海兵なら正直にいってくれ
ばちゃんと水音がする。
荒れ狂う波がすぐ横で舟を舐めていく音だった。お前らなんぞいつでも飲み込めると言われている気がして、指の感覚が無くなりそうになるほどきつく拳を握りしめた。
航海の最中に遭遇した大嵐で、幾度か海水を被って首から上はびしょ濡れだ。胴体はがっちり巻かれた毛布と厚着のおかげで濡れずに済んでいるが、連日続いている高熱のせいで思考にはまとまりがない。
「ロー」
長い腕が自分を抱え直す。大人の、それも平均をはるかに外れた長身を持っているコラソンの体に抱き込まれて、波に揉まれる浮遊感で落ち着かなかった体はようやく安定を取り戻した。
自分がこの大嵐の中でも濡れネズミにならずに済んでいるのは、コラソンの体に庇われているからなのも大きかった。
能力者の弱点は海水だと聞いたことがある。悪魔の実の力を得る代償として海に嫌われ、海水や海の成分を凝縮した石に触れると力が抜けるという。
こんなに間近に海水がある状態でコラソンも無事ではいられないだろうに、自分を抱き込んでいる体から力は抜けない。目の前の大人の体はしっかりと自分を捕まえていた。
その腕の力強さは知っている。かつて何度も強くぶたれたおかげで、文字通り身をもって知っていた。力強くも、ローが痛みを感じないよう力任せではなく加減されている。
水と風と暗闇の中でコラソンの存在だけが自分を脅かさずに存在していた。コラソンの意思の強さが自然の脅威から自分を守っている。必ずローを助けると、何度となく繰り返された旅路の目的をコラソンは強く掲げて真っ暗な海を突き進む。
全てはローのためだった。疑う余地もなくコラソンは自分のために全てを賭けていた。
だから十分だと思ったのだ。やってられるかとこの海に放り出されても、あるいはいつものドジでうっかり投げ出されてももうコラソンを恨む気はなかった。このまま死んでも彼のせいにしない。
長引く熱に、珍しく気弱な思考を辿るローはコラソンの献身にひとつの報いを思いついた。
肯定が返ってきたら「お前の世話になんかなるか」と言えるよう、解放するための言葉を整える。
「『政府』は……おれ達が死ぬことを知ってて……金の為に珀鉛を掘らせたんだ……」