海へ行こう

海へ行こう


『獲ったどーー!!』

「「「おおー…」」」

自室で簡単なデスクワークを済ましてリビングに行くとアイとルビー、珍しくアクアも感心した表情でTVを観ていた。

特徴的なセリフからおそらく海で素潜りして魚達を仕留める番組だろう。

「アクアが感心した表情で観てるなんて珍しいね。何か面白いもの仕留めてた?」

「ウツボを数匹仕留めてアワビ採取してた。漁業権的に大丈夫なのか?とか思うけど話通してるよな?流石に」

「通してるよ。だけど昔毎回話通していたのにやり忘れたADさんがいて、漁業組合に滅茶苦茶怒られたことあったらしいよ?

だからある年を境にロケ地変わってたりするんだ」

「「「そうなの⁉︎」」」

アクアだけじゃなくて、ルビーとアイも食いついてきた。

「らしいよ?前に社長とこの番組のPと食事した時に聞いたし」

人間にはうっかりミスが付きもの。それが何を齎すかはその時のうっかり具合次第だけど。

「大変だっただろうねー…私もうっかりしているから他人事に出来ないよ」

「「本当にね(な)」」

「アクアもヒカルもひどーい!大黒柱は大事にしなきゃ駄目なんだよ⁈」

「ラジオでうっかり『ウチの子』て言いかけてたよね?収録中びっくりしたよ」

「復帰した番組でも子猫ということにして誤魔化してたよ母さん」

ちなみにだが現在アイのWikipediaには「子猫のアクアマリン、ルビーを飼っている」と記載されている。

「それは…うん、ごめんね?⭐︎」

バチン☆と綺麗なウィンクが決まり僕たちは…

「「許します」」

ウチの奥さん、アクア達の母は可愛い。頑張り屋さんなのだから許す一択のみ。

「やったね♪」

「けど海いいなー…行きたないなー」

「今度行くかい?僕とアクア、ルビーならまだ都合つくけど」

アクアは現在子役の仕事を少し減らし気味にして五反田監督の下で演出面の勉強の時間を増やしている。以前よりは予定が立てやすくなっているので遊びに連れて行きやすいところはある。

「ママも一緒じゃないとダメだよ

3人もきっと楽しいけど、家族4人じゃなきゃ」

「ルビー…嬉しいけど、海だとママも変装が難しいし、アイだと分かってしまうリスク高いからパパとお兄ちゃんと行って?

ママのこと考えてくれたことだけでも私は嬉しいよ」

「ママ…」

ルビーだって本当は分かっている。分かっているのだが、海やプールと言った場所にはアイも一緒に楽しむ、ということが出来ていない。どうしても露出が増えてしまうので彼女1人ならまだしも家族で行くと秘密が明らかになりかねないリスクがある。

一緒に行ってもアイだけプールサイドや海岸で待機ということになるのでいつしか家族4人で出掛ける場所から外すようになって行った。

(ルビーは家族4人揃ってのことが好きな子だから…父としても夫としても何とか叶えたいところではあるんだよね…)

しょんぼりしたルビーを抱きしめるアイと頭を撫でて慰めるアクアを見て思案する。

…社長に相談してみよう。いい考えがあるかもしれない。

翌日、早速社長に下半期のアイのマネジメント計画についての書類を提出して昨日のことをかくかくしかじか、と相談する。

「海に行きたい?行きゃあ良いだろう。おまえの穴はミヤコと俺が埋めるし、アイだって纏めての夏休みとって良い時期だしな。家族4人で夏休みの思い出を作れよ」

凄く良い笑顔と軽いノリでOKされた。


「え⁈軽くないですか⁉︎僕ら結構気にして気をつけてるのに!身バレの可能性とか!!」

「いや、プライベートビーチてもんがあるだろ。ホテルや施設が持ってるヤツ。

そりゃ馬鹿正直に人が集まるような海水浴場とか行くなら俺だって止めるけどよ、

大抵の芸能人が行くところはそういったプライベートビーチがあるホテルや施設に行って楽しむもんだ。」

「な、なるほど…言われてみれば確かに。

役者時代の仲間達はみんなお金無いので気付きませんでしたよ、アイもその辺りのこと全く興味無い子でしたし」

2人でのデートも落ち着いた場所が大半だったのと、過度にお金かかるようなことしてこなかった。

だからプライベートビーチを限定利用なんて豪勢な使い方知ってても候補から外していた。

「…まあ、おまえら2人はアクアとルビーのこと考えて結構倹約してるから候補から外していたんだろ。

あとヒカル、おまえは運が良い。」

「?何故ですか?」

「ほらよ、前一緒に飯食ったpからプライベートビーチ付きのホテル宿泊券貰ったからな。使い道無いからおまえにやるよ

4人分あるし、使ってこい」

「いやいや、社長!貰えないですよ!!いくら僕がその手の話疎くてもこのホテルが有名で凄く高いのは分かりますって!ミヤコさんと行ってくださいよ」

4人分の券はありがたいが、普通に泊まったら1ヶ月は優に我が家の食事内容が凄く質素になるレベルのホテルのものだ。貰いにくい。

「良いって、貰え貰え!プライベートビーチには興味無いし、それならしばらく休みとってミヤコと俺は京都観光して高い料亭行くから気にするなって」

だから貰っとけ、と券を押し付けてくる社長。

「では…ちょうだいします。すみません

感謝しか無いです、社長」

「良いってことよ。息子と娘の喜ぶ顔が見たい親心、てやつだから気にすんなって

…ミヤコからもおまえ達に丸々この券はやろう、て話をしてたからな。俺たち夫婦の総意だ」

…良い人達が僕らの親になってくれたものだ。ありがたいこと、この上ない。

「ありがとうございます、それでは社長がお休み取れるように、僕も家族4人お休みを満喫できるように頑張ります!」

「よし!!なら早速だが俺と一緒にTV局に打ち合わせに同行してくれ。ウチのアイドルとタレント達のスケジュール調整をして仕事取りに行くぞ!」

「はい!!」

よーし、アイ、アクア、ルビー

お父さん頑張るぞ!!


その日の夜

「みんな朗報です、社長からプライベートビーチ付きのホテルの宿泊券もらいました!!」

この知らせにはみんな喜んでくれて、アクアはガッツポーズ、ルビーとアイは一緒に手を繋いで踊って僕に抱きついて来た。

…家族の温かさと重みを感じて僕は幸せを噛み締めるのだった。


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