涙を止めるご飯
妹達ならば言葉をそのまま信じたかもしれないが、生憎一護はもうそこまで幼くはない。
拳西の言葉や皆の態度は檜佐木を知っていると答えたのと同じだ。けれど同時に、そのことについて不用意に踏み込んではいけないのだということも判るくらいには、一護はやっぱり幼くはない。
元々事情があって尸魂界を逐われた連中なのだから言葉にしたくないことがあるのは無理もないことだ―――。
―――――
―――「…………」
「どうした?」
「……いや。作ってくれてサンキュ。いただきます」
並べられた料理を、一護は手を合わせてゆっくりと食べ始める。
仮面の軍勢では料理は主に拳西が担っているらしい。
修行の後に馳走になるのもはじめてではない。大皿のほうが洗い物が少なくて楽なのではと、もう何年も母のいない生活をしてきた身としては思うのだが以前にそれを言ってみたら「お前それだと遠慮するだろ。それに作るのは慣れが必要だから俺がやるが洗うのはそれぞれやらせるから気にすんな」と言ってくれた。
意外と細かいところに気が回るんだな、と生意気かもしれないがちょっと感心したのはつい先日だ。
(それにしても……)
「拳西って南瓜を素手で割るとか聞いたんだけど、あれ、嘘だったんだな?」
「は?それ言ったの白か?まあそれは嘘じゃねぇが、何だよ?」
「え?そうなのか?俺の偏見かもしんねぇけどそういうことやる奴にしてはなんていうか、料理が繊細だなと。特に見た目とか…。今日のこれなんて、それぞれの皿に乗ってるけど、これがもしワンプレートに乗ってたらまんまお子様ランチじゃん?」
さっき食べる前に一護が一瞬黙ったのはだからだ。
もちろん量は全然違う。
でもメインはオムライスで。別皿に大きなハンバーグ。そのサイドにサラダ。その中にはわざわざ型抜きされた人参やきゅうり。スパゲティと、ウィンナー。このウィンナーも何故か飾り切り。そして今冷やしてるということでここには出ていないが、先程料理を並べながら「プリン冷やしてるから帰る前に食ってけ」とかいわれたのでデザート付きだ
「味は美味いからマジ感謝なんだけど、オレそんなに餓鬼に見えるか?…いや実際全部好きだけどさ…。ていうかそんなに修行上手く行かなくて落ち込んでるように見えて心配させちまったか?」
何気なく言いながら拳西を見ると、『さっき』と同じように拳西が驚いたような顔をした。
ああ、そうか。
全然理由はわからないけど、解った。
「……俺たちは100年以上生きてんだからテメェなんてそりゃまだまだ餓鬼だろ。あと単に、すぐにエネルギーになりやすいもん詰め込んだだけだよ…」
「…うん、そっか。サンキュ。………なぁ拳西、」
「うるせぇな、何だよ」
「これマジで美味いからさ、……全部終わって落ち着いたら、俺じゃなくて他の奴にも作ってやれよ…。平子達が嫌なら、これ喜んでくれそうな誰かにさ」
「そんな餓鬼みてぇな奴、俺の周りにはもういねぇよ……。」
ふい、と顔を背けた拳西に、一護は何も言えなかったけれど、百年前はきっとルキアや恋次も子供だったことはなんとなくわかる。
それと同じように、名前しか知らないあの人も。
ほんとうに、泣いてる子供がいたらすぐ泣き止みそうなメニューだな…とそう思った。