江の島に行くには

江の島に行くには



「中国からクァンシが刺客として来るそうです。おそらくお仲間の魔人達と一緒に来るでしょうね」

マキマは岸辺と共に、送られて来る刺客への対策を話し合っていた。中国のクァンシは岸辺の元バディ。高い戦闘力に加え、女の魔人たちを愛人にして侍らせている。とにかく厄介な相手だ。

「…クァンシは警戒してても仕方ねえか。警戒すべきは…」

「ドイツのサンタクロース」

「来ると思うか?」

「どうでしょう…寿命で死んだという噂もありますが…」

「アイツに悪魔を使われたら終わりだからな。天に召されてるのを祈るか」

デンジは小学生向けのドリルに取り組んでいた。レゼとの邂逅で学校に興味を持った事に加え、暇だったからだ。

「旅行の邪魔だ…」

「一生ずっと殺し屋に狙われるわけじゃねえ。今回来るのを全員捌けば、相手も様子見してくる。そうすれば旅行に行ける」

楽な相手ならいいな、とデンジは思った。アキ達が大きな怪我をしないで済む程度の…そんな事はあり得ないとポチタは楽観に縋ろうとした己を自嘲する。

「ああいう鳥って捕まえて食っていいのかなあ」

「ワシが大統領だったら許可するがのお…」

鴨の親子を眺めながら、パワーとデンジはおにぎりを食べていた。その後方にはデンジの護衛を務めるアキ達に加え、宮城公安対魔2課の日下部や玉置、民間の吉田ヒロフミがいる。

「ここにアキ君と姫野さん。京都からあと3人加わってしばらくデンジ君にくっつきます」

先日、デンジは護衛の任務にあたるハンター達と顔合わせを行った。他にもレゼ含めた他の職員が周囲で動いている、とマキマは説明する。

「こんだけゾロゾロいたら、目立ち過ぎじゃないスか?」

「それだけ厳重な警備が求められているんです。京都から来るスバルさんは宮城で2課を指導してくださったお方です」

「大変お忙しい方なのに護衛に来るなんて…」

デンジの問いに、見慣れない男達が答えた。ハンバーガーショップにも、護衛の人員と共に入店する。旅行先で食事する時はこんな雰囲気なのかもしれない。パワーがハンバーガーに挟まっている野菜に悪戦苦闘している時、デンジは刺すような痛みを覚えた。

(?)

小さな傷を見つけ、どこかで引っ掛けたかとデンジは傷を検める。残滓程度だが、傷は呪いの悪魔の力を発していた。恐らく刺客の誰か。デンジは混雑する店内を見回して実行犯を探してみるが、パワーが「もうヤじゃあ!嫌いじゃあ!!」と野菜を食べさせられている事にキレて席を立ち、そっちに意識を持っていかれてしまった。

「顔は見たか?」

「悪い…気づいた時には刺されてた…けど小さい傷だったからな、そんなに大きな武器じゃねえ。針とか…釘かな」

「アキ君の刀サイズじゃなくてマジの釘なら、かなり厄介だね」

デンジが相談すると、アキ達は別働班に連絡を回して店に見張りを回した。デンジ達は引き続き、街歩きだ。

「もう人間は嫌いじゃあ…」

「疲れた…」

デンジ達はその後、11時まで歩き詰めだった。どうも彼らは自分を囮に各国の刺客を釣ろうとしているようだ。デンジの疑問をアキが肯定した。

「なんじゃとお!?」

「もっと頭使ってくれよ!」

デンジとパワーはアキに詰め寄るが、江の島旅行を出しにされたらデンジは黙るしかない。自分達の方が頑丈なのだから前に立つべき、という理屈も理解できるが1日歩き通すのは疲れる。

パワーは依然として旅行に行く気はないのか、アキ達に仕事の褒美を要求した。

「ならパワーちゃん、何か欲しいものないの?」

「誰か人間1人の闇を食い尽くしたいのお…」

「いいだろうわかった。今回のが一段落したら死刑囚をくれてやる」

笑みを浮かべたパワーは舌舐めずりをして闇を喰らわれる人間1人を要求した。闇を食う、というのがどういうものかデンジにはピンとこない。パワーに尋ねてみた。

「人間は弱っちいからのお。見たくないものは見ようとせん。嫉妬とか恨みとか…腹は膨れんが、いろんな味が愉しめるんじゃ」とパワーは更に笑みを深くした。

翌日、いつものように街を巡回しているとコベニと暴力の悪魔が声をかけてきた。京都で襲撃にあった黒瀬の姿もある。天童達を喪った黒瀬を気遣い、アキは療養を勧める。

「あれはウヌの車か?」

「ふぁ…あ…お給料で買ったんです…家族の送り迎えもできるし…」

「ほぉ…ワシは最近歩き疲れておったからのお…丁度いい!ワシを乗せろ!」

アキと黒瀬が話し込んでおり、手持ち無沙汰になったパワーはコベニの車に目をとめた。コベニに構わず、パワーは車に近づき、車内を眺める。

「ワシの持っている車に似とるなあ…これワシの車じゃないか?ウヌは盗人なのか?」

「えっ、ち…違います…!」

パワーはコベニに断りなく、車の運転席に座るとこれが自分の愛車であると確信する。コベニが何か言いたそうにしていたが、この車はパワーのものである。

「安心しろ、免許証くらい持ってるわ!」

アキとの会話を終えた黒瀬はデンジに声をかけてきた。握手を求めてきたが、デンジに握手の習慣は無いし、男相手は"デンジ"も嫌だろう。渋るデンジだったがアキに注意されると、仕方なく黒瀬との握手に応じた。

ーーそこに車が突っ込んできた。

轢かれた黒瀬はガードパイプに後頭部をぶつけて動かなくなる。

通行人、護衛にあたるハンター達の視線が歩道に乗り上げた車に集まった。車内にいたコベニとパワーは血の気のひいた顔のまま固まっていた。


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