永遠にwip
「トリック、オアトリート?」
ハロウィンの早朝、朝の挨拶より先にマントのようにシーツを羽織った吸血鬼(のつもりだ)が問いかける。
普段ならこんなイベントなどには積極的に参加せず遠巻きに観察するに留めているのが僕らしいけど、今日はそれに乗じてイタズラをしても許される日。
エピファネイアさんはこの数ヶ月を一緒に過ごして見てきた限りではかなり捻くれた人だし、お菓子の用意なんてしていないに違いない。いつも散々振り回してくれたお返しに、今日くらいはこっちが困らせてやろう。と起き抜けに思いついて勢いで実行したのが
「……?ああ、おはようコンちゃん。お菓子だったらそこのサイドテーブルにしまってあるから、好きなの一つ取っていいよ」
……とんだ見込み違いだった。
「朝一で『トリックオアトリート!』なんて……コンちゃんもハロウィン楽しみにしてたんだねえ。勝手にクールなイメージ持ってたからちょっと意外だな」
このヒトはいつもこうだ。勝手に懐いてきてとても先輩とは思えないような甘えた姿を晒している癖に、こちらが隙を見せると年上面でニコニコと笑いかけてくる。今回に限れば僕の方が子供っぽかったというのは否定できないけど、どうにも腹に据えかねて何か言い返さしたくなってしまう。
「そんな言い方してません。エピさんこそ、ハロウィンなんかに乗っかるのは意外ですけど」
「えー?おれはお祭り結構好きだよ」
それは本当に意外だ。
「やっぱりお祝いごとなら楽しむべきだと思うしね?皆でバカ騒ぎしてるのに混ざったら、自分が仲間外れじゃないんだって思えるから……」
「そ、そうですか……」
想像していたより重い心情を溢されて言葉に詰まった。
でも、寂しく思っていて自覚があるのなら、それを素直に吐露すれば構ってくれる相手くらいもう少し増えそうなのに。と思いかけたところで、自分がエピさんと出会った直後の刺々しい言動が脳裏に蘇る。
きっと、エピさんはああすることでしか自分が他人に受け入れられているか測れないし、今までのヒト達はそれに付き合い切れなかったのだろう。
「……」
「コ、コンちゃん……?」
「何でもないですよ」
そう、本当に何もない。
僕はそんな彼が僕には率直な寂しさや甘さをぶつけてくる事に優越感など抱いていないし、ましてやその相手がこれからもずっと僕だけでいればいいなどとは微塵も思っていないのだから。絶対に。