残された者

残された者

色々と自己解釈だったり妄想が入ってます


任務終わり、自分の携帯にとある連絡が入った。差出人は家入先輩から。件名はなく、ただ「早く帰ってこい」とだけ。

嫌な予感がして、同行していた補助監督さんに車を走らせてもらった。


高専に到着した。敷地内には人はおらず、不気味なほどに静まり返っている。

校舎に入る。自然に、足は霊安室の方に向かう。────そんな訳はない。ふと過ぎった最悪の事態に心臓が早鐘を打つ。


扉が見えた。早足で駆け寄り、扉を勢い良く開ける。


「先輩、何があっ…た…?」


何、これ。


「…ぁ、え……?」


目に飛び込んできた光景が受け入れられず、掠れた声がこぼれる。


「……はい、ばら?」


そこにあったのは。

力無く横たわる学友の、その、遺体だった。


.


なんて事の無い二級呪霊の討伐任務のハズだった、というのはけんちゃん……同じ呪術高専二年生・七海健人の言だ。


「クソッ…!!産土神信仰…あれは土地神でした…1級案件だ…!!」


吐き捨てるようにそう言ったけんちゃんに、何て声をかければいいのか分からず、自分は黙り込んでいる。


「今はとにかく休め七海。任務は悟が引き継いだ」


夏油先輩はそう言ったが、あまりのショックに自分にはもはや何も聞こえていなかった。


「自分が、いれば…」


何か変わったかもしれない。そう言いかけたが、最後までは言えなかった。


「……もうあの人1人で良くないですか」


けんちゃんのその言葉に遮られたから。

その言葉に少なからず納得してしまったから。

五条先輩1人で何とかなると思ってしまったから。


「…すまない、私はもう行くよ」


夏油先輩が出ていく。残されたのは自分とけんちゃんと、物言わぬ遺体だけ。


「……灰原は、何て言ってたの?」


けんちゃんに尋ねる。我ながらなんて事を聞いているんだ、と思った。

けど聞かずにはいられなかった。聞かなかったら後悔するような気がしたから。


「…後は頼む、とだけ」


「…そっか。灰原らしいなぁ」


明るくて、優しくて、自分よりも他人を優先して、その結果損しても気にする素振りはなくて、人を助けるのが好きで───

大事な、友達だった。


「じゃあ、灰原の分まで頑張らないとね!」


わざと、声色を変えた。さも気にしていませんよと言わんばかりに明るい声だ。


「…先、戻ってるね」


それだけ言って霊安室を出て自分の部屋に向かう。

扉を開けてベッドに倒れ込む。


「…ぅ、ぁ……っ!」


糸が切れたように涙が溢れてくる。


「やだ、いやだよ…」


止まらない。1番辛いのはけんちゃんの方だろう。泣くな。


「…はい、ばらぁ……!」


友の名を呟いた。

思い出せば出すほど、死んだという事実が重くのしかかる。

もう話すことはできないと思うと胸が苦しくなる。


.

「ぅぇっ、ぐす……」


どれぐらい泣いていたのだろうか。ようやく涙が止まった。

鏡で自分の顔を見てみると、目元が真っ赤になっていた。酷い顔だ。


「もっと、強くならなきゃ」


弱々しい自分の顔を見ながら、ぼそりと呟く。


誰かが死ぬのなんて、自分はもう見たくない。

灰原の分まで強くなって、そして───


人を、助けよう。

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