気分転換のシャワールーム
とある昼間、オルティガはアジトにこしらえた仮設シャワールームに居た。脱衣所の洗濯カゴには、作業用の服であろう白シャツにピンクのツナギが無造作に脱ぎ捨てられていた。
シャワーの水滴はただ、彼の色白の肌を伝ってぼたぼたと落ちるだけ。オルティガは己の苛立ちのままに、右手の平を壁に叩きつけた。
「……」
原因は十分ほど前に遡る。それはオルティガがスターモービルの整備をしていた時のことだった。いつもはボールの中で大人しくしているバウッツェルが、今日に限ってやたらと邪魔をして来たのだ。
使おうとしていたネジをわざと咥えて持ち去ったり、細かい作業に集中したい時に吠えて気を引こうとする。あまりにも作業が進まないので、バウッツェルはしたっぱ達に抱き抱えられ、アジト裏のビーチで遊ぶことになった。
何故なんだ。今日カチコミが来てもおかしくないのに。スター団の仲間達は転校生のカチコミで次々に打ち倒された。ピーニャも、メロコも、シュウメイも。強さ順からして次は自分。早く、早くスターモービルの強化を終えない。ここで負けてはいけない。なのに、なんでこんな大事な時に限って。
頭の中で責任と焦りと苛立ちの言葉が堂々巡りする。生温いシャワーはオルティガを励ますでも咎めるでもなく、無関心にオルティガの肌を滑っていく。やり場のないもやもやがオルティガに募っていた。
そんな折、急にシャワーの流水が止まった。
「……は?」
まもなく冷や水が噴き出し、オルティガの全身にかかる。
「冷たっ!故障かよ!」
オルティガは慌てて蛇口を閉め、シャワーを止めた。
だが今の冷や水でオルティガはふと思い至った。ここ最近はスターモービルの整備を言い訳に、手持ち達の世話を他のしたっぱ団員に任せっぱなしだった事を。居心地の良いゴージャスボールに入っていても、他に遊んでくれる人がいても、アイツが1番遊びたいのはトレーナーの自分だ。少なくともバウッツェルにとっては、ずっと我慢の連続だったのだ。
そう考えると遊んでやりたいのも山々なのだが……やはりスターモービルの作業が最優先だ。ここが団の存続がかかっている大一番なのだ。どうか、後もう少しだけ我慢して欲しい。カチコミを返り討ちにしたら、今度はいっぱい遊んでやるから。
オルティガはクタクタになったタオルで身体の水気を拭いた。作業着に袖を通すと、頬を叩いて気合いを入れ、作業場へと戻っていった。