海列車戦
ウソ…そげキングと共にオクトパクツという吸盤付きシューズを使い海列車の壁面を渡っていく。
第四車両の変なコックはサンジが相手をし、そしてフランキーは海列車の上からロビンの元を目指しているはずだ。
壁面を渡る途中で第二車両を覗いた。四人の男女が見える。きっとあいつらがゾロが言ってたヤバい奴ら、CP9だ。バレない内にそそくさと通っていく。
そしてそげキングはロビンがいる車両へ、私は仕込みのために更に前へと進んでいった。
仕込みを終えた私は屋上に登り、そのまま後ろの車両へ歩いていく。
勘づかれないようにゆっくりと。
第二車両の真上、微かに声が聞こえた。聞いたこと無い声、おそらくCP9の誰か。
「あの女が死ぬことになって本当に良かった」
聞こえた言葉にカッと血が上る。間違いなくロビンのことを言っている。ロビンのことなんて何も知らないくせに、そんなことを。
ランスをマイクスタンドに変え、穂先を私が立つ床、海列車の天井へ向ける。
今ここで槍の穂先を突っ込んで歌えば、マイクからの音が船内に響く。
これで勝ちだ!
そして息を吸いながら槍を振り下ろした瞬間
「まだ客がいるらしいな」
その声と共に私が立っていた天井が切り裂かれた。
「なっ…」
不意打ちに対応できず切り裂かれた穴から海列車の中に落ちていき、遅れて「嵐脚」と鳩を肩に乗せたCP9が呟いた。
「ウタちゃん!」
「くっ…ごめん!失敗した!」
サンジとCP9の間に落下する。サンジが心配する声に大丈夫だと示すために、すぐに体制を立て直して槍を構えた、そこへ突然第一車両側から声が聞こえた。
「おいおい待てロビン!そっちへ行ったら!」
止めようとしているそげキングを引きずるように、ロビンが出てきた。
「ロビンちゃん!」
「ロビン!」
思わず名前を呼ぶ。そげキングの説得が成功したんだろうか?とにかく、無事な姿を見て安心した。
「よかった無事なのか、ケガは!?何もされてねェか!?コイツらすぐぶちのめすからよ!一緒に皆んトコ帰ろう!」
「ルフィ達も皆待ってるよ!!一緒に帰ろう、ロビン!」
サンジの言葉に続いて私も思いを伝える。
「何てこったー!せっかく外から回り込んできたのに!せっかく役人倒したのに!」
「アレがニコ・ロビンか…確かに手配書の面影があるな…」
そげキングの叫びとフランキーの声が聞こえた時だった。
「えっ」
困惑の声と共にそげキングがこちらに飛んできた。
「うげェっ!」
「ウソップ!!」
床に打ち付けられた姿に思わず本名で声をかけると、すぐにサンジがロビンへ問いかけた。間違いない、ロビンが投げたんだ。
「ロビンちゃん…何すんだ!?」
「口で言ってもわからないでしょ…?」
「ロビン…?」
予想と違う様子に私も思わず戸惑いの声を上げる。
「ハッハッハッ…」
鳩の男がこちらをあざ笑う声が響く。
その時だった。
「フランキー君!第三車両を切り離したまえ!」
そげキングが叫んだ。
「は!?何すんだよ!」
「逃げる!」
「逃げる!?」
フランキーの戸惑いの声にそげキングが即答する。余計に戸惑うフランキーを見ながら、私は先ほどの仕込みと打ち合わせを思い出しすぐに第三車両へ向かう。
「フランキーは逃がすな!」「ああ」とCP9の会話が聞こえる。
「おいどういうこった!」
「君も急ぎたまえ!勝負は一瞬だ!打ち合わせ通り頼むぞウタ君!」
「うん!」
フランキーと同様に疑問の声をあげながらも第三車両に向かうサンジにそげキングが短く指示を出した。
そして私はそげキング以外が第三車両に入った時、“仕込み”を発動させた。
その瞬間、急ブレーキをかけたように海列車の速度が一気に落ちる。
身構えていた私とそげキング、切り離しのため座り込んでいたフランキーとサンジと違い、CP9は大きくその体制を崩した。
「なっ…」「何が!?」
「機関室にいた役人は!とっくにウタワールドに招待済みだよ!!」
困惑するCP9に自分がやった仕込みを告げた。そう、急ブレーキをかけたようにじゃない、本当に急ブレーキをかけさせたのだ。
機関室にいた政府の役人でもある機関士、彼は今ウタワールドにいる。その体を今は私が操作し、海列車を無理やり止めるように操作させていた。先ほどの仕込み、機関室に押し入り耳元で歌うことで機関士のみをウタワールドに入れ海列車の操作権を奪う。その作戦は大成功だ。
さすがに一般人なら巻き込めないが、別れる前にフランキーにはこの海列車に乗っている人全員が政府関係者なのは確認済みだ。なら容赦はしない!仲間の命も懸かってる状況ならなおさらだ!
「ウタワールドじゃと…!?」
「“そげキーング!!”」
私の言葉に驚きの混じった声を長鼻のCP9があげる。私に気が逸れたその瞬間、こちらの長鼻、そげキングの声が響いた。
「“煙星(スモークスター)”!!」
それと同時に列車内に煙幕が広がる。「何て下らんマネを!」と声が聞こえるが、急停車で体制を崩したうえに煙幕を張られたCP9に大きな隙が出来た。
その隙があれば——
「ニコ・ロビンは頂いたァ!」
「よっしゃー!!」
「逃げろー!!」
そげキングがロビンを肩に担いで第三車両に飛び込む。
それと同時に私は機関士に先ほどとは真逆の操作、海列車の全速力を出させた。
「エニエスロビーにはアンタ達だけで行って!!」
私のその言葉と同時に、私たちがいる切り離された第三車両を残し、海列車は一気に前へ進んでいく。
「やった!ロビンを取り戻したぞ!!」
「おっどろいたぜ!こんな逃走作戦を考えてたとは!」
「すごいでしょ、そげキングの案だからね…!」
フランキーに答えながらランスを支えに立ち上がる。
結構な時間、機関士をウタワールドに入れているため既に眠気が襲ってきている。
それでも、今解除させるわけにはいかない。
なんとか気力で目を開く。
「あんな恐ろしい奴ら、闘わずに目的が果たせるならそれが一番だ…!」
「だがそう簡単にいくかどうか…」
「ああ、車両が完全に離れるまで気ィ抜くな。その辺の雑魚とは違うんだ」
「とにかく全速力で走らせてるから、すぐに離れるはず…」
そげキング、そしてサンジとフランキーの言葉に私が続ける。
今も私の操作によって海列車は加速中、もう少しで完全に離れるはずだ。
しかしそう思った瞬間、何かが前方の海列車から飛び出し、第三車両に当たると同時に、減速していた車両が突然加速を始めた。
「トゲの鞭!?」
見ればトゲの鞭が海列車から伸び、第三車両に絡みついていた。
「伝って来る気か!?鞭を切れ!」
「分かった!」
フランキーの言葉に槍を振り上げ鞭を切ろうとする。
しかし、車両は更に加速し叩きつけられるように再び第二車両に追いついた。
CP9の誰かが、鞭を列車ごと引き寄せたらしい。
「引き戻されたああ!!」
「何ちゅうパワーだ!」
そげキングとサンジが叫ぶと同時に、「煙幕とはつまらねェマネを」と言いながら、まるで連結部代わりのように牛のような髪型のCP9が両車両を掴んだ。
「やっぱ無理あったか…そげキング!ロビンちゃんは死守しろよ!」
「お…おう!」
サンジがCP9に向かう中、私はすぐには向かわずチャンスを窺う。
「せっかく引き寄せたトコ悪ィが…その手離してもらうぞ!」
「”鉄塊”」
サンジが蹴ろうとした瞬間に牛のCP9が何かを呟いた。そしてあろうことか、あのサンジの蹴りを微動だにせず耐えきった。
「なんだこの硬さ…!」
「妙な体技を使うと言ったろ!」
驚くサンジにフランキーが叫ぶ。
まだだ、もっと確実なチャンスが来る…!
「へェ」とサンジが言うと同時に右手を軸に高速で回転し…
「“粗砕(コンカッセ)”!!」
更に強烈な蹴りを食らわせ、CP9の体が揺らぐ。
「ブルーノ!ナメてかかるな!賞金は懸かっておらんがおそらくそいつも主力の一人じゃ!」
長鼻のCP9が声をあげ、その場にいた人達の意識がサンジに集中した。
今だ!!
私は短く息を吸い歌おうとし——
その瞬間、誰かに口を塞がれた。
視線を落とすとその塞いだ手は私の体から生えていた。
こんなことが出来るのは一人しかいない。
(ロビン!?なんで…)
すぐに引きはがそうとするがその私の両手も新たに咲いた手で動きを止められる。
戸惑ったが、それでも何もしないわけにはいかない。
歌えないなら、せめてこの列車の速度を落として、ルフィ達が追いつけるようにしないと…
そう考え機関士にまたブレーキをかけさせようとしたが、新たに咲いた何本もの腕が絡み、締め技のように私の首に掛かるとすぐに意識が遠のいていく。
(ロビン…)
声に出せずとも必死に手を伸ばしながらロビンの方を見る。
意識を失う直前に見えたのは、歯を食いしばり辛そうな表情をするロビンだった。
ゆっくりと目を開ける。
そこにあったのは見慣れない天井。
何があったのか思い出そうとし…最後に見たロビンの顔を思い出した。
「ロビン!」
叫びながら飛び起きる。
その視界に見えたのは傷ついたサンジとウソップ、そして先頭車両に続くハズの場所は壁がなくなり、海が見えていた。この車両も止まり、波に揺られている。
「ねェ…ロビンは…?それにフランキーも…ねェ!何があったの!?サンジ!!ウソップ!!」
私の問いに二人ともが俯いて答えない。
私が倒れた後に何が起こったのかは分からない。
ただ分かったのは、私たちは負けたということだった。