毒の話
「毒殺は好かん」
そろそろ飯時か、と思っていた節に丁度良く珍味と酒を持って現れた男は、先程捕まえた雉を焼いたものにかぶりつきながら、憮然と言い放った。
「それは飯を食べながらする話か?」
相変わらず脈絡の無い、と返す。
「最近は毒殺が流行りらしい、今月の被害は未遂で終わったのが俺の知っている限り5件だ」
成程あの憮然とした態度も頷けるものだ。
「5回も毒殺されかけてやけ酒を飲みにここに来たと」
と笑いなど堪えずに言ってやる。
「毒を盛られたのが珍しい食材でな、お前と食べたいと思っていたのに、食材が勿体ない」
とまたしても憮然と返ってくる。
こいつは貴族に珍しく“勿体ない精神”とやらをお持ちのようで、「命を頂く意味をわかっていない」とお冠のようだ。
「まぁ俺に毒など効かんが」
口にするのは周知の事実。
それに対し、ふふ、と笑う。
「だからそのまま持ってきた」
さらりと事も無げに言う。
「気付いておるわ、お前でなければ殺していた」
気にはしない。お前であれば。何故なら──
「俺がお前を毒殺するとは思わないのか?」
意味も理由も何一つない事をわかっていながら言ってのける。
「思わん」
「そうか。それで?今回の毒は美味いか?」
そう。全く思うことなど無いのだ。
何故なら、俺もこいつ(は俺からの口伝だが)も、毒には旨味や甘みがあるものが多いことを識っているからだ。
「そうだな。これは本来ならもっと苦味が強いはずだが、甘みが増して美味くなっているな。毒様々だ」
自然と口の端が上がる。
「それは重畳。では、今回は不問かな?」
「わかっているだろう?不味かったら疾うにお前の脚で口直しをしている所だ」
「おや」
珍しく目を見開いている。この程度で驚くようなたまでは無いはずだが。
「当てが外れたな。腕を喰われるつもりでいたのに」
などと宣う。
その腕を掴み、嗤いながら
「望み通りにしてやろうか?」
と問えば、
「好きにしろ」
と笑う。
微塵の恐れや怯えもそこには無い。
「お前は優しいからな」
今度はこちらの目が見開かれた。
治してくれるんだろう?と和く笑う顔に、何時も毒気を抜かれるのだ。