流出音声①
はい、私が刑吏と呼ばれている者です。
名前は無いので、そのまま刑吏と呼んでください、
はい、よろしくおねがいします。
あの、すみません。先に供述書を頂けますか。
あの、ペンも。
ありがとうございます。……あ、ここね。役職名でいいんですか?
何がって、供述書へのサインです。書けなくなる前に書く必要がありますよね?
内容はそちらの筋書きで大丈夫です。それを覚えて帰りますから。あ、ごめんなさい、ちゃんと必要な尋問も受けます。
設備がないし、表沙汰にはできないから大掛かりな尋問はできないはず。なら、直接的なの以外だと水責め、壁見つめ、電気ショックとかですよね。尋問室行きとかじゃないならおとなしく全部受けます。
ちゃんとやります。だから、だからもうしばらくここにいさせてください。気が済むまで尋問していいですから、がまんしますから。
え?ちがうの?公式じゃないの?……わかりました。どう言えばいいんですか?
はい、
はい、わかりました。
じゃあ、最初から。マダムがいなくなってすぐの―――はい、みんな怖かったんです―――――そこで間諜が―――――ええと、ミサイルは私ではなく―――――それであってると思います―――――――はい、それでゲヘナに―――――――ごめんなさい、そこから先はわかりません――――――え、そうだったの?――――――――――――そっか、やっぱりあの人がぜんぶ終わらせるんだ―――――――
以上、ですか。ごめんなさい、大してお役に立てなくて。
いえ、大丈夫です。話したら少し、楽になった気がしましたから。
今後、今後の、身の振り方。……あの、ここで使ってもらうわけにはいきませんか?
自分で言うのもなんですけど、私尋問は得意なんです。今まで何十人も罪を自白させてきましたし、こちらでもきっとお役に立てると思います。
再教育も担当してきたんです、きっと再犯率低減にも貢献出来ると思うんですが!
ダメ、ですか。ちなみに理由を伺っても?
?? あり方が違う?同じじゃないですか。上の人が罪としたものを取り締まる、再び捕まえなくていいように再教育する。なんにも変わりませんよ。
なにそれ、罪状の是非なんて私たちの仕事じゃないでしょ!?
ルールに則って取り締まる、破らないようルールを叩き込む、それだけが私たち執行機関の仕事!それを逸脱したら秩序が守れなくなる!
悪い秩序って、立ち向かう覚悟って、やり直せって!!
じゃあ私はどうすればよかったの!?
強さも賢さもないのに立ち向かえって!?恨まれて、嫌われて、憎まれて、やりたくもないことでみんなの敵になって、それでもみんなとやり直せって!?
じゃああんたたちはわたしに復讐されろっていうんだ!!
みんなを攻撃したのはわたしなんだから、やった分やり返されろって、恨まれるのは当然だって、毎日を怯えて暮らせって、あんたたちもそう言うんだ!!
あいつが恐怖なんかで縛らなかったら、みんなもっと穏やかに、罰なんか受けずに過ごせたのに!!
そうだよ、全部あいつのせいだ、あいつさえいなかったら、怖くて逃げ出す子も、助けを求める子も、幸せになりたいって子だってもっとずっと少なくて済んだんだ!!
なのになんであいつはなんでも持ってるの!?なんでなんでも手に入れられるの!?なんでわたしたちから全部奪うの!?
なんでわたしばっかり、わたしたちばっかりこんな目にあわなきゃいけないの!!?
……弱いって、そんなにいけないことなの?
弱かったら、全部諦めなくちゃいけないの?
qui enim habet、qui enim habet、ああもう、全然思い出せない、あんなに叫んだ言葉なのに、あいつの象徴みたいな言葉なのに……
もういいよ、死なせてよ。どうせわたしたちは弱いんだもん。明日もきっと誰かが奪いにくる。明日も明後日も、この先ずっと。それなら今死んだほうが少しはマシかもしれないよね。
離せ!!私をどうしようと私の勝手だろ!!
離せ!! 離せってば!!
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