渋谷事変 -日没-
黒い服に、首元から見える赤い襟。少年…虎杖悠仁は、土埃舞う街、否、街だった場所を歩いていた。
虎杖の中で、幾度も記憶が反芻される。色白の赤血操術使いと戦ってから今までの物。それは、呪いの王が、全てを鏖にした記憶。
目に入る建造物の殆どに無惨な切り傷がついている。まるで頭を落とされた魚のように、上部のないものもある。
電光の装飾が施された看板も、きっと煌びやかだったのだろう。今や見る影もない。光なく地面に横たわっていた。
虎杖悠仁が目覚めた時、視界には何もなかった。
球状に削り取られた地面が、大きく口を開けていた。
そこから歩き続けた。跡を、痕を見ながら、後は見ず。
程なくして、渋谷駅へと再び辿り着く。入口の階段を降りていく。
降りていく最中、また記憶を反芻する。
首と、命。両方を落とした無様な呪詛師の二人組。
虎杖は、拳を強く握る。その目に、光は無く。
「ナナミン」
光は。
「虎杖君…」
「後は頼みます。」
膨らむ。弾ける。
血肉を撒く。
残った下半身が、倒れた。
ツギハギの呪霊が、真人がやったのだ。
虎杖の目に、光が灯る。
それを真人は見逃さなかった。真人が何かを言おうとした、その刹那。虎杖の頬に口が現れる。
「ケヒッ。気分は良くなったか小僧。」
「あぁ、お前に独り占めされてイライラしてたけど、今のでちょっとな。」
「一寸だと?贅沢者め。貴様は人間だろう、身の丈にあった幸を噛み締めれば良いのだ。」
真人は理解し、戦慄した。
己が、狩られる側であると。