ぬいぐるみの目からは涙は出ない

ぬいぐるみの目からは涙は出ない

ホビルカIF書き

グリーンビット前にて

ホビルカIF 先行潜入√

三毛猫のぬいぐるみ→オモチャの兵隊さんとの出会い→これ



(兄さまの無事を確認したら会わずにすぐ戻るつもりだったんだ…。)



「ドフラミンゴ七武海脱退、ドレスローザ王位放棄」の文字が躍る新聞のせいで今朝からドレスローザは大混乱だった。

まぁそれよりもぼくが気になったのは兄さまと麦わらの同盟のほうなんだけど。連絡は受けていたけどまさか新聞にスッパ抜かれるなんて。

また面倒なことになったなぁ…。なんてため息をつく。


新聞を読みながら今後のことを考えていると、「副隊長、報告れす。偵察部隊から東の海岸にサニー号とおぼしき船が停泊しているとの情報が!」


やっと兄さま達がドレスローザに到着したみたいだ。

報告をくれた小人にありがとうとジェスチャーで返し、ぼくはおもむろに立ち上がった。


【確認したいことがある 少し席を外す ルカ】


そう書き置きを残し本部を抜け出す。作戦が変わっていなければ、兄さまはグリーンビットに向かうはず…。

焦燥に駆られぼくは走り出した。


グリーンビットへ続く橋を見渡せる物陰に隠れて兄さまが来るのを待つ。


そろそろ足がしびれてきたなー、なんて綿しか詰まっていない足を擦っていると、あまりにも目立つ4人組がぼくの前を横切った。


兄さまに同盟を組んだと連絡を受けてから、麦わらの一味の顔と名前は一通り目を通しておいた。

いま一緒にいる長い鼻の彼はウソップ、スラリとした黒髪の美人はニコ・ロビン、そして兄さまと、…消去法であの大柄な男がシーザーってとこかな?


それにしても兄さま変装が雑すぎじゃない?付け髭にサングラスって…せめて前は閉じて、刺青は隠して欲しかったな…。

(あれ…兄さまってこんなにアホだっけ?)

数週間振りに見た兄の変わりように首をかしげる。


そんなことを考えていると4人はグリーンビットに続く橋を渡ろうとしているのが見えた。影から見るだけと決めてきたのに体が勝手に動いた。

気付いたときには兄さまの長い足に抱きついていた。



「──っ!?…なんだ?…おい、離れろ!」


うしろからの突然の衝撃によろめく、ぬいぐるみにタックルされ流石のローも驚きを隠せない様子だ。必死に足にくっつくぬいぐるみを振り払おうとする。


(兄さま!ぼくだよ。ルカだよ!)


ぼくは振り落とされない様に、さらに強く足にしがみつく。

兵隊さんも言ってたし頭ではわかってるんだ、ぬいぐるみ姿のぼくを見ても存在自体を忘れている兄さまが、気付いてくれるはずがないって事は…。でも兄さまを見たらジッとなんてしてられなかった。


攻防を繰り広げていると痺れを切らした兄さまの手が、ぼくの首根っこを掴み、無理矢理足から引き剥がす。

ぷらーんと宙吊りになり4人の目線がぼくに刺さる。


「「「「ぬいぐるみ…?」」」」

「なんだァこいつ?トラ男の知り合いか?」

「いや、おれにぬいぐるみの知り合いはいねぇし、この島に来るのも初めてだ」

「あらカワイイ」

ぼくから目を離さずに会話をする一同。


「おい…なにもんだテメェ?何のためにおれたちに接触した」

「言え!」と兄さまが声を荒げる。取引前で気が立っていたのかもしれない…。

兄さまの手に力が込められ、ぼくの首が締まる。

ぬいぐるみ姿だからそれほど痛みは感じないが、ギリギリと兄さまの指が顔にめり込み、可愛らしい猫の顔が歪に潰れる。


すると突然兄さまの腕から手が生えてきてぼくを優しく抱きかかえる。


「トラ男くんやり過ぎよ、かわいそう」

ぼくを抱きかかえている手はロビンさんの能力によるものだったらしい。そのまま地面に降ろされたのでお辞儀をして感謝を伝える。

「お礼なんていいわ。わたしが見ていられなかっただけだから」

「あら?そのアップリケ…。L.U.K.A.ルカ…貴方の名前かしら?」


ロビンはしゃがんでぼくと目線を合わせながら優しく問いかける。


こくこくと頷き名前を叩き胸を張る。


(ルカです!兄さまの弟です!)

たぶん伝わりはしないけどもう意地だ。


「いい名前ね。覚えておくわ」

「おい!こんなことしてる場合じゃねェ。少し目立ちすぎた、早く行くぞ」


兄さまのひと声に周りを見渡すと「ねえあれ、人間病かしら?」「通報したほうが…。」などとヒソヒソと話す声が聞こえてきた。


(まずい…)

急いでオモチャの振りをする。その場でくるりと1回転、そしてぺこりとお辞儀をする。顔を上げたときチラリと兄さまの表情を伺ったときヒュッと息が詰まった。


眉間には深くシワが刻まれて、警戒した目でぼくを睨みつける、そして不審な行動をすればいつでも切り刻めるように鬼哭に指が掛かっていた。

ぼくはバイバイと、手を振り急いでその場から逃げ出した。


(兄さま怖い顔して睨んでた。本当にぼくのこと忘れちゃったんだ……)


兄さまに忘れた事実をまざまざと見せつけられ、胸の柔らかい場所がジクジクと痛む。


(大丈夫…きっと思い出してくれる。だってぼくの兄さまだから…)


トラファルガー・ローの弟である。と、ぼく自身が忘れてしまわないように、大丈夫、大丈夫と何度も言い聞かせる。

ボタンで出来た瞳から涙が出ることはなかった。

すっごく苦しくて寂しいけれどもう少しの辛抱だ、SOP作戦を成功させればきっと…。

そう強く決意を固め、ぼくはドレスローザの町を駆けた。


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