波の聞く事
アキは未来の悪魔が見せた予知について周囲に黙っている事にした。特に姫野に喋るわけにはいかない。
彼女はアキと銃の悪魔の戦いを危惧しており、死の予知について明かそうものなら強硬手段に訴える可能性すら考えられた。
そもそも、デンジ達が助けないと言っても故意とは限らない。2人の救出が間に合わず、死に別れることも考えられる。悲しいが、半ば予想していた未来だ。
「どの国から手を付けるか、アキ君聞いた?」
「いえ、知りませんね」
マキマは入り込んだ諜報員や内通者を警戒しているらしく、情報伝達は密とは言い難い。
(未来を回避する方法…)
姫野はダメでも、岸辺なら良い意見を出してくれるかもしれない。アキは岸辺に連絡をとろうと試みたが、彼を捕まえる事は出来ずに出発の朝を迎えた。
空港か港に行くのかと思いきや、集合場所は東北の海が臨める海岸沿い。江の島を思い出す景色だ。
「そういえばさー…アキ君って、マキマさんの事好きでしょ?」
「ええ」
「なんで?」
「なんでって……」
なんでだっけ、とアキは考えながら、ハンター達に合流する。現地には特異1課から4課の人員に加え、対魔7課や対魔2課から選抜されたハンター達も集合している。
「あの…私達、アメリカか中国に行くはずじゃ…?」
「いや…このあたりに船でも回すんじゃないのか?」
ハンターの言葉を聞いた姫野を、不吉な予感が襲う。現地には暴力の魔人や天使の悪魔など人外職員も混じっていたが、肝心のデンジとパワーの姿は無く、レゼとサメの魔人も見当たらない。
「ねぇ…デンジ君は?」
「わからない…」
姫野は不安になってきた。あの2人が対銃の悪魔戦における希望であり、大勢の選ばれたハンターよりもデンジとパワーの方が心強い。
一方、アキはまだ時間に余裕のあるうちに、マキマと話をしておくことにした。ついでにデンジ達の行方も聞けばいい。姫野に断りを入れようとも思ったが、彼女は人混みの方へ走り去ってしまった。そんなに時間のかかる話でもない、と考えたアキはマキマに近づく。
「マキマさん…こんな所で何をしてるんですか?」
マキマは装甲車の側に立っていた。運転席に職員らしき人影があるが、他には誰もいない。
「そろそろ来るかな〜って待ってたの…何か用?」
「未来の悪魔と話して…俺の死期が近い事がわかりました」
アキは思い切って口を開いた。
「この戦いが終わったら…デンジとパワーの配置を…後方に回してやってもらえませんか?」
「それは無理じゃないかな。特にパワーちゃんは納得しないと思うけど」
デンジもパワーも教養に乏しい。諸々の雑務くらいはこなせるだろうが、内勤にするには戦力になりすぎる。
「分かってます。今すぐとは言いません。けどデンジは、純粋な戦士で…今のままだと…あいつは約束を果たせません…」
「パワーは…最近は大人しくなりましたけど…まだまだ子供です。アイツには、教育が必要なんです…」
弟が死んだのは自分のせい、という考えがアキの心に巣食っている。だから生きている間に、やるべき事をやっておきたい。
「マキマさん…どんな悪魔と…どんな契約でもします…。俺に…力を貸してください…」
烏滸がましい願いなのはわかっている。それでも、もう二度と。
「早川君」
マキマはアキの訴えを聞き終えると、口を開いた。
「それじゃあ私と契約しようか」
「早川君の全てをくれるなら、私が力をあげる」
アキは困惑した。
「な…何を言ってるんですか?」
「早川君。これは命令です。契約するといいなさい」
「契約する」
言葉は自然に出た。