氷と烏

氷と烏


注)16巻ネタバレあり


第一印象は、よく分からない男というものだった。まだ、俺が3席だった頃松本が同期の男だと言って紹介したのが始まりだった。

五番隊副隊長をしているというその男は紫色の長いくせっ毛をしていてその目は長い前髪で窺い知ることが出来ない。戦いずらそうな見た目をしてるな、と思ったことを覚えている。


そして、俺が隊長になりそれまでと違い接することが多くなってからは読めない男であるという認識へと変わっていった。雛森からはだらしのない人と評されてはいたが、俺から見た彼はそう評されることが分かっていて敢えてそう行動しているように見えた。

藍染隊長に副隊長の枠を超えて親しいのは彼がその人に育てて貰ったという話を風の噂で聞いた。何でも父のように慕っている、とかなんとか。


そんな父のように慕っているらしい、藍染隊長の訃報があったその日アイツはそんなこと知りませんと言いたげにいつもの笑みを浮かべこちらへ挨拶してきた。


「あ、日番谷隊長。こんなとこにいたんですねー」

探し回ったのであろう、死覇装を若干乱している。彼と対面したのは藍染隊長の私室。隊長の遺品の整理は基本的に副隊長の仕事とされているが、俺が今この部屋にいるのは雛森に何か慰めになるようなものが無いか探しに来たからだ。


「ん?あぁお前か。悪いな勝手にここに入って来ちまって」

「それは構いませんよ、雛森ちゃんのためでしょう?」

そう口角を上げたその男は、変わらずその表情は前髪に隠され窺い知ることが出来ない。けれど、隊長を失った副隊長の対応では無いことは明らかだった。それに思わず眉間に力が入る。


「うちの3席がお世話になったみたいで、申し訳ないです。」

そう頭を下げた男に「それだけか」と思う。もっと言うことがあるだろう。例えば「藍染隊長」のこととか。

それに触れることはせずに男は変わらずヘラヘラした様子でこちらに聞いてきた。


「それで、雛森ちゃんに良さげのものありました?」

「ああ、引き出しの中から雛森当ての遺書らしきものを見つけた。」

そう言ってそれを見せれば彼は一瞬固まる。「なんで、雛森ちゃんに……?」と困惑した様子だった。

今日初めてその笑みが崩れた彼は失礼、と前置きした上で俺の手からその遺書を奪っていった。

そして、奪ったその手でその遺書を開けて読んでいく。


「は??なんでてめぇ、読んでやがる?!雛森宛って言ってんだろうが!」

「一応、確認しとかなきゃいけないとおもいまして。」

文字を見て、「うんこれは藍染さんの字ですね」と言った彼は内容を確認すると何故か天を仰ぎ大きくため息をついた。

確認なら文字を見ればいいだけなのになんで内容も確認するのか。そうイラついていると、目の前の男から信じられない発言が飛び出てきた。


「本当に死んでくれてたら良いのになぁ」

それは、不意に出てしまったと言わんばかりの小さな呟きだった。しかし、その空間には男と自分の2人きりでそれは否応なしに俺の耳に入ってきた。

不意に出てしまったからこそ、本音なのだろうと思えて俺の中で目の前の男への警戒心が上がっていく。

けれどこういうということは藍染隊長殺しの下手人ではないのだろうと頭の隅で考えた。


それを知らずか男はその遺書の内容を見せるようにこちらに広げた。

「日番谷隊長、あなた藍染さん殺したんです?」

「は?んなわけねぇだろ」

「でも、この遺書日番谷隊長が下手人って書いてありますけど。」

その遺書を指さしながら言う彼に指してある部分をみると確かに俺の名前が書いてある。

それに頭が真っ白になった。


「この反応は白。何がしたいんだかあの人は。」

溜息を吐いている男を尻目に、俺の脳内は困惑の2文字に埋め尽くされていた。


「日番谷隊長ー、大丈夫です?」

「なんとかな…」

頭が痛くなってきた気がしてそこを抑える。

「一つ、提案があるんですけど大丈夫ですか?」

「提案?」

「これ、このまま雛森ちゃんに渡しましょう」

「は??この明らかに罠と言いたげな遺書をか?」

この男、正気なのだろうか。


「敢えて罠にハマりましょう。それで罠をしかけた人を炙り出すんです。大丈夫ですよ、なんとかできる範囲なら何とかするんで。」

「お前には誰が罠をしかけたのか分かってるのか?」

まるで検討がついていると言いたげな物言いに思わず聞く。


「まあ、何となくは?でも言いませんよ。今言っても戯言と思われるだけですもん。」

肩を竦めてそういう男はとてもじゃないが親代わりで父のように慕っていたという者を失ったようには思えない。

俺の中で男に対する警戒が上がる。


それが間違っていたと知るのはそう遠くない未来だった。




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