泥中の花 ー最後の狭間。終わりへ到る境。ー
『……会話が問題無く出来ると言うことは、あの女神の怒りを倒したのか…。此方の準備は整ったぞ。』
【そういえば、さっき会った時に聞けなかった事があるんだけどドゥフシャーサナと話せたりする?】
『……何か用かよ、カルデアのマスター。』
映像が終わり更に下へと階段を降りて居たが、途中で魔術印が浮かび上がりそこからカルデアで使う通信のような映像姿のシャクニが現れ此方に目線を向けてくる。準備が終わったということはドゥフシャーサナが近くに居るのではないかと思い問いかけると、シャクニの後ろから顔を覗かせこちらへと視線を向けてくる。
【ドゥフシャーサナがカルナたちのマスターってことはあの世界(特異点)はまだ消滅してないんだよね。それって持ってる聖杯のせい?】
『俺が聖杯持ってるの気が付いてたのかよ……。まあ、これがあるからかもしれないけど、大地の維持についてはー』
〚大地が崩壊しないのは大地の女神が私達の願いを汲んで大地の維持に尽力しているからよ。〛
あの特異点は大地が崩壊し始めていたからこそ、直ぐに消滅しても可笑しくなかった。それにも関わらずあの世界に居たドゥフシャーサナ本人がここに居るのは彼が持っている聖杯が関係しているのではないかと問いかける。
ドゥフシャーサナは手に魔力の塊ー聖杯ーを持ち難しい顔をする。彼の言葉を遮るかのような言葉が何処からともなく聞こえてきた為、慌てて周りを見渡した。
『ば…バーヌマティー!?嘘だ!!あんたは……もう、既にー』
〚ヴィヤーサに聞いたのかしら?えぇ。そうね。私は本来なら旅立っているはずだものね…?それでも、私は…あの人が眠るまで、ここで待つって、決めたの。……貴方達は、他の人まで巻き込んで……何をしに、ここに来たのかしら?〛
【待って!バーヌマティー。確かに初めは巻き込まれたのかもしれないけど、ここに立っているのは自分の意思なんだ!!】
〚………ふぅ〜ん……?……分かったわ。話だけは聞いてあげる。〛
ドゥフシャーサナはあり得ないものでも見たのでもいうような驚愕の表情でバーヌマティーを見つめる。半透明でふわふわ浮いているバーヌマティーはしかめっ面でトゲのあるような話し方をしていた。
責めるような話し方をするバーヌマティーに割り込むようにして話しかけると眉を顰めながらも話を聞く体勢をとってくれた。
〚……つまり、まだ生きているあのヒト達を否定するって事かしら?〛
【……そ、れは…。……貴方にとってはそうかもしれないけど、エゴだとしても悲しいまま終わって欲しくないんだ】
「彼らがサーヴァント化するのは特異点が消え去った後です。……それでも、許せませんか?」
これから行おうとしていることを掻い摘んで説明するとバーヌマティーは更に顔を顰めた。傷つき続けたドゥリーヨダナの側に居たバーヌマティーには鯖になることがそう見えてしまうのかもしれないけれど、それでも目を逸らすことは出来ないからこそ真っ直ぐと彼女を見つめ返す。更にトネリコが誰かを思い出したのか訴えかけるようにして話しかけた。
〚………。ごめんなさいね。これじゃあ、ただの八つ当たりね。……私はあの人に少しでもいいから共に生きて欲しかったの。……でもこのままじゃあ、ただ消えるだけっていう貴方達の指摘も最もだわ。〛
「それじゃあ、協力してくれるのかい?」
〚あの人の反応を見てどうするか決めることにするわ。そうね……私も一緒に連れていってくれるなら、今は邪魔しないわよ。〛
「それでもいいさ。ありがとう、麗しいレディ。」
〚……あら。ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわね。〛
難しい顔をしながら暫く無言だったが、困ったように眉根をさげながら受け入れるかのように言葉を紡ぐ。アレキサンダーが嬉しそうに問いかけるが、バーヌマティーは肩を竦めながらも答えを返す。
フィンがかけた言葉で空気が緩み、クスリと笑いながらも半透明のバーヌマティーはこちらへと近づき、邪魔にならないような位置でふわふわ浮きながらも此方の歩みと合わせるように移動し始めてくれた。
~金素材が一番多くドロップするボスは復讐王妃バーヌマティー。取り巻きはシェイプシフター~
泥中の花 ー夢の最奥ー
階段の先に大きな口を開けた入り口のようなものが見えてきたため思わずゴクリと唾を飲み込む。階段の終わりに足を踏み込む前に壁に体を寄せて眼の前の景色をぐるりと見つめた。
階段の先の空間は今までとは違って洞窟内のままで大きな空洞が広がっている。明かりが設置されているのか所々で光っているため問題無く見渡す事が出来た。
天井から生えた棘のようなものからはポタリポタリと何かが滴り落ち続けているせいか、床に池のようなものが形成されていた。地面ほぼ全てを覆い隠すようなその池は黒く淀んでおり底までの距離を把握することは出来ない。その池の真ん中に見知った紫色を纏った人物が佇んでいる。その近くで力なく横たわっている人物も僅かに見えた。
お互いに顔を見合わせた後、気合を入れて勢い良くその空間に足を踏み入れた。
「またきたの?ここには誰にも立ち入らせないと前にも言ったはずー……どうして貴方達がここに居るの!?あの髪留め(鍵)はあの人間にし、か……じゃあ、一つ前に居る、のは……」
【プリトヴィー、貴方に話したいことがー……】
「私には無いわ。自主的に出ていかないって言うなら、無理にでもここから押し出すまでよ!!」
呆れたような口調で話しながらプリトヴィーが振り向き、固まる。想像していた人物では無いことに驚いたように目を見開いたかと思えば表情を消した。
訴えかけるようにして話すものの、彼女は聞く気が無いのか眉を吊り上げ、こちらへと襲いかかってきた。
名前の表記がバグっているかのように読み取れない、外見は三臨のバーサーカーのドゥリーヨダナそのものに見えるエネミーが登場。クラスは不明。
ビーストのキアラやカーマ・ラーマの戦闘時のように打ち消せないバフが沢山付いている(必中や無敵貫通等の礼装を付けたとしても、此方からの全ての攻撃は殆どダメージが無くて、運が良くても2桁しかダメージが出ない)。
最初に〈神への嘆願〉という名前の特殊演出が発動。味方にランダムで1ターンにつき1人だけ何かのバフを一つ打ち消せる効果が3回(持っている髪留めの数)分発生する。
一撃喰らうだけで退去しかねないレベルのダメージが発生するため、タゲ集中で他にダメージ行かないようにしたりガッツで復帰したりして鯖が全滅しないように対策しないと直ぐに負ける。
3個のバフを打ち消すことが出来たら戦闘が終了する。
「………成程ね。その髪留めに私が施した鍵としての機能以外の不思議な魔力が籠もってるのは分かってたけど、そんな効果が込められていたのね。……ドゥリーヨダナが最後まで大切に持ってたからそのままにしておいたけど、壊せば良かったかしら……。」
「まだまだ驚いて頂こうかな!場所は整えた……。さぁ、来たまえ!シャクニ!アスクレピオス!」
池の中央へと瞬きをする間に移動して、難しい顔をしながら此方を睨みつけるようにして見るプリトヴィーに対して名乗りを上げる時のようにフィンが声を上げる。
彼の展開した魔法陣の中心にはシャクニから譲り受けた髪留めが浮いておりそこから別の魔法陣が展開し、完成すると同時に髪留めと入れ替わるようにしてシャクニとアスクレピオスがその場へと現れる。
「他国のサーヴァントと術を合わせて発動するのは一苦労であったわ」
「僕を確実にここに送るためには貴様の助力が不可欠だったんだ。文句を言う暇があったらキリキリ働け。」
「門番の仕事を放棄して何をしているの?それに他国の半神を連れてきて何をするつもりなのかしら?」
頭を左右に曲げ首を鳴らしながら疲れたようにぼやくシャクニに対してアスクレピオスは静かに見つめ返し言葉を返す。プリトヴィーは此方の様子を気にしながらも彼らを品定するように厳しい目線を向けていた。
「僕は医者だ。病気であるというのならば、例え神であろうと直してみせるとも。まずはその邪魔なものを排除するための手立てが必要だな。」
「病気?……まぁ、そう言い換えることはできるかもしれないわね。でも直す気なんて無いわ。放っておいて頂戴。」
「お前の事情など知らんな。さぁ、あいつの鎧を壊すために僕に協力しろ。」
「……?夢の道を通る事の出来る魔法で一体何、を………まさか、貴方!!」
首を傾げるプリトヴィーとその近くで池の上にピクリと動くことなく浮かび、力なく手足を投げ出して横たわっているドゥリーヨダナのことを観察するようにジロジロとアスクレピオスは見つめ続けて言葉を紡ぐ。そうして徐ろに魔術を組み始めた彼をプリトヴィーは不審そうに見つめていたが、何をしようとしているのかに気が付いたのかその魔術を止めるために彼に襲いかかるものの、シャクニとフィンの防御魔術がそれを防ぐ。
「退きなさい!!」
「ふははははは!わしはわしの好きなようにしか動かんわ!」
「これでもエリンの守護者を名乗っているからね。守りで負けるわけにはいかないとも!」
【令呪をもって命じる。フィン・マックール!防御を更に固めろ!!】
ギシギシと2人分の防御魔術がプリトヴィーの攻撃を受けて軋む。今にも壊れてしまいそうな障壁を前にシャクニは吹っ切れたかのように笑い声を上げ、フィンは動じること無くその前に立ち塞がるようにして立ち続ける。アスクレピオスの魔術がまだ完成しそうに無い為、フィンに令呪を一画使うことでもう一つ防御魔術を重ね掛けしてもらう。
「お前達、よくやった。さあ、通るがいい。」
「……令呪をもって命じる。来いカウラヴァの戦士であり、ドゥリーヨダナの朋たちよ!」
アスクレピオスがそういった途端、そこにドゥフシャーサナが現れ、険しい顔をしたプリトヴィーを見据えながらも直ぐに令呪を一画消費する。それにより彼らの前に白と赤の美丈夫が出現した。
「他の誰でもない、俺自身のエゴのためにお前に武器を向けよう。」
「許せないだろう、怒っているだろう。俺自身がその感情が良く分かる。……それでも……。少しでもいい、時間を与えちゃあくれないか。」
「俺達が間違ってる。俺達は裁かれるべきだとも知っている。それでも…。それでも、兄貴と話がしたいんだ!!」
白と赤との美丈夫ーカルナとアシュヴァッターマンが武器を構えてプリトヴィーと対峙する。
あの世界とは違い排除するためではなく、迎えに行くために主君と同じ見目をした相手に躊躇うこと無く彼らは武器を向け立ち向かっていた。
ドゥフシャーサナがマスターで戦闘が開始。
戦闘前に「おっと悪い目が出てしまったな」とシャクニが話すとバフが一つ消える演出が入る。その後〈最期の祈り〉という文字が現れる演出(ドゥフシャーサナがシャクニに勝った事により彼に付与された4層目の扉を開ける髪留めの効果)が入り、カルナが「ドゥリーヨダナ、俺を見ろ。」アシュヴァッターマンが「お願いだ!」アスクレピオスが「馬鹿に付ける薬は無いな…」という言葉を話すような演出が入る。そして、前者2名に宝具を打つと解除不能のバフが1個が消えるような効果が付き、アスクレピオスに攻撃のターゲットが行かないようになる。
ドゥフシャーサナが2つ目の令呪を使い「俺に兄貴と話す時間をくれ!」と叫んだあと、全員宝具が打てるようになる。
1ターン目に全員の宝具が打ち終わった後ドゥリーヨダナ?の攻撃がカルナとアシュヴァッターマンに行き、ガッツで復活する。2ターン目で「全部持っていけ!!」とドゥフシャーサナが叫び最後の令呪を使い、また全員が宝具を打てるようになり、宝具を打ち終わると戦闘が終了する。
「今更何よ!もう遅いのよ!もう終わってしまうのよ!!あの子に意味のない夢(希望)を魅せないで頂戴!!」
「……成程な。お前達はどちらが欠けてもサーヴァントとして成立しないし、したとしても第2の人生では無く夢や幻・有り得ざる事として認識し、霊基が安定しないのか……」
「アンデルセン、打開策はまだですか!?」
「ええい!少しは自分で推理できないのか?もう少し耐えろ!そうすれば読み解ける!」
〚………あなた。〛
ーば……ぬ、ま、てぃ………?ー
プリトヴィーが池の中央へと戻ると彼女の苛立に共鳴でもしているのか、バシャバシャと池を構成する何かの液体が揺れて跳ねるような現象が起こる。
一連の光景をトネリコの防御魔法とそのすぐ後ろに控えたアレキサンダーの背後に隠れたまま見つめ続けていたアンデルセンが呟く。全然変化が無いように見えるプリトヴィーを見つめながらトネリコは杖を強く握りしめながら彼に声をかけるがアンデルセンはガシガシと頭を掻きながらも否定の言葉を口にした。
彼らの更に後ろで成り行きを見つめることしか出来ないバーヌマティーが思わずとでも言うようにドゥリーヨダナの事を指す言葉を呟く。すると何処からともなく聞き覚えのある声が聞こえて来たと同時にアシュバッターマンの掌からシャクニの持っていた髪留めがバーヌマティーへと光を纏ながら飛んで行く。
【この声………。バーヌマティー!もっとドゥリーヨダナに呼びかけて!】
〚え?え?えぇ!?……私、別に協力するなんて、言ってないわよ!?〛
「おまえの言葉を聞いて目覚めようとしているのがあいつの答えだろうが!!そんな判断も出来ないのか?ナンを食べ過たせいで頭までふにゃふにゃになってるのか?」
「バーヌマティー、お願いです。私達に協力してください!」
〚………。分かりました。………正統なるクルの王妃、バーヌマティー。貴方達に力を貸しましょう。……でも、貴方は後で殴るわね。〛
バーヌマティーの方へと目線を向けて言葉を掛けると彼女はブンブンと首を左右に振り拒否の言葉を叫ぶ。アンデルセンはその言動を見て煽るようにして言葉を投げかける。トネリコはアンデルセンによけいな事を言うなとでも言うように睨みつけてから、バーヌマティーへと頭を下げる。
バーヌマティーは暫く押し黙った後、ぐっと目を瞑り覚悟を決めたのか目を開けて真剣な表情でトネリコのことを見つめ返して見せた後、キロリと厳しい目線でアンデルセンのことも見つめてみせた。
〚あなた、あなた。愛しいあなた。私のドゥリーヨダナ。貴方の私はここに居るわ〛というバーヌマティーのセリフとともに〈妻の献身〉という言葉とともにパーティ全体に解除不能のバフを消せる効果が(シャクニが持っていた髪留めに込められた魔力の効果もあって)発生する。上の2回の戦闘で減った7個以外の残った解除不能のバフを全て剥がせたら戦闘が終了。
その際ーそこ、に……いる、の、か?……バーヌ……マティー……?ーというセリフが出てくる。
(バーヌマティー視点での映像。淀んだ池に横たわったままのドゥリーヨダナが薄っすらと瞼を開く。)
ーバーヌマティー……どこだ?どこに、いる……?ー
「ドゥリーヨダナ!駄目よ無理しちゃ!安静にしていなきゃ……」
ーバーヌマティー……けがは……しておらんか?……きずついては……おらんか?なぁ、バーヌマティー……ー
服に隠れていないドゥリーヨダナの顔以外の肌にはまるでヒビが入っているように見える黒い線がそこかしこにあった。彼の光の入らない薄桃色の虚ろな眼が誰かを探すようにしてゆらゆらと揺れる。
バーヌマティーの反対側で座り込んだプリトヴィーがドゥリーヨダナの体を支えてながら言葉を掛けるが、彼はまるでその言葉が聞こえて無いように言葉を紡ぎ続ける。
〚えぇ。えぇ。あなた。私はここに。ちゃんと隣にいるわ。あなた。〛
ーくるしくは……ないか?……かなしくは……ないか?ー
〚あなたが隣に居るんだもの。それだけで私は幸せよ。〛
ーそう、か……そうか。……バーヌマティー……わしさまは……おまえがいてくれれば……それ、で……ー
他の髪飾りとは違い、最後まで消えなかったシャクニが持っていた髪留めがドゥリーヨダナの胸元でバーヌマティーが話しかけるたびにキラキラと光続けていた。
バーヌマティーは投げ出されたままだったドゥリーヨダナの手に重ねるようにして手を上に置く。半透明で重さの無かったはずの体が誰か(バーヌマティーは分からなかったがアスクレピオス)の魔術で質量が一時的に戻りちゃんと通り抜ける事無く手を重ね合わせる事が出来た。
眉根を僅かに下げたドゥリーヨダナは不安そうに言葉を紡ぎ続ける。バーヌマティーはしっかりと彼の瞳を覗き込むようにしながら言葉をかけると、ふわりと今にも消えそうな笑顔を浮かべてみせた。
「だめ……。駄目よ、ドゥリーヨダナ。まだ駄目なの。……あなたが望んだように、あなたが暮らしたあの世界の生き物達が、何も知らずに終わるためには……もう少し、時間が必要なの……。」
ーあぁ……でもなぁ……もうすこし…。もうすこしだけ、おまえとともに…やさしいじかんを……すごしてみた……ー
「良し。読め(解け)たぞ!……お前達は個々で存在出来ない。なればこそ、お前達にはこの名前で呼ぶのが相応しい……。プリテンダー、ドゥリーヨダナ・プリトヴィーと!」
バーヌマティーが重ね合わせた手とは反対の手を体を支えている逆の手で握りしめ、プリトヴィーは必死に言葉を掛け続ける。
ドゥリーヨダナが後悔するような言葉を呟くのを止めるようにして遠くの方から凛とした声が聞こえてきた。その言葉が終わると同時に3人の体を包み込むようにして髪留めを中心に光が溢れ、何もかもが見えなくなってしまった。
(マスターの視点へと戻る)
アンデルセンの言葉と共にプリトヴィーとドゥリーヨダナ、直ぐ近くにいたバーヌマティーを巻き込んで魔術が発動したのか彼らの姿が光に包まれる。暫くすると眩しすぎる光が徐々に消えていく。眩しさに思わず瞑ってしまった瞼を開けるとその場に居たはずのさんにんは何処にもおらず、ひとりだけが存在していた。
「……旦那……?」
「………こやつら、わし様より傲慢ではないか?」
「………ヒトというのはそういうものよドゥリーヨダナ。まさか、バーヌマティーまで巻き込んで存在を確立させるなんてね。」
恐る恐ると声を掛けるアシュヴァッターマンに答える事無く瞼を開けて、そのヒトは口を開き言葉を紡ぐ。同じ口から放たれた言葉にも関わらずまるで違う者が話し合っているようだった。
【……ドゥリーヨダナ・プリトヴィー、もう一度言うよ。話を聞いて欲しいんだ。】
「うーん……。ドゥリーヨダナと反発も無く、混ざるように一緒になれたからかこの空間の維持にそれほど力を割かなくても良くなったから、少しだけ楽になったのよね。……そうねぇ…どうしようかしら?………話を聞きたいの?分かったわ。……今の私に勝てたのなら話だけは聞いてあげても良いわよ?」
【分かった。真剣勝負だね。】
「……さあ、貴方達の思い、私に示してみせなさい!!」
ドゥリーヨダナ・プリトヴィーという名前で戦闘が開始。クラスはプリテンダー。戦闘グラフィックが3臨時のバーサーカーのドゥリーヨダナでは無く別の姿に変化している。HPは150万程。名前が分からなかった時に付いていた解除不能のバフは全て無くなってはいるが、ダメージ値は結構えげつない。
単体宝具だが、宝具は強化解除してからの発動になるのでタゲ集中でアタッカーを守らなければ普通に負ける。弱体付与ができない為、盾役と相性有利の高火力のアタッカーを連れていくのが一番の攻略の近道。
HPが0になるとドゥリーヨダナ・プリトヴィーがバックステップして戦闘から退場する。
「………まだ暴れ足りないけど、取りあえず話は聞いてあげる。私に何が言いたいのかしら?」
「これを受け取ってくれないか?」
「……………呆れた。捨てて、壊したものを探し出して直してまでここに持ってきたの?それだけの為にわざわざ聖杯まで使うなんて馬鹿なんじゃないかしら。」
「些事だな。」
「俺達からも頼む。」
まだまだ平然としている様子のドゥリーヨダナ・プリトヴィーが首を傾げながら聞いてくる。その言葉を聞くやいなやドゥフシャーサナは何処にしまっていたのだろうかという大きさの箱を頭を下げながら思い切り前に差し出す。その箱には様々な高価そうか物品が修復されて入っていた。
それを遠くから見つめたまま理解出来ないとでも言うようにドゥリーヨダナ・プリトヴィーは肩を竦める。令呪と言う支えを失っても尚気合で現界しているのかカルナとアシュヴァッターマンも同じように頭を下げた。
「……………。受け取りたいの?……………はぁ〜〜〜。……………。分かったわよ。受け取ってあげる。………本当、もう少し怒った方がいいわよ?」
誰かに確認するかのように言葉を呟いたかと思えばドゥリーヨダナ・プリトヴィーがついと指を動かす。すると、箱がドゥフシャーサナの手から離れて宙を浮きながらも彼/彼女の元に近づいていく。するとその隣にバーヌマティーが現れてその箱に手を翳す。するとその箱の中身の一つ一つが光になったかと思ったら淀んだ池へと降り立ち美しい花へと変わる。その花の一つが蕾を開くと同時に淀んでいた池の色がほんの僅かにだが薄まっていった。
「…………………。貴方達甘すぎるわよ。怒っている私が間違ってるみたいじゃない……。怒ってはいるの?これで?………そう………。」
何とも言い難い表情でドゥリーヨダナ・プリトヴィーはバーヌマティーを見つめる。彼女はその言葉にふるふると首を左右に振る。それを見たドゥリーヨダナ・プリトヴィーは理解出来ないとでも言うように言葉を力なく呟いた。
それを見て安心したのかカルナとアシュヴァッターマンの体が端からキラキラと解けていく。
「心から感謝する。」
「俺が言うのも可笑しいかもしれないが、貴女の怒りは正当だ。寧ろもっと怒ってもいいと思うけどな。だがまぁ、相手が身内に甘いドゥリーヨダナの旦那だからなぁ……。」
「神であろうと病気ならば何度も治療してやる。僕の目的に一歩近づく可能性があるからな。」
「……わしもそろそろお役御免か。ずーと門にただ立ち続けるつまらん仕事をし続けなければならないと思っていたが、最後に面白いものが見れて満足したわい。……プリトヴィー様、インドの神々は未だに様々な特異点で好き勝手振る舞っているようですよ?あれらが余計なことをしでかさないように見定めるのも一興では……?」
そう微笑みながら言葉を残してカルナとアシュヴァッターマンの2人は退去していった。アスクレピオスだけはどのような状態でも変わらずに自分勝手に話しながらも同じように退去していった。
シャクニもこの精神世界に居る理由がなくなったからか同じように体を解けさせていく。そして真剣な顔をしながらもそう言葉を残した後退去していった。
「…………。ふぅ〜〜〜〜ん…………?私が視た世界以外にもやらかしているのね。あいつら。」
「えぇと………何処まで知っているかは分からないけれども………まぁ、うん。………そうだね……。」
「は?………やっぱりあいつら滅ぼすべきかしら………。」
【いや、でも………。ガネーシャさんみたくちゃんとこっちの意見聞いてくれる方もいるし!手伝ってくれたから、誰も消える事無く特異点修復出来たら事もあるし!!】
「他は?」
「機構を誰かに取られたのに対策せずに更なる悲劇を生み出したり、詫びとして不要な武器を大量に手渡したり…………駄目な神々の見本市だな!」
瞬きする間に何処かへと消えたバーヌマティーが居た場所を暫く眺めていたが、此方へと視線を戻す。心底不快そうな顔をしながら話すドゥリーヨダナ・プリトヴィーに対して今まで起きたインドの特異点を思い出したのか、フィンの目が遠くなってしまった。それを聞いて彼/彼女はスンと瞳から表情を消してしまいながらも怒気が抑え切れていないような様子だった。
ついつい擁護できるような具体的な事例を紹介するがドゥリーヨダナ・プリトヴィーは眉を寄せて端的に聞いてくる。アンデルセンは最近カルデアで修復したインドの特異点を思い出したのか痛烈に批判した。
「…………。カルデアのマスター、もしもインドの神々のやらかしが酷いようだったら呼んで頂戴。今回助けてくれたお礼に特例で応えてあげるわ」
【わ………わぁい…………。】
「あの……兄貴………その………。」
「……………………。わし様はもう怒っておらん。どうしようも出来なかったのであろう?」
「でも!………俺たちこそが兄貴の元から離れるべきではなかったのに!」
「………。それは貴方達の勝手な都合でしょ?ドゥリーヨダナを困らせないで頂戴。話す事が出来たんだからもういいでしょう?これ以上は譲歩しないわ。…………さぁ、貴方を呼んでいる人達が居るわ。さっさと戻りなさい。」
「え?ちょ………うわぁ〜〜〜〜〜!!!」
ドゥリーヨダナ・プリトヴィーがにっこりと美しすぎる微笑みを浮かべて此方を見つめてくる。戦力が増えるのは喜ばしいことのはずなのに、新しい騒動の予感しかできずに震えるようにしか言葉が出ない。
ドゥフシャーサナがおずおずと話しかけると瞼を閉じて暫く無言だったが、瞼を開けると困ったように笑いながらも言葉を掛ける。悔いるような言葉を吐き出す彼に対して瞼を閉じて、もう1度開くとドゥリーヨダナ・プリトヴィーは呆れたような口調で話した。
そうしてピッとドゥフシャーサナを指差すと彼の体がその場から浮き上がる。彼/彼女がぶぉんとアッパーカットをするかのように上に放り投げる動作をすると同時にドゥフシャーサナも上へと凄い速度で飛んで行き、岩にぶつかることなくすり抜けその姿は見えなくなってしまった。
「・・・ほら、これを回収するのが目的なんでしょう?貴方たちも早く元の場所に戻りなさいな。」
「・・・・・。ありがとうございます。貴方はこれからどうするんですか?」
「これ以上の余計な手出しはもうあいつらには出来ないだろうし、あの世界が終わるまで静かに過ごすわ。」
「ひとりで寂しくないかい?」
「ひとりじゃないわ。最期まで3にんでずっと一緒にあれるんですもの。」
ドゥフシャーサナが持っていた聖杯だけが彼が先程まで居た場所に残っていたが、ドゥリーヨダナ・プリトヴィーが此方へと浮かして渡してくる。
トネリコが問いかけてると彼/彼女は肩を竦めながらそう返事を返した。思わずアレキサンダーが問いかけるとふわりと花が咲くようにして笑ってみせる。
「さあ、マスター。カルデアに戻ろう。」
【ありがとうジーク。】
「良い夢が見られるよう祈っておこうか?」
「あら。じゃあより良い旅路が出来るように祈ってあげましょうか?」
「アンデルセン!一言多いです!ほら!行きますよ!」
「俺なりの気遣いだったのだが…。おい、待て、引っ張るな!」
ジークが竜の形態へと変化し背中に乗りやすいように体を屈ませる。礼を言いながら順番に彼の背中へと乗り上げる。アンデルセンが皮肉げに掛けた言葉に皮肉で返しながらドゥリーヨダナ・プリトヴィーは首を傾げてみせる。
トネリコが叱るようにしてアンデルセンに声を掛け手を握り引きずるようにしてジークの背中へと一緒に乗り上げる。ドゥリーヨダナ・プリトヴィー以外の全員が背中に乗ったのをしっかりと確認し、ジークは思いっきり背中の羽を羽ばたかせそらへと飛び立っていった。
「綺麗な花でも泥に沈んだらそれで終わりだと思っていたのだけれどもね……。」
「……ふふ。そうね。貴方の花は何度でも咲き誇る美しさを兼ね備えているわね。」
「………この池に咲いた花は貴方が今まで傷ついてきたものを癒やす効果が込められているわ。あの鍵の魔術もこれを施したのも聖仙ヴィヤーサでしょうね。」
「…………彼がどうしているのか、気になるの?・・・そうね。私に任せて頂戴。」
ひとりで泥の池の上に立ち続けるドゥリーヨダナ・プリトヴィーが言葉を紡ぎ続ける。
幾つか言葉を紡いだ後、瞳を大きく見開きそうして微笑んでみせた。
ーエピローグー
ザクザクと今も尚端から徐々に消え始めている大地を踏みしめながら一人で歩いていく。
「ここにも居ないか…。」
人がなかなか立ち入らなそうな場所であったがここにも彼が探す探し人は居なかった。直ぐに見つからないと覚悟していても、少しだけ落胆してしまう気持ちは無くならない。
「ドゥフシャーサナ達は上手くいっただろうか……それとも、拒絶されてしまっただろうか………。」
誰も答えてくれないことは分かっているが独り言を漏らすのを止められない。気持ちを切り替えるようにして頭を左右に振り、そうして別の場所へと足を向けるために立ち上がる。
「次の場所はここから結構遠いな……。この世界が消える前に見つけ出せればいいんだが………。」
「誰を探しているのだ?」
「それは勿論、わたし、のー…………」
地図を開きある程度の距離を換算し、ため息を吐く。何処からともなく聞こえて来た声に普通に返事を返そうとして途中で止まる。
聞いた事のある声だった。ずっとずっと聞きたいと願っていた声だった。
恐る恐る声の聞こえて来た方向へとゆっくりと振り返る。そこには望んていた通りの男性が立っていた。
ボロボロと思わず泣いてしまう。彼の顔をちゃんと見たいのに。彼の姿がちゃんと無事なのかを確認したいのに。後から後から溢れ落ちる涙によってその姿はぼやけてしっかりと見ることが出来ない。
「貴方は本当に泣き虫よなぁ……。ほら、これで涙を拭いてくれんか?貴方の顔をちゃんと見つめていたいのだが……。」
差し出された布を借りてゴシゴシと顔を擦ろうとする。そうすると彼は慌てたようにして近くに寄ってくる。
「そんなに勢い良く擦ったら痛いてあろう。わし様に貸せ……全く、もう……。」
呆れたようにして言葉を吐きながらもその手は優しいまま。此方を少しでも傷つけてしまわないように優しい手付きで涙を拭ってくれていた。
「ふふふふふ………。」
「泣くよりはいいが、急に笑ってどうしたのだ?」
「いいや。いいや。何でもないとも。」
「そうか?……まぁ、貴方が納得しているのなら、それでいいか。」
ずっと傷ついてきた筈なのに何一つとして変わらない優しさに思わず笑ってしまう。不思議そうに問いかけてくる彼に答えずに微笑み掛ける。不思議そうに首を傾げる彼を見つめながらも穏やかな心持ちでゆっくりと消え続ける世界を静かに受け入れていった。
「おかえり。………いや。おはよう(はじめまして)と言った方がいいかな?」
「………さぁて、な。どちらも正解かもしれないし、どちらも間違いかもしれんぞ。」
「…………そうか。なら、私の好きなようにさせて貰うさ」
答え合わせをすることなく、どちらともなく外の景色へと目線を向ける、そうしてふたりして静かに消えゆく世界を眺めていった。
最奥に90+のクエストが発生。1戦目にぬえ、2戦目にスプリガンが登場。ボスはユッダ。
夢の入り口の上に光が出現するが名前は読み取れない。そこに90++のクエストが発生。1戦目にドラゴン、2戦目にマハーナーガが登場。ボスはヴィヤーサ。