残る命、散る命
久し振りの食事だった。
久し振りの温かいお風呂だった。
久し振りの柔らかい寝床と、安眠だった。
──なんで……。
今まで余裕が無くて、信じたく無くて出来なかった皆の墓参りに着いてきてくれた。
足りない復興資金を集める案を出してくれて、連邦生徒会の秘密金庫の襲撃にも手伝ってくれて、久し振りに利息をキチンと払えて余裕が生まれた時もあった。
「──どう、して……」
癒えない傷の痛みを和らげて、寄り添ってくれたその人といた時間は短くても、かつて皆といた時の私に少しだけ戻れた気がしていた。
だから、会えるのは最期になるとわかってしまった今、せめて別れを告げたいと残り少ない時間を使ってでもその人の元へと脚を向けて──ソレを見た。
「──……っ!!!」
遺体、骸、屍。
表す言葉はいくつもあるけれど、どれも一つの真実を示している。
メノマエのそれはもう息を引き取っているのだと。
それは痩せ細った枯れ木のような有様で、面影が無くてそうだとは信じられなかった。
でも、だけど。
それが身につけているのはこの世界に一つしかない淤能碁呂学園の制服で、どうしようもない現実を突きつけてくる。
苦しいとき、私を助けてくれたアナタは。
かつてのホシノ先輩のようにマフラーを巻いてくれたアナタは。
この荒れ果てた地で野晒しのまま餓死していた。
「う、あ、あぁ……っ!」
最初に会った時を思い出す。
酷い顔をしているなと、そう思ってしまうほどにやつれていた姿を。
幾度も構われた時を思い出す。
食事を用意してくれて、お風呂を用意してくれて、一緒に寝てくれた時を。
自分はいいからと言われた言葉の意味を気にせず鵜呑みにしてもなお、目に焼き付いた老いた瞳を。
手伝ってくれた時を思い出す。
十全じゃない状況で行った連邦生徒会秘密金庫の襲撃で、撤退時の判断を違えた時、身を挺して庇いながら防ぎもせずに反撃していた彼女の姿を。
それら総てが、この結末に至ってしまった原因を突きつけていた。
──考えずに甘えていた私のせいなのだと。
皆の時から何も学ばずに繰り返した愚者への罰なのだと。
「っ──────!!!!!!!」
乾いた叫びが夜の帳が降りた世界に響く。
少しだけ埋まっていたヒビだらけの心が割れていくのだけを感じながら、慟哭だけが朽ちた御仏を震わせた。