決戦、真世界城上空にて (1/4)
不可視、無音、光速のレーザーが戦場を穿つ。その一閃は文字通りあらゆるものを貫通する絶対即死の攻撃。特殊な防御手段が無ければ防ぐ以前に回避すら不可能だろうその光をバルバロッサ・バルバレスコは特に何をするでもなく直立不動のまま"受け止めた"。
彼から約数百メートル地点まで到達した瞬間、不可視のレーザーがまるで空間が歪んだの如く拡散し、逸れて、やがて消失してしまう。それもそのはず、彼はあらゆる固有能力を封じ、防いでしまう完聖体【神の天敵(クラウ・ソラス)】の保有者。どのような攻撃であれそれが何かしらの特異な能力であれば問答無用で無効化できる。
「今のはリジェ……いや、アイツの霊圧は違う場所にある。ということは姫様か。……はぁ……」
焦げ茶色の髪を揺らしながらバルバロッサは真世界城の一角にて深くため息をついた。それもその筈、推定される敵は恐らくユーハバッハに次ぐ最大の脅威。いやともすればそれ以上に危険な相手。
その名をリリー・ラエンネック。滅却師の王ユーハバッハの次期後継者の一人であり、見えざる帝国の姫。そして聖文字の性能を含めれば恐らくユーハバッハ以外では最強の滅却師だ。気も滅入るというものだろう。
「いや、むしろ運がいいのか。俺以外が姫様の相手をすればほぼ万に一つもなく死ぬし……そもそもユーハバッハや姫様が聖別をしてきてもいいようにずっと完聖体を維持していたんだから、早めに遭遇できてよかった」
仲間には万が一聖別を放たれても大丈夫なように数百年かけて作り上げた技法によって己の血と霊子を媒介とし外部の特殊能力を何度か弾き飛ばすコーティングを行っている。心配せずに自分の戦いに注力しても大丈夫だろうと判断し、バルバロッサは羽ばたいて空へと飛び上がった。
攻撃が飛んできた方角を注視する。そこには六対十二枚の翼を持つ天使のごとき女性が険しい顔つきで此方を睨み付けていた。
距離にして約五キロ。詰めるのに数秒も必要ない。バルバロッサは霊子の流れを作りつつ全身から莫大な量の霊子をロケットのように噴射し二重加速。従来の滅却師では追随不可能な超高速でリリーへと突撃した。
「……バルバロッサ・バルバレスコ!よりにもよって……!」
対するリリーも相手が相性最悪の相手だとようやく認識し"万物貫通(ジ・イクサスシス)"と"雷霆(ザ・サンダーボルト)"を用いて直上へと加速。その間に前二つと"灼熱(ザ・ヒート)"を合成して放つ防御無視のレーザーと雷撃と炎を雨のようにを撒き散らしていくが、バルバロッサはその全てを打ち消しながらリリーへと迫る。
「(追い付けないか……想定通りだ)H、"狩人(ザ・ハンティング)"。───例え貴方であろうが俺の前では全て狩りの獲物ですよ、姫様」
その一言トリガーとして真世界城(ヴァールヴェルト)上空を埋め尽くす勢いで霊子の糸と鎖が姿を表し鳥籠のように空を覆う。当然上空へと光速で移動していたリリーは止まらざるを得ず、身体の数ヶ所を粘着性の糸と鎖に絡み付かれながらも致命的な状況だけは回避して見せる。
そして数秒経たずにバルバロッサが追い付いてきた。ついに【神の天敵(クラウ・ソラス)】の効果範囲内に入ってしまうリリーであったが───その完聖体はいつまで経っても解除される気配は見えなかった。
「寸前に俺の聖文字を使いましたか。いい判断です」
「ええ……本当にギリギリでしたけど」
そう……リリーの聖文字、"後継者(ザ・サクセサー)"は自身に友好な者に限り聖文字の能力を全て使用できるという規格外なもの。それによりリリーは聖文字一つしか持っていないにも関わらず実際は十種類を優に越える能力を扱うことが出来てしまう(同時に三つまでしか併用できないという制約はあるが)。
更に完聖体、【神の錫杖】はその聖文字を三つ合成し新たな能力を一時的に生み出すことができる。まさしく神の後継者に相応しい強力無比な能力と言えよう。
しかしそんな能力であっても当然【神の天敵】の対象内だ。範囲内に入ってしまえば全ての固有能力は封じられてしまう。故にリリーはカウンターとして併用可能な枠を一つ潰すことで───正確に言えば目の前の男の聖文字で埋めることでそれを回避した。
無効化の無効化。勿論精度も錬度も彼方が上であるためバルバロッサの能力を封じることは叶わなかったが、こうして自身を保護することには成功したのだ。
「こうなるのが目に見えていたから、貴方とはあまり親交を深めたくはなかったんですけどね……貴方が悪人であったならどれ程助かったか」
「バルバロッサさん……何故、何故裏切ったのです!?陛下のご意志は───!」
「ええ……それなりに前から離反する腹積もりではありました。だが決め手になった出来事がなんなのかは……流石にご存じ無い筈がないでしょう、姫様」
「それは……」
バルバロッサは確かに反意を抱いていた。もしユーハバッハを殺せるチャンスが転がり込んできたら迷わず実行しようと思うくらいには。
しかしそれは怨恨や打算によるものではなく、恋人が悲しまない未来のため───その恋人がつい少し前に聖別によって葬られかけたのだから、彼の腸は冷静な顔からは伺えない程には煮えくり返っていた。
「俺はね、バンビの為ならユーハバッハだろうが殺す。アイツの命を脅かすのが神のような存在であろうが、迷わず引きずり落として殺す。……俺は【神の天敵】ですよ姫様。アイツ俺達の命を手中に握ろうとした瞬間から、俺がこうなるのは決まっていたことだったんだ」
「わ、私が陛下を説得すれば……」
「もう遅い。霊王を殺害して吸収し、計画が最終段階まで進んだ今の奴にとってあんた以外の騎士団員の命なんて大した価値はない。ハッシュヴァルトも例外じゃない」
「ユーゴーは私の夫です!そんな軽々しく扱われる筈が……!」
「否定できるか?今の奴を見ても」
「…………」
帰ってきたのは無言。それを返答と受け取ったバルバロッサは小さく息を吐いて弓をリリーへと構える。
「……バズビーは……バズはどこ?貴方たちと一緒にいたんでしょ!?」
「悪いがアンタは進ませない。アンタは野放しにするにはいささか強すぎる」
「どいて!退きなさい、バルバロッサ!!!」
「───丁重に断らせていただく、滅却師の姫」
最強の滅却師と最強の聖文字使いの決戦が始まる。
◆◇◆◇◆
マシンガンの発砲音の如く連続する爆発。真世界城の空を照らすかのように炎と雷と霊子の雨が交錯していく。
巡らされた大量のトラップによって光速移動による機動性を封じられながらもそれらを"万物貫通"によってえぐり、切り裂きながらリリーは飛翔し続ける。そして相手に対して有効な攻撃を殆ど与えられていないことに歯噛みしていた。
(やりにくい……!聖文字の殆どを無効化される、最大火力の"万物貫通"でさえ……!)
本来ならば全てを貫通する光線も、灼熱も、雷電も、神経への侵食も、肉体の麻痺も───おおよそ相手へと干渉するあらゆる能力が使い物にならなくなっている。現状有用と言えるのは自身かその周囲を対象とする能力くらいだ。
「考えことですか姫様。身体の軸がブレています、よ!」
「───"紆余曲折(ザ・ウィンド)"!」
一瞬の隙を見せたリリーの背後へかき集めた霊子で作り上げた矢を射るバルバロッサ。しかし直前で反応したリリーは使用している聖文字を一つ入れ替え防御を行った。
"紆余曲折"。自身に近付くあらゆるものを物理的にねじ曲げてしまう能力。その名に違わず自身へと向けて放たれた数十の神聖滅矢を全て明後日の方向へと反らしてしまう。
「"世界調和(ザ・バランス)"───私が隙を突かれたという"不運"を精算しなさい!」
「それは俺には効かな───いや、自分に対してか……!」
幸運な者に不運を、不運な者に幸運を与えることでバランスを取る天秤。この場合は「自身が隙を突かれて攻撃された」という不運を埋め合わせるという効果が働くのだろう。
その恩恵を受けてかリリーは腰から剣を抜き放ち踵を返してバルバロッサへ突撃した。そして恩恵により彼女は「一切の隙がなくなり迎撃もされなく」なった。
バルバロッサは即座に矢を連射するもまるで指し示されていたかのようにその全てが回避される。彼は舌打ちしながら弓を消して代わりに三節棍を形成しリリーの鋭い一撃を受け止めた。
「近接戦は得意ではないんですがね……っ!」
「そう……私はどっちも得意、よっ!」
斬る、弾く、叩く、流す。───空中で繰り返される数百の攻防。
"世界調和"や"紆余曲折"は使えない。バルバロッサに近付きすぎているため例え自分に対しての行使であっても上手く機能が働かなくなっている。そのため完全な素の実力での攻防を両者は強いられていた。
しかし両者の武器の交わし合いはその上で互角であった。リリー・ラエンネック……彼女の弓と剣の腕前は千年の研鑽により騎士団の中でも一、二を争う領域にある。まさしく祝福された後継者にして絶対なる姫君。
かといってバルバロッサが強く押されているかといえばそうでもない。彼もまた常日頃から研鑽を繰り返し技を研ぎ澄ませてきた強者。一撃受けたら致命傷になりかねない斬撃の嵐を静脈血装(ブルート・ヴェーネ)や三節棍で的確に防ぎ、受け流し続けている。
「懐かしいですね。昔はよくこうして貴方と稽古をしていたものです」
「……はい。騎士団に入ったばかりの頃……弓や剣の手解きをしてくれと、私に頼み込んできた貴方の姿を覚えています」
「いや、貴方が是非教えたいと押し掛けて来たような……いえ、その節はバンビエッタが何度も失礼なことをして申し訳ございません」
「私はあの子に嫌われていますから……」
軽い世間話を交わしつつバルバロッサは三節棍でリリーの剣を絡めとり、更にその両腕を己の聖文字によって生み出した強硬な霊子の拘束具で捕縛する。
しかしリリーは"力(ザ・パワー)"を使用してその拘束具を苦もなく破壊。そして"食いしんぼう(ザ・グラトン)"で眼前のバルバロッサの喉を噛み千切った。
(っ、囮(デコイ)───拘束を破壊したあの一瞬で入れ替わっ……!?)
「人に噛みつくなんて行儀の悪いお人だ!」
「くっ!」
喉を食い千切られた筈のバルバロッサから吹き出したのは血ではなく霊子。それ即ち今攻撃を受けたのは霊子操作能力の力で作り上げた彼そっくりの霊子の人形であったのだ。
作ったチャンスを利用してリリーの背後に回ったバルバロッサは彼女の背中へ渾身の蹴りを叩き込みトラップだらけの空間へと吹き飛ばす。
リリーも抵抗として怪力化させた膂力で剣を投擲しバルバロッサの肩に浅くない裂傷を作るが、そのまま大量の鎖や糸に絡まれながら空中で編まれた滅却印(クインシー・ツァイヒェン)による正十二面体の結界閉じ込められてしまった。
が、
「───"完全反立(アンチサーシス)"」
まるで瞬間移動の如く、リリーは己の投擲した剣と自身の立場を"入れ替えた"。結界の中に剣が、そしてバルバロッサの背後に無事なリリーが出現する。
石田雨竜の発現せし聖文字、"完全反立"。指定した二点で既に起こった出来事を入れ替える能力。これを使ってリリーは"自身が拘束されたという事実"と"剣が遠くへ投擲された"という事実を存在ごと置換したのである。
石田本人から能力を聞いてはいたバルバロッサであったが初見の能力故に反応が一歩遅れた。それを見逃すリリーではなく、彼女は"力"と動血装(ブルート・アルテリエ)によって肉体を最大限まで強化し"雷霆"の速度でバルバロッサへと迫る。
当然受ければ即死の拳。受ける訳にはいかないためバルバロッサは辛うじて反応した頭で今出せる最大の防御を行う。
「っ……外殻静脈血装(ブルート・ヴェーネ・アンハーベン)!!」
「無駄です!」
背後に展開される五重の障壁。その全てが一瞬にして叩き割られるも、コンマ数秒の遅れが生じる。その時間を最大限利用してバルバロッサはギリギリのところでリリーの拳を回避。そのまま突っ込んできた彼女の身体をしっかりと受け止めた。
「石田の聖文字、既にそこまで使いこなしますか!」
「なっ……離しなさいバルバロッサ!私は既婚者ですよ!?」
「ただの親愛の抱擁ですよ。それと……少々下まで付き合ってもらいますよ、プリンセス」
「…………まさか!」
気づいたときには既に遅かった。バルバロッサは抱き締めているリリーを自分ごと多重の鎖で拘束。聖文字の力も彼女の身体に直接触れることで発動出来なくしながら霊子を翼から吐き出し───"地表"へと加速を開始した。
「ちゃんと防御してくださいよ姫様!少し痛いと思いますから!」
「っ~~~~~~~~!!!」
一秒足らずで超音速を突破した両者はそのまま真世界城にあった大型の建造物へと着弾。尋常ならざる爆発が轟音と共に戦場へ木霊した。
◆◇◆◇◆
建物へと突っ込んだ二人は床を共に跳ね、着弾時の衝撃で空中分離しながら互いへと神聖滅矢を連射する。リリーに向かう矢は"紆余曲折"によりねじ曲げられ、バルバロッサへ向かう矢は一瞬にして霊子の塵へと分解される。
両名ともに遠距離攻撃では埒が明かない事を再確認し近接戦へと移行。リリーは"完全反立"で手近な所に落ちていた小石を空に置いてきた剣と交換。バルバロッサも三節棍、それも双頭部をゼーレシュナイダーような振動する刃のついたものを高速で形成し一合目を交わす。
「いつ見てもインチキじゃありませんかその分解術!?陛下でもそんな事出来ないのに……!」
「俺にはこれくらいしか特筆すべき点がないもので。俺は貴方のようにユーハバッハから後継者に選ばれた訳でもなければ、ハッシュヴァルトのように与える者でもなく、ペルニダのような霊王の遺骸を持っている訳でもない。ただただ在るものを磨き続けるしかなかった」
「何のために!」
「あの子を守るためだ───!!」
バルバロッサはリリーの剣を大きく弾き飛ばし、腕を切り落として無力化せんと双頭槍となった三節棍を一閃した。だが瞬きする間もなくリリーは"完全反立"でバルバロッサの背後の瓦礫と自分の位置を入れ替えて回避。無防備のように見える彼の背中に攻撃する。
だがバルバロッサはただ冷静に後ろ向きのまま三節棍を操作してその剣を防御。再び反撃しようとするも今度は正面にリリーが現れまたもや攻撃。それを防ごうと動いた瞬間リリーは剣を握る反対側の手に握りしめていた小石と剣を入れ替えて変則的な斬撃を繰り出す。
(石田め、こんな厄介な能力だとは聞いてないぞ───!)
小刻みに繰り返される超連続転移による全方位攻撃。インチキはどっちだと苦言を呈しそうになりながらもそれらを最小限の手傷で抑えながら捌きつつ、事態を打開するためにバルバロッサ大きく跳躍。天井を突き破って外へ出ながら三節棍を追いかけようとしてきたリリーへと投げつけた。
勿論そんなものに当たるような相手ではない。リリーは風に揺れる羽のように軽やかに回避してしまう。
「想定内だ」
「!」
三節棍が地面に刺さった瞬間、そこを起点として五つの光の線が何処かへと伸びていく。嫌な予感がしたリリーは一瞬だけ辺りを見回すと───空に巨大な神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)が五つ、地上へと狙いを定めていることに気づいた。
「まさか───」
「もう遅い……!!」
状況確認の為の一瞬の隙間利用して再びリリーの身体を掴んで能力による防御と離脱を封じるバルバロッサ。"万物貫通"や"完全反立"による攻撃回避を抑え込まれたリリーは冷や汗を流した。
「やめなさい!自爆する気ですか!?」
「姫様、生憎俺に霊子の攻撃は通用しないんですよ。───大破芒陣(リーズィヒ・シュプレンガー)、起動」
大聖弓から放たれた五つの矢がそれぞれ五角形の頂点を穿つように地面へと差し込まれたと同時に中央点より伸びた光の線と結合。即時に周囲の霊脈から霊力吸いながら滅却印を形成し、内部に超大規模の大爆発を発生させた。
「──────!」
「……………!」
互いの声すら聞こえないほどの音量と熱に包まれる。バルバロッサは静血装の展開と自身に触れる霊子の本流を分解することで耐えているが、リリーは静血装以外の防御手段を封じられ上でこの一撃を受けている。
最低でも多少目に見える程度のダメージは入る筈……そう思いながら光を受け続けていたバルバロッサであったが───光の本流の中から突然伸びてきた手が彼の頬を殴り抜いて吹き飛ばしたことでその思考は中断された。
「がっ、は!?」
「"万物貫通"───裁きの光明!!」
僅か数秒にも満たない間に見えない光が全てを破壊し尽くす。地面へと差し込まれた巨大な神聖滅矢は周辺地形ごと消滅させられ、空へと伸びる破邪の光柱もまるで無理矢理くり貫いたような不自然な形で消滅させられていく。
「リジェ……お前の能力、いざちゃんと体感してみると滅茶苦茶だな、おい……!」
「これ以上貴方に付き合っている訳には行かない───!墜ちなさい、バルバロッサ!!」
殆ど無傷のリリーの姿を見て勘弁してくれとばかりに辟易とした表情を見せるバルバロッサであるが、その顔の裏には余裕のようなものは欠片たりとも残っていない。
強すぎる。あまりにも。聖文字の能力を抜いたとしても基礎能力は殆ど互角ないしは劣っている。重ねてきた年期が文字通り桁違いとはいえ、かつては神童と謳われた自身のプライドがあっさりとへし折れる音が聞こえてくる気すらしてくる。
それでもやらねばならない。例えボロ雑巾のように成り果てようが、自分の役目だけは果たさねばと立ち向かおうとするバルバロッサであったが───無尽蔵にも思える彼の精魂もついに煙を上げ始めた。
「っ、は───ぐ、ぁ……ッ……!?!?」
ガクン、と身体から力が抜け落ちる。何かしらの能力によるものではない、単純に限界が近づいてきた、いいや既に限界を振りきっていることへのサインだ。
真世界城に突入する前に行われた更木剣八との二度目の戦闘。始解に目覚めた彼の能力は尋常ならざるものであり、騎士団屈指の実力者であるグレミィ・トゥミューを事実上の撃破まで追い込んだ彼との死闘はバルバロッサにとっても大きすぎる負担であった。
更に自身だけでなく多数の者を聖別から防御し、気を抜いた瞬間を狙われることを避けるために第二次侵攻からずっと完聖体を展開し続けていた彼の疲労は既に許容限界を通り越している。
(まだだ……まだ俺は……!!)
「いい加減───退けぇぇぇぇえええええええええええええ!!!!!」
「ッ───!!」
リリーがそんな彼の状態を見逃す筈もなく、"万物貫通"で地面をくり貫いて作り上げた即席の巨岩を"力"と動血装による身体ブースト全開で投擲。戦艦の砲撃顔負けの速度で迫るそれを完全に防御するにはあまりにも条件が悪く───
「……遠い、な」
辛うじて静血装を展開するも分解も間に合わずにそのまま岩石を直撃を受けるバルバロッサ。全身の骨がいくつも破壊される感触を感じながら大きく吹き飛び、いくつもの建造物を貫通してから彼は力なく地面へと伸びた。
意識は辛うじてある。本来ならばそのまま気を失ってもおかしくはないが、バルバロッサは自分に残った全ての力をかき集めて意識と完聖体の維持を続けている。
「…………………せめて……バンビだけでも……助けない、と……」
乱装天傀を使って自力では立てない身体を起き上がらせながら、力のない足取りでバズビーやアレクサンドラとともにハッシュヴァルトを抑えに向かったバンビエッタを助けるため前に進もうとするバルバロッサ。
しかし、前に行こうとする彼に立ちふさがるように、見知った顔が姿を見せた。
「……キャンディス……」
「…………バルバロッサ、ここは、通さないよ」
今、彼が一番会いたくなかった相手が其処にいた。