海兵と歌姫と歌う骸骨
このssにはキャラ崩壊・設定捏造が含まれます
ご注意ください!
part7:希望を我らに
「夜明歌クー・ドロア!!」
木々が穿たれる。
「酒樽舞曲ルミーズ!!」
地面が砕かれる。
「「革命舞曲ボンナバン!!!」」
その使い手ごと、剣と剣がぶつかり合い、衝撃が森全体を震わせた。
ぶつかり合う剣は、まるで曲を奏でる楽器のようで、その戦いは、正しく剣劇。
二人の決闘劇を、ルフィたちも固唾を呑んで見守っていた。
「ヨホホ、これはこれは…。見違えるようですね。影一つ取り込んだことで、こうも変わるとは。」
「ヨホホ、あんなに素敵なお嬢さんが力を貸してくれるのですからね、当然ですよ。…だが、それだけでは無い。」
勝負を互角まで引き戻されて尚余裕をみせるリューマに、ブルックは…揺さぶりをかけた。
「…まだなにかあるとでも言うのですか?元ご主人…。」
「白々しい演技はおやめなさい。貴方もわかってるはずです。私に勝利を運んでる力は、ノシシさんだけではありません!
彼女の魂の安息を願う、ウタさんの歌…音楽の力が貴方を「もう結構!」」
ブルックの言葉を遮ったリューマは、剣を鞘に納める。
降参したわけではない。決着の為の構えだ。
「歌劇じゃあるまいし、これ以上言葉は不要。これで終わりにして差し上げます。」
「ヨホホ、望むところ!」
ブルックも全く同じ構えをとる。
その構えから繰り出される技の名は、"鎮魂歌ラバンドゥロル"。
かつてある王国の奇襲部隊に所属していたブルックが得意とした速斬りの技である。
その剣技を称賛した仲間たちは、親愛の情を込めて、こう呼んだ…。
「鼻唄…」
両者が互いに歩み寄り…
「三丁…」
そのまますれ違い…
「「矢筈斬り!!!」」
暫く歩いた後倒れたのは………侍だった…。
「「「「「やったぁっ!!!!」」」」」
仲間の勝利を祝う歓声が、森中に響き渡るのだった…
倒れたリューマの元へ、ブルックが歩み寄る。
「…ヨホホ、お見事です。できれば、五年前にこれくらいの意地を見せてほしかったものですが…」
「ヨホ、これは手厳しい…。まあ、そう言われても仕方ないですね…なんせ、貴方がアフロを避けて戦ってくれなかったら、負けてたのは私の方でしょうから。」
リューマは、途中からブルックのアフロを傷つけないように戦っていた。
守って戦うには大きすぎるアフロ、しかしそれを避けて戦おうとすると…
「本当ですよ、邪魔で仕方ありませんでした。まあ、貴方にとっては命同然の物でしょうからね。気を使って差し上げました、ヨホホホホ。…はあぁ。」
リューマは敗者には似つかわしくない笑い声をあげるのもつかの間、深くため息をついた。
「見えちまったんですよ…お嬢さんの歌を聴いた時。歌を歌う海賊団と、嬉しそうな鳴き声をあげる、カワイイカワイイ子クジラの姿が…。
これが音楽の力ですか…大したものです。…こんなにスゴイものなら、私も一回くらい歌えばよかったなぁ…。」
「……まったく、何を言うかと思えば…。」
そんなリューマの眉間を、ブルックはコツんとつついた。
「貴方は私なんですよ!?一回どころか、これから嫌って程に歌えますよ!!」
「ヨホホ、それは楽しみだ…。…"私"、一つ頼みがあるんですが聞いてもらえますか?」
「…なんです?言ってごらんなさい。」
手に持った刀を、もう一人の自分にリューマは差し出す。
「黒刀"秋水"。モリアがワの国から、この身体…リューマさんと一緒に盗み出した刀です。これを、ワの国に返してきてほしいんですよ。
何故か、この刀はワの国の人たちにとって大切な物のような気がしてならないのです…。」
「ワの国ですか…それはまた、随分と遠い所ですね。うわっ重っ。」
リューマから渡された秋水を、なんとか受け取り、腰に差すブルック。
ワの国、偉大なる航路後半の海である新世界の奥にある島国。
50年間、この霧の海で足踏みしていたブルックからすれば、はるか遠い場所であった。
「ヨホホ、なぁに。決して不可能な話ではないでしょう。わかりますよ、なんせ私は貴方なんですから!」
「簡単に言ってくれますね、…わかりました。黒刀秋水、確かに預かりました!」
「頼みましたよ…我がご主人……。」
先ほど自分が言った言葉を返されたブルックは、新たに自分と約束する。
その言葉に安心したかのように、リューマは再び眠りにつき、その身体から影が抜き出てきた。
自らに戻ってこようとする影を、ブルックは手に取って捕まえた。
「ようやく戻ってきましたね、私の影。本当に、待ってましたよ…けど、帰ってくるにはまだ早いです。」
そう言うブルックの身体からも影が出てくる。ローラの影だ。
もう片方の手で、自分に勝利を掴ませてくれた友達をそっと握る。
そのまま、ルフィの方に向いた。
「ルフィさん…、私とノシシさんの影も使ってくれませんか…きっとお役に立ちますので。私たちの数年間を、あの海賊にぶつけてほしいんです。」
ブルックの言葉を聞いたルフィは、ローラの顔を見る。
ローラも力強く頷いた。
「任せろ…モリアのやつは俺がブッ飛ばす!!!!」
「…ルフィ、大丈夫?気分悪くない?」
「ああ、俺は大丈夫なんだぜ…。」
「ねえ!これ大丈夫なの、ローラ!?」
「まさか、102体も影を入れるとこうなるなんて…私らは2~3人が精いっぱいだったから…。」
心配するウタに返事を返すルフィの口調はいつもとは違う…その様子にローラも戸惑いを隠せなかった。
しかし…
「と、とにかく!モリアの奴を倒す準備は整ったわ!さあ、モリアに悪夢を見せてやるのよ、ナイトメア・ルフィ!!!」
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!』
雄たけびを上げて駆け出すルフィ!
「「「いや、待って!そっちじゃな~~~い!!!?」」」
…逆方向に……
『…リューマのやつ、なにやってんだ…?苦戦するような要因は無いはずだが…。』
その頃、モリアはオーズの影と同化したまま、待機していた。
欠片蝙蝠を偵察させて見つけたルフィたちのところへ、自分の次に強い戦力であるリューマを派遣したのだ。
身体能力ならルフィにも負けず、塩を飲み込まされるような隙はみせず、海楼石の耳栓でウタウタの能力も無効化。
負ける可能性といえば、身体を完全に破壊されるくらいである。
『まあいい。仮に負けたとしても、あの海兵も無傷では済むまい。リューマの身体はホグバックに直させるさ。』
「その海兵っていうのは、俺のことなのかだぜ!」
独り言を呟くモリアに話しかける人物。
それは、背中に剣を装備し、上半身を中心にビルドアップした青白い肌の大男だった。
『…なんだお前は?ゾンビは地中に埋まっているように命令を出したはずだぞ!』
こんなゾンビいたっけか?と思いながら命令するモリアだったが
「モンキー・D・ルフィだぜ!!」
『なんだと!?』
この青白い大男は、自分が探している海兵の名を名乗った。
よくよく見てみると、面影があるような気もする。
(こいつ変身能力もあったのか?!…まあいいっ!)
『的がでかくなっただけだ!!!』
なんにせよ、目標の方からやってきた。
モリアは巨大な拳を叩き込もうとして…
ドンッ!!
片手で受け止められた。
『なっ!?』
「今度は…こっちの番なんだぜ!!」
初戦と同じように、ルフィがオーズモリアに飛び掛かる。
(攻撃なんか効かねぇ!オーズは死体で、今の俺は実体のない影なんだ!!)
防御どころか構えることすらしないオーズモリア。
そのまま攻撃を喰らい…吹っ飛ばされた!!
『ぐがぁっ!??』
巨大なオーズすら吹き飛ばす衝撃がそのままモリアに…"痛み"を伝える。
(な、なんだっ!?今、"痛かったのか"!!?)
混乱するモリアに、ナイトメア・ルフィの追撃が襲い掛かった。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」
倒れたオーズを更に投げ飛ばし、その背中を覆う長髪を掴んで振り回す
『ぐわぁぁああああああああ!!!?』
先ほどの痛みは気のせいではなかった。千切れそうな痛みがモリアの全身に走る。
「おりゃぁああああっ!!!」
城の壁に叩きつけられるオーズモリア。
予想外の事態に、モリアは完全に混乱していた。
(何故だ!?何故、痛みを感じるんだ!!?)
「うおおおお!!見ろぉっ!!希望の星が巨大死体兵をブッ飛ばしてるぞぉ!!!」
「凄いわよ!!結婚したいわ!!」
「だからそれは駄目!がんばれ~~!ルフィイイイッ!!!」
(あいつらは…負け犬の森の…!)
そこにウタ達が駆け付けた。皆声を張り上げてルフィを応援している。
「俺たちが捕まえてきた影が、希望の星に力を与えてるんだ!!」
「俺たちの数年間は無駄なんかじゃなかったんだぁっ!!」
(つかまえたかげ……影だとっ!?)
自分たちの努力が実ろうとしている現実に涙を流す被害者の会たち。
そんな彼らの言葉に、モリアは注目した。
(あの姿は影を取り込んだからか!だがそれだけでは今の俺にダメージを与えた理由にはならねぇ!
影を取り込んだだけ、で…まさか!?
影を取り込んだことで、一時的にカゲカゲの能力を身に着けたってのか!?)
今ルフィに入り込んでいる影は、元々は自分のカゲカゲの能力で実体化させたもの。
それによって、実体のない影である今の自分にダメージを、痛みを与えていたとしたら…
「やれぇぇええ~~~!希望の星!! 俺たちの影でモリアをブチのめしちまえぇぇ!!」
『ッッ!!ふざけんなぁあああああっっっ!!!!』
「うわぁあっ!?こ、こっちに来たぁあ!!?」
今まで負け犬と蔑んできた奴らによって、王下七武海である…未来の海賊王を目指す自分が敗北しようとしている。
その事実が、モリアから完全に冷静さを奪った。
逆上した勢いのまま、被害者の会とウタたちに襲い掛かる!
「お前の相手は…俺なんだぜ!!!」
それをルフィが止める。両腕を捩じ巻きながらオーズモリアの首を掴んだ。
「ゴムゴムのぉぉぉぉおおおおおお…!」
そのまま、巨大な敵を、頭上高々と振り上げて!
「"隼大槌(ファルコンハンマー)!!!」
獲物を狩る猛禽類の如き速さで地面に叩きつけた!
『くそったれがあああぁぁぁっ!!』
今度は怯まず立ち上がり、大きく足を振り上げるオーズモリア。
その重量を使って叩き潰すつもりだ。
それに対しルフィは、背中の剣を握る…
『潰れろぉっ!!海兵ぃっ!!』
「鼻唄三丁…」
紙一重で攻撃を回避し、すれ違う…その瞬間
「矢筈斬り!!」
『ぐがぁっ!??』
「うおおおおお!ルフィさぁぁ~~~~ん!!!」
オーズモリアの巨体が大きく袈裟斬りにされる。
早速自分の影が力になったことに、ブルックが涙を流して歓喜した。
ダメージで身体が限界にきたのか、その場に膝をつくオーズモリア。
「すぅぅぅうううううううううううっ!!!」
そこにトドメの攻撃をかけるナイトメア・ルフィ。
身体が膨らむほど大きく息を吸い込み、身体を捩じ上げ、一気に吹き出す!
「ゴムゴムのぉぉぉぉおおおおおお…!」
そのまま回転しながら突撃を仕掛けた!
「"渡烏暴風雨(レイブンストーム)"!!!!」
嵐の海にも、負けることなく飛び続ける渡り鳥の如き乱撃が、オーズモリアの全身を貫き、城壁に叩きつけた!!
『ぐっ‥‥‥‥あぁ…!』
全身の肉を貫かれ、骨を砕かれ、巨大な死体兵は、完全に沈黙した。
『やぁぁぁぁあああああったあああぁぁぁぁぁ!!!!』
遂に元凶が倒された、その戦いを見守っていた全員が歓声をあげる。
「ぐ、ううぅぅぅぅぅ…」
そんな中、ルフィの身体から数多の影が抜け出ていく…
そのほとんどが霧の向こうへと消える中、二つの影だけが自分の本体の元へと戻っていった。
「…お疲れ様、"私"。おかげで助かったわ…。」
「ヨホホ、カッコよかったですよ…。」
自分たちの無念を晴らしてきた影を、二人の男と女が労うのだった…。
To Be Continued