨てる。漏瑚も、虎杖でさえも知る由もないが、この時点で宿儺は虎杖の肉体の支配権を得る縛りを結んでいる。
しかし、問題はそこではなく。
「俺に一撃でも入れられたら呪霊の下についてやる」
「手始めに渋谷の人間を皆殺しにしてやろう 一人を除いてな」
不敵な笑みを浮かべ宿儺は言うと共に、それを聞いた橘の頬を冷や汗が伝う。
彼女は懸念している。漏瑚が一撃を入れた、入れてしまった場合、宿儺は呪霊側につく。そうなれば最低でも渋谷の人間は虐殺される。今すぐ、ではないとしても最終的に世界は滅びるというのは想像に硬くない。
つまり。漏瑚と宿儺の両方を相手にしつつ、漏瑚の攻撃の妨害も行わなければならないということ。
「それからそこの女、オマエが俺に一撃でも入れられたらこの体を返してやる」
暫しの沈黙の後、漏瑚と橘が同時に口を開く。
「「……二言はないな(ですよ)」」
22:20 橘留、漏瑚、両面宿儺 戦闘開始