泥中の花 ー夢の三層目ー

泥中の花 ー夢の三層目ー


【………。ドゥリーヨダナ、さっきの映像見えた……?】

「上の層でも思ったが、私は別に頭の中に何かの映像が浮かんだりなどしておらんぞ?私が不機嫌になりそうな映像でも流れ込みでもしたのか?」

「…おや。自分だけが映像を見られないことに疑問を抱かなかったのかな?」

「見えないということは私が知る必要がないと判断したのだろう。それとも貴様らがその映像とやらの話をしてくれるのか…?」

【………そ、れは………。】

こちらも苦しくなるようなあんまりな内容の映像に恐る恐るドゥリーヨダナへと問いかける。彼は首を傾げながらもきゅうと推し量るようにして目を細めて問いかけ返してきた。

フィンが彼が思っていることを少しでも引き出そうとしたのか理解出来ないとでも言うように質問すると、薄っぺらい笑顔を浮かべながらも質問を更に返してくる。その質問に返す言葉もないため、思わず詰まってしまった。

「貴様、隠すのが下手だな。そのあからさまな態度に免じて映像の事は聞かなかった事にしてやろう。」

「マスター。彼、嘘は言っていないようですよ。」

【…そっか。ありがとうトネリコ。えぇと、今まで通りだとこの洞窟の中に誰かが居たんだけど、パスの感じからも近くには居なそうだしここには誰も居ないみたいだね。】

先程までの笑顔を消しコロコロと笑いながらもこちらが質問に答えられなかったことをドゥリーヨダナは許容してくれた。

トネリコは小声で今までの会話の中に嘘は無かった事を小声で報告してくる。それに同じように小声で返し、わざと明るく振る舞ってみせた。

「…もしかしたらこの洞窟を見つけられずに外に出たままの可能性があるんじゃないか?俺はたまたまマスターのパスが近くに感じられたから直ぐに洞窟の位置が分かったが、そうじゃなければ見つけられて無いかもしれない。」

「なら、さっさと外へと出るぞ。後2人居るという仲間はどのような見目なのだ?」

【2人共、子供の姿の鯖だよ。出現してた敵から隠れて居たら見つけ辛いかも…】

「尚更早く探し出した方がよいな。取りあえず外まで走るぞ。」

険しい顔をしたまま言ったジークの言葉に眉根を寄せてドゥリーヨダナは問いかけてくる。中身はともかく2人とも背丈は小さいので今まで見てきたこの世界にある比較的大きな岩壁に隠れてしまうと見えない大きさだと思い、無事かどうかが心配でソワソワしてしまう。その様子を見たドゥリーヨダナは言葉をかけてから外へと駆けて行った。


~銀素材が比較的多くドロップするボスはアシュバッターマン、全部の素材が比較的多くドロップするボスはカルナ。取り巻きは近衛兵。~

 

外は相変わらず雨がざぁざぁ降り続いている。戦闘が終わるたびに2人の名前を呼ぶが返事は全く聞こえてこなかった。

「2人とも、何処に居るのだろうか…」

【…あ!あれ人影かな?もしかしたらアンデルセンとアレキサンダーかも!!】

ジークが剣をしまいながらも周りをキョロキョロと見渡す。同じように周りを見渡すと遠くのほうに小さな人影のようなものが見えたため、そちらへと走ってみる。

だが、近づけば近づくほどその影は大きさを増し子供の大きさを優に超え、数が2つ以上あることに気がつく。その内の2人はカルデアで見たことのあるドゥリーヨダナに縁のある色彩を持っていることに気がついた。

【カルナにアシュヴァッターマン…。それにアスクレピオス?どうしてここに?】

「あんた、俺等を知ってるのか?俺等は俺達を召喚したマスター達に頼まれてこの世界に来たんだ。」

「僕は怪我人が居るかもしれないと聞いてこいつらを連れてこの世界に夢渡りをした。見知らぬ人間であっても縁を辿れば容易だからな。」

前者2人は分かるがアスクレピオスが一緒に居る理由が分からずに距離を置いて問いかける。すると人が他にも居ることを驚いたのか目を見張りつつもアシュヴァッターマンがこちらに振り返り肩を竦めながら返答をした。

アスクレピオスは特に気にしてないのか、珍しい症例を目の前にしたカルデアの彼のようにニヤリと笑ってそう答えてきた。そんな彼らを余所にカルナが一歩前に出てこちらに近づいて来る。

「………お前は………」

「旦那!?急に何を!?」

此方を見据え何かを言おうとしたカルナがいつの間にか彼の前に移動していたドゥリーヨダナによって容赦なく遠くに吹っ飛ばされる。

驚いたように声を上げるものの、彼を攻撃することができなかったのかアシュヴァッターマンも同様に遠くの方へと吹っ飛ばされた。

それにより彼らで隠れていた人物がもう一人居たことに気づく事が出来た。

【ドゥリーヨダナ!?急に何をしてるの!?……え?ドゥフシャーサナ?手に令呪が有るってことは生きてる人間……?】

「……兄貴、ごめん!…本当に、ごめん。……謝って赦される事じゃないって分かってる。でも、それでも俺等は……!!」

「……はは。……あはははははははは!!……あぁ。可笑しい。……分からないようにしているとはいえ、家族なのに違うって分からないのね。」

ドゥリーヨダナの急な行動に驚いて声を上げるものの、令呪の宿った手を持つドゥフシャーサナが居たことに驚き思わず困惑してしまう。

ドゥフシャーサナはカルナとアシュヴァッターマンが吹き飛ばされることが分かっていたのか、自分も吹き飛ばされる覚悟をしていたのか此方の顔を見ることなく思い切りドゥリーヨダナに向かって頭を下げた。

暫く無言で頭を下げる彼を見つめていたドゥリーヨダナは急に笑い声を上げたかと思えば、今までの雰囲気をガラリと変えてきた。

「あに……き……?いや…違う……。あなたは……?」

「そんなに罰せられるのがお望みなら、私が手づから壊してあげる。」

「……っっ!!」

「待ち給え!!」

【………え………?】

急に笑い出したドゥリーヨダナに驚いたのか顔を上げだドゥフシャーサナは呆然としたような顔をして彼を見つめていたが、何かに気が付いたのか大きく目を見開いた。

ドゥリーヨダナはにっこりと笑いながらも情け容赦の無い言葉を掛けて、剣を抜いて彼へと向ける。

ドゥフシャーサナは衝撃を覚悟したのかぎゅっと目を瞑った。フィンが思わず止めるために声を上げるものの、ドゥリーヨダナは躊躇うことなく剣を振り上げた。だが、彼らの間にまるで立ち塞がるようにして小さな人影が現れた事によりその剣先は勢いを失ってしまう。

「どうして……?怒ってよ!憎んでよ!恨んでよ!!……どうして……貴方は……。」

「………。」

「そうね……そう、よね……。貴方はそういう子だったわね。……怒られず、憎まれないのに拒絶されてしまうのは…ある意味で罰になるかしら?」

嘆くように言葉を連ねるドゥリーヨダナに対して急に現れた小さな人影ー 水着の煉獄位の姿のドゥリーヨダナ ーは困ったような笑顔を浮かべて静かに見つめ返していた。

大人の姿のドゥリーヨダナは諦めたように言葉を紡ぎながら肩を落とし、誰に言うでもなく小さく言葉を呟いた。

「……プリトヴィー様………。」

「あら?ようやっと気がついたのね。愚かなヒト。言っておくけどね、私は貴方達を赦しはしないわ。今ここで立ち去るならこの子のために見逃してあげる。……先に進むようなら容赦はしないわ。」

「大地の女神である、プリトヴィー…。どうしてここに居るのですか?」

「愛し子の精神世界よ?邪魔者を排除するのは当然のことでしょう?……あなた達は隠し事をするものの誠実に対応してくれてたら、仲間を見つけるまではここの滞在は許すけど、彼らに協力したらその限りではないわよ?」

呆然としたような声で名前を呟くドゥフシャーサナに呆れたような口調で話しかけ、全く彼の顔を見ないまましゃがみ込む。小さなドゥリーヨダナを抱え上げ彼を安心させるように微笑みかけ立ち上がった。

トネリコが問いかけるとニコニコ笑いながらも隠す必要が無くなったからかちゃんと答えを返してくれた。

「吹き飛ばした彼らは貴方の知り合いではないのだろう?何故、吹き飛ばしたんだ?」

「崩壊寸前のこの子の精神世界でこの姿をした私のことを『誰だ?』なんて聞くなんて吹っ飛ばしてくださいって言っているようなものでしょう?しかも、詳しい話は何も聞かされずに同行してるみたいだから、つい、ね。」

ジークの問いかけに、抵抗せずに腕の中に納まってきるドゥリーヨダナの耳を隠すように抱きしめた。プリトヴィーは遠くのほうにチラリと目線向けすぐに戻し、吹き飛ばされたまま未だに戻って来れない彼らを嘲笑するようにして言葉を吐き捨てた。

「私達の仲間である2人が何処に居るのか、知ってるのかな?」

「………。この更に下の層にヒトの気配を感じるから、そこにいるんじゃないかしら。今まで通り番人は居るけど、まぁあなた達なら何とかなるんじゃない?……同行する理由は無くなったから、私はこれで失礼するわ。」

「ま………待って下さい!!」

フィンの問いかけに目を瞑り暫く無言だったが、探し出すことが出来たのか目を開き、こちらへと顔を向ける。

思わずとでもいうように手を伸ばすドゥフシャーサナの事を完全に無視したままプリトヴィーは小さなドゥリーヨダナを抱えたままこの場から、跡形もなく消え失せていった。

【えぇと………その………。】

「慰めは不要だ。」

「ドゥフシャーサナの旦那。流石に聞かずにこのまま同行するのは無理だ。ちゃんと、全部、話してくれや。」

「ちゃんと治療するためには、詳細な情報は持って然るべきた。キリキリ話せ。」

「………分かったよ。……あんた達も悪かったな。俺たちの問題に巻き込んで。俺たちは俺たちで行くから気にしないでくれ。」

「マスター。行きましょう。」

【……分かった……気を付けてね。】

ドゥフシャーサナは届かなかった手を伸ばしたまま力なく立っていた。何て声を掛けていいか分からなかったが放おっておく事も出来なかったため、ドゥフシャーサナに声をかけようとするが、ようやっと戻って来たカルナが言葉少なく否定する。

同じように戻ってきたアシュヴァッターマンはドゥフシャーサナの顔にしっかりと目線を合わせ問いかけてくる。我関せずでずっと無言のままま成り行きを見ていたアスクレピオスも容赦なく追撃する。

ドゥフシャーサナは隠し続ける事を諦めたのか肩を落としながらも苦々しい顔をしながら了承する。そうしてようやっとこちらに顔を向けて話しかけてきた。

トネリコは彼らの言葉に同意するように話しかけてくる。他の皆にも目線を向けるが、概ね同意なのか頷き返してきた。

彼らに言葉を掛けながらも、大きな岩山を探すために其の場から離れていった。

 

【ドゥフシャーサナ達大丈夫かな……。】

「……マスター、見えて来たみたいだよ。」

「彼女が言っていた通り誰か立っていますね。」

「……あれは確か、シャクニというドゥリーヨダナの叔父では無かったか?」

走りながら思わず溢れてしまった言葉に苦笑しながらもフィンが目の前を指差した。トネリコもその方角へとじっと目を向けて人影を見つけたのかそちらの方向へと顔を向ける。ジークはそれが誰か分かったが、どうして番人が彼であるのか疑問だったのか首を傾げながら問いかけてくる。

「お前達があのお方が言っていた、うっかりこの世界に迷い込んてしまった者達か……。」

【キャスターのシャクニ。どうしてここに。バーヌマティーを傷つけたのはあの世界の貴方だったはず……。】

「あぁ、成程。……疑っていなかったが、やはりわしが最後の一押しだったのか…。大地の女神が私をここの番人にしたのはあの世界のわしが正気のままバーヌマティーを害したからだろうな。」

「……何故?貴方はドゥリーヨダナを愛して居るのだろう?愛しているのなら、何故傷つけることができるんだ……?」

「愛しているからこそ、だ。……さあ、この先に進みたいのならわしを納得させてみろ!!」

 

BATTLE 3/3

敵は取り巻きのカリ3体、3体、1体のカリ・サンガとキャスターのシャクニ(追加で2ゲージ)。

パーティーは自由に編成が可能。


「……及第点と言った所か。ほら、探しものはこれだろう。さっさとこの世界から立ち去ってくれ。」

武器を降ろしたシャクニが肩を竦めた後、髪飾りを投げて寄越し、道を譲るようにして扉の真ん中から端へと移動する。

「……貴方はここで彼らを待ち続けるのかい?」

「来なかったら、それまでのやつらだったと侮蔑するだけよ。まあ、例え来たとしても侵入者に容赦するつもりは無いがな。」

フィンの静かな問いかけにシャクニは胡乱げな表情をしながらも早く移動して欲しいのかヒラヒラと追い払うようにして手を動かしながら話す。

チラリと後ろを見るが何処にも彼らの姿を見ることが出来ない。後ろ髪を引かれつつも、アンデルセンとアレキサンダーの事が心配だったため空いた入口を通り抜けて行った。


 ~人物設定~

◯ドゥリーヨダナのふりをしていたプリトヴィー

地震が起きるたびにその世界は崩壊度を増していっている。

それを幾度も体験し、愛し子が終わるまで穏やかであれるようにするため後少しで崩壊するドゥリーヨダナの精神世界を見回っていた。誰かがこの世界に侵入しようとしたことに気が付いたためそちらに足を向けたが、巻き込まれただけのマスターとトネリコの方に先に出会ってしまった。巻き込まれただけなのを放っておくことはできなかったため一緒に行動していた。

カルデア一行の仲良さげな様子を見て、聖杯が原因とはいえどうしてこのような仲の良さがあの世界で保たれなかったのだろうかと嘆いている。

ずっとドゥリーヨダナの話し方を模倣していたのはこの世界で「ドゥリーヨダナはそんな話し方をしない」「貴方は誰だ」という問いかけを回避するため。その問いかけをこの精神世界でされると崩壊が早まってしまうため、結構気を使っていた。

分かってしまうカルナが問いかけかけてしまったので、言葉になる前に容赦なく吹っ飛ばした。アシュバッターマンは苛立ちが抑えられなかったためついでに吹っ飛ばした。

辛うじて擬態は継続していたが気が付かないドゥフシャーサナにプッツンして56そうとした(ドゥフシャーサナに誰だと問いかけはされるだろうと思っていたので、その声が響かないようにはしていた)。彼女の行動指針は愛し子であるドゥリーヨダナがどう思うかであるので、自分の気持ちを抑えて殺意を押し留めた。だが、これ以上彼らと会話したくないため瞬きする間にどこかへ立ち去っていった。


〇小さなドゥリーヨダナ

本体は別の所にいる。ドゥフシャーサナが56されると思い意識の一部を飛ばし、プリトヴィーの行動を止めた。自身の精神世界だからこそできた行動である。壊れたうえでの更に分けた一部分の為、話せないし満足に体を動かすことも出来ない。

最初この世界の雨が酸性雨だったのは大地の女神の憤りと共鳴していたため。

自分がなぜあそこまで排除されていたのかの原因がカルデアのマスターが来たことにより分かったため怒ってないし恨んでない。だが、積み重ねられた害された記憶が体に刻み込まれてしまっているため、もしもドゥフシャーサナに触れられたら拒絶反応を示してしまっていただろう。


〇ドゥフシャーサナ

「有るはずのない開花」で生き残ってしまった本人そのもの。カルデアが立ち去って暫くの間は最愛の長兄を傷つけ、失ってしまったことに絶望して家族と一緒に現実逃避をしていた。

インドの神々により詫び聖杯をもらったが、使う事なんて考え付かなかった。

苦虫を100万匹くらい噛み潰したのではないかと言うビーマに目ぇ覚ませ!と張り手(物凄く力加減をした)をされて、お前が一番最初に影響受けたんだろうが!!!!と容赦なくやり返した。双方ボロボロになった状態になったところで、踏ん切りが取り敢えず付いた(目を逸らすのはやめられていない)。

生き残ったカウラヴァとパーンダヴァの者たちを辛うじて残っている王宮へと集め、力を借りてサーバントのカルナ・アシュバッターマン・アスクレピオスを呼び出した。

ドゥリーヨダナと双子であるという一部で語られている逸話を利用して縁の強度を上げて彼の精神世界へと道を作った。聖杯を使ったとしても元の世界に帰れない可能性が高い片道切符ではあるが、どうしても長兄と話がしたかった。

因みにマスターがこの世界に迷い込んでしまったのは彼が聖杯を使用したのが原因。彼らが生きていた世界を旅したことで縁が繋がっていたこともあり、たまたまレムレム状態だったマスターも引っ張り込まれてしまった。


〇サーヴァントのカルナとアシュバッターマン

「頼む!俺たちを助けてくれ!」と願われて、ドゥフシャーサナをマスターとして付き従っていた。隠し事をしてるなとは思っていたものの、まさかドゥリーヨダナを傷つけたなんて思ってもみなかった。

ドゥリーヨダナに吹き飛ばされるなんて考えもしなかったため、防御しようなど思いつくはずもなく物凄く吹っ飛んだ。物凄くとばっちり大賞である。


〇ベディヴィエールとキャスターのシャクニ

プリトヴィーがドゥリーヨダナの精神世界が無遠慮に覗かれることを嫌って配置した番人。因みに夢の入り口と1層目の番人はドゥリーヨダナの記憶の再現から出力された只の現象のため、プリトヴィー的にはさっさと消えろと思っていたりする。

2層目のベディヴィエールは彼の忠義高さを見込んで依頼をした。どうしようもなく終わりが確定している国なのにそれでも最期まで王の傍にいた騎士の為、羨ましいなぁ・・・という感情を向けている。精神世界が大分崩壊しかけているのでこの世界に繋ぎ止めることが出来ずに退去したが、そうでなかったらシャクニの様にまた番人として復活していた。

シャクニを番人にしたのは小説内で彼自身が語っていたように聖杯の呪いを受けつつも最終的にバーヌマティーを害して結果的にドゥリーヨダナの人間性を失わせたのは彼に対する愛情からによる行動だったため。

「これ以上姉に似た愛しい甥が苦しまないでほしいから、せめて兄弟ではなく叔父であるわしが汚れ役を担おう」「世界から人数を減らすというオーダーをこなすのは難しいから、世界が崩壊する前に妻と共にせめて安らかに眠って欲しい」「運が良ければ、大地の女神と共鳴してわしを含めた愚か者を56してくれるのではないか」と思い一時的に聖杯の呪いを跳ね除けた。愛情7割、打算3割からくる行動だったりする。

「有るはずのない開花」のシャクニは全てを見届けカルデアが立ち去った後、自分で少しでも長く苦しむ毒を口に含み自タヒしている。




「…なぜ。…どうして…。なんで傷つけた!憎いのなら、俺だけを56せば良かっただろう!」

動かずに、沈んでいる。真っ赤な血を流しながら、赫く濡れて倒れている。

「ただ、支えてくれていただけだったのに。ただ、共に生きたいと願っていただけだったのに!それすらも間違いだったというのか!!」

吠える、吼える、憎しみのまま。抱いて、抱えて溢れぬように。

「だめだ、やめろ・・・。逝くな、独りにするな!」

暖かい手のひらがおちていく。あの子の元に唯一残った、あの子の美しい花が泥(血の海)へと沈んでいく。

「『・・・あ・・・あぁ・・・。ああぁあぁああぁああ!!!』」

 

切って、穿って、バラバラに。

貫いて、殴って、ぐしゃぐしゃに。

絞めて、殴って、跡形もなく。

消して、消して、消し続ける。

消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消消ー・・・・。

グシャリと熱を持ったモノが肉塊に変わる。顔を顰めて放り投げる。

赫に染まっていない場所を探せぬほど、全てが真っ赤に染まっていた。

呆然と此方を見る半神とあの子の宝物だったモノ達が居た。他は全部斃れている。

全てを無視してあの子の花を掬う。辛うじて呼気を繰り返していた。

ほんの少しだけ和らぐように直して、抱えてその場から立ち去った。

嘆く声なんて聞こえなかった。縋る声なんて聞こえなかった。

だって、あなたたちが先にその全てをすてたんでしょう?




◯後手後手に回ったこの世界のインドの神々

一つのヒトが聖杯に願ったくらいで、多くの生き物に影響出ないでしょ(鼻ほじ)。

のんびりしてたら、まさかの多大な影響を齎した(半神から感情操作されてしまった)ので、びっくら仰天。慌てて対策を取るために神同士で意見を出し合うものの、既に遅く怒り狂う大地の女神が起きてしまった。

地の中にいるべき女神がドゥリーヨダナを介してはいるものの表に出てきてしまったため、滅亡(大地の崩壊)のカウントダウンが始まっている。

対策が遅れたからこそ起こった悲劇の(この後いろんな場所にプリトヴィーが転移して12億人以上削減している)為、残った生き物を少しでも減らしたくないと思っていたが、ドゥリーヨダナの機構に緊急停止装置なんて必要ないと判断し作ってなかったため、カルデアが来てくれたことに諸手を挙げて喜んだ。

女神からは役立たずの烙印を押されている。


〇聖仙ヴィヤーサ

早い段階で異変を感じたものの、聖杯による結界で干渉が出来なかった。

どうにかこうにかボロボロになりながらも辿り着いた先でドゥリーヨダナ()による殺戮の跡と生き残った者たちを見てしまった。

何が起こったのかが理解できてしまった。理解、してしまった。

情けない姿を見せたら彼らの士気がなくなると考え泣き出したい気持ちを抑え、カウラヴァとパーンダヴァを鼓舞し、無辜の民を少しでも救うため尽力を尽くし続けた。

カルデア一行がレイシフトした際も気丈に立ち振る舞っていたが、全てが終わった際その気持ちもぽっきりと折れてしまった。

一番抱きしめて傷を癒してあげたい愛しい孫は目の前から居なくなってしまった。

ふらふらと目的もなく、壊れゆく世界を最期まで見続けるためにひとりきりで旅をしている。

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