死んでしまえ、醜い売女

死んでしまえ、醜い売女

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 ルフィとの逃亡生活が始まって、早数週間が経過した。

 私たちに恨みがある海賊やお金目当ての賞金稼ぎ、更には激怒した天竜人からの命令を受けた海軍のみんなからの猛追をどうにか掻い潜りながら、私とルフィは今日も今日とて、当ての無い放浪の旅を続けている。

 本当、航海術の講義をサボらずちゃんと受けておいて良かったと、しみじみと思う(ルフィは居眠りばかりしてたけど)。

 そうでなければ私たちは今ごろとっくに、海の藻屑と成り果てていただろうから。


 雨が降りしきる夜の中、私たちは人目を避けるようにフードを目深に被って山道を行く。

 もはや第一級のお尋ね者となってしまった私たちには、フカフカのベッドがある町の宿を取ることなんて到底できやしない。

 こうしてどうにか寝床にできそうな場所を追い求めて、さまよい歩くしかないのだ。


「ウタ、大丈夫か?」


 少し先を進むルフィが、気遣わしげにそう訊ねてきた。


「うん、平気。ルフィの方こそ大丈夫? この間の傷、まだ痛むでしょ?」


「こんなもん掠り傷だ。屁でもねえよ」


 ニカッといつも通りの笑顔を作るルフィ。

 そんな彼の背中を見ながら、私は数日前の出来事を思い返す。





 数日前、私とルフィは追ってきた海兵たちと交戦した。

 私たちを匿ってくれると言ってくれたはずのお婆さんが、懸賞金目当てに通報したのだ。

 率いていたのはモモンガ中将。ルフィも私も海兵時代にはよくお世話になった人だった。


「ルフィ元大佐、ウタ元准将! 大人しく投降しろ! 悪いようにはせんと約束する!」


「嫌だ! たとえモモンガのおっさんの頼みでもそれだけは聞けねえ! ウタはおれが守るんだ!」


「ならば力ずくで連行するまで!」


 激しい戦闘だった。

 私の能力はきっちり対策されていて、覇気と体術による白兵戦を余儀なくされた。

 私が一般兵を相手取る中で、ルフィはモモンガ中将を一手に引き受けてくれていた。


 猛者揃いの海軍中将の中においても、ひときわ鋭い剣腕の持ち主たるモモンガ中将は、斬擊が弱点のルフィからすれば相性最悪の相手である。

 身体には無数の切り傷が付けられ、ギア2と六式を織り交ぜた技の数々も、見聞色の覇気によって見切られてしまう。

 もはやこれまでかと思われたが……


「ウタ! やるぞ!」


 ルフィが私にそう声を飛ばした。

 長年肩を並べて戦ってきたが故の阿吽の呼吸というやつだろうか、その短い言葉だけで彼が何をしようとしているのか悟った私は、取り囲む兵士たちを蹴散らし、安全圏に移動する。

 同時、ルフィが勢いよく飛び上がった。


「ギア3! “巨人族の腕”!!」


 骨風船。

 ルフィがギア2に続いて編み出したその技は、まさしく巨人族の如くルフィの右拳を肥大化させた。

 そしてそれは更に、武装色の覇気によって固く強化される。


「こ、これは……!?」


 さしものモモンガ中将も焦りを帯びた声を上げる。

 だけどもう遅い。


「ゴムゴムのォオオオオオオオオオオ!!! 象銃(エレファント・ガン)!!!」


 大砲の玉みたいなそれが振り下ろされ、地面を大きく揺らし砕く。

 衝撃波によって一般兵たちが吹き飛んだ。

 その光景に胸が痛むのは、やはり私の心はまだ海兵である証なのだろうか。


「くっ、おのれ小癪な……!」


 さすがというべきか。

 モモンガ中将は当然のように凌いでいた。

 だが戦況は大きく崩れた。土煙が立ち上る中、ルフィがこちらに駆け寄ってくる。


「今のうちだ、走るぞ!」


「うん!」


 混乱に乗じて、私とルフィはその場を離脱する。

 モモンガ中将たちは尚も追いすがってきたものの、私たちはそれを辛くも逃れ、振り切ることに成功したのだった。





「今日はここにしよう」


 雨足が更に増した頃、ルフィが足を止めて言った。

 眼前に見えるのは自然窟と思しき小さな洞穴。

 野宿もザラな今の私たちからすれば、雨風を凌げるというだけで非常にありがたい。


「おれが先に行く。お前は後からついてこい」


 警戒心も露に、ルフィがそろそろと洞穴に近づいて覗き込む。

 こういう自然にできた洞窟には、獰猛な野生動物が住み着いている可能性が高い。

 また、私たちの動きを察知した追っ手が先回りしていないとも限らないから、警戒は常にしておかなければいけないのである。


「よし、いいぞ」


 ルフィが手招きし、私たちは洞穴に潜り込んだ。


「服、ビチャビチャになっちゃったね」


「しょうがねえよ。今日は一日ずっと雨だったからな」


 纏っていたフードを脱ぎ捨て、私とルフィはピッタリと肩を寄せ合いながら壁に背を預けて座り込む。

 雨に濡れて冷えた肌を少しでも暖めるためというのもあるが、それ以上にこうしてルフィの温もりを感じていないと、不安で仕方ないのだ。


 あの事件以降、文字通り世界の全てが私たちの敵になった。

 見知った顔が私たちを狙って襲い掛かり、守るべき市民すらも信用できない日々。

 そんな生活が続く中で私たちの精神は日に日に摩耗していき、お互いのことだけを信頼するようになっていった。


 どうしてこんなことになったんだろう。

 あの日以来、考えなかったことはない。そして、その答えはいつもすぐに出る。


 私のせいだ。

 私が天竜人に目を付けられたから、ルフィは私を守ろうとして、こんなことになった。

 私があんな奴に絡まれるようなヘマをしなければ。あるいは大人しく言うことを聞いていれば、少なくともルフィは今こうしている必要はなかったはずだ。


 私がルフィから全てを奪ってしまった。

 幼い頃からずっと一緒で、シャンクスに捨てられて塞ぎ込んでた私を、もう一度外に連れ出してくれた大切な幼なじみ。

 どんな時でも前向きで明るく、不当に虐げられる誰かの声を見過ごすことができない彼は、私だけじゃなく大勢の人たちの希望の光だった。


 あんなに綺麗だったのに。

 私が全部台無しにしちゃった。

 私のせいで、私がいたから……


「ごめんね、ルフィ……」


 隣にいるルフィにぎゅっとしがみついて、私はそう呟くように言う。

 同時に、目の奥から何か熱いものが込み上げてくる。それはとめどなく流れて頬を濡らし、私の視界を歪ませていった。

 嗚咽を漏らして泣きじゃくる私の頭に、暖かいものが乗せられる。ルフィの手のひらだ。


「謝るな、ウタ」


「だけど私のせいでルフィまで……」


「あれはおれがやりたくてやったんだ。お前のせいなんかじゃねえよ」


 ルフィが私の頭を撫でてくれる。

 ゴツゴツとした武骨な、男のひとの大きな手。

 ほんの小さな頃から知っているはずなのに、いつの間にこんなに大きくなったんだろう。


「ウタがあんな奴のところに行くなんて、絶対にダメだ。そんなことになってたらあの『だえ~』に、どんな目に合わされてたか分からねえんだぞ」


「……『だえ~』って、チャルロス聖のこと?」


「聖なんて付けんな。『だえ~』で十分だあんな鼻水白ブタ」


 あまり似てない声真似をしながら、ルフィはそんなことを宣う。

 天竜人を虚仮にするような発言など、人に聞かれたら大変なことになるだろう。だが私たちにとっては今更すぎる話だ。

 何しろ私たちは、『神に反逆した大罪人』なのだから。


「……じゃあ私も、今度もし会ったらそう言ってやろうかな。あいつのこと」


 ポツリと呟く私に、ルフィは屈託のない笑みで応えてくれた。


「おう、言ってやれ言ってやれ。下唇引っ張ってヴィ~! ってバカにしてやれ。こんな風に」


 そう言って、自分の下唇を引っ張りながら変な顔をするルフィ。

 その顔が何だか面白くて、私はつい吹き出してしまった。


「あはは、何それ。変な顔」


「ヴィ~! ヴィ~~~!!」


 私の反応に気を良くしたのか、ルフィがますます下唇を引っ張る。

 ゴム人間である彼の唇は際限なく伸びて、とんでもなくおかしな顔になっていた。

 しばらくの間、洞穴には私たちの笑い声だけが響いていた。




***




 雨足が更に強くなる。

 既にどっぷりと夜も更けた洞穴の中。

 嵐のように吹き荒れる風雨の音を耳にしながら、私はルフィに覆い被さっていた。


 ルフィはぐっすりと眠っている。

 私が食べた悪魔の実、ウタウタの実の能力で眠ってもらった。

 『あっち』では、私の作った世界にいつの間に入れられていることにまだ気付いてないルフィが、向こうの私と仲睦まじく会話をしている。


 歌を聴かせるというのがウタウタの能力の発動トリガーだが、私は能力を鍛えた結果、明確な歌ではない特定のリズムを聴かせるだけでも取り込めるようになった。

 そうしてルフィとの会話の中でそのリズムを随所に挟み込み、彼を私の世界に招き入れたのである。

 今のこの状況を作り出すために。


「ルフィ……」


 無防備な寝顔をそっと指で撫でながら、私は彼の名前を呼ぶ。

 自分でも驚くほど甘ったるい色を含んだそれは、酷く熱に浮かされているようだった。


 吐息が乱れる。身体が熱い。

 心臓がこれ以上ないほど激しく脈打ち、今にも破裂してしまいそう。

 ゴクリと音を立てて、口の中に溜まった唾液を嚥下する。


 私は今から、最低なことをしようとしている。

 私を守るために必死に戦ってくれているルフィを、裏切るにも等しい下劣な行為を。

 それでももう、止まることはできなかった。

 我慢の限界だったのだ。

 明日すら定かではない、いつ終わるかも分からない逃亡の日々の中で。

 この募り募った想いを、胸の内側に閉じ込めておくことが。


「好き」


 何年も何年も、ずっと言いたくて言えなかった言葉。

 それを口にした途端、言いようのない多幸感が胸を満たしていくのを実感した。


 好き。好き。ルフィ、大好き。


 狂ったように何度も唱える。

 まるでメトロノーム。

 私はルフィの顔に触れた指先を、徐々に下へと滑らせていく。やがてそれは、彼の唇へと触れた。

 少しカサついたその感触を確かめて、私もまた自身の唇を無意識のうちに、舌舐めずりで湿らせる。


 ルフィが欲しい。

 身も心も全部捧げて、彼と一つに溶け合いたい。

 バカで負けず嫌いで向こう見ずで、それでいていざという時には何だかんだで頼りになる、この年下の男の子と結ばれたい。

 この生活が始まる前から、夜毎密かに耽っていた妄想を、私は今から実現しようとしているのだ。


 他ならぬルフィの合意も無しに。

 彼にこの気持ちを打ち明けて、拒絶されるのが怖いから。

 生存すら儘ならない状況下でこんなことばかり考えているのを知られて、軽蔑されることに耐えられないから。

 だから能力を使って彼を眠らせ、無理やりにでも事に及ぶことにしたのである。

 何て浅ましくみっともない女だろう。


「ははっ。本当、最低だなあ私。もうレイプじゃんこんなの」


 自嘲気味に吐き捨てる。

 元とはいえ、とても海兵がやるようなことではない。

 しかし言葉とは裏腹に、私はルフィに身体をますます密着させるのだった。

 もはや明日をも知れぬ身となった今、せめて好きな男と結ばれたいと考えるのは、そんなにいけないことだろうか?

 そんな言い訳じみたことを頭の片隅で考えながら。


 唇を寄せる。

 念願のルフィとのキス。

 本当はもっとロマンチックな場所で、彼の方からしてほしかったけれど、こればかりは仕方ない。

 近づいてくるルフィの顔に、私はそっと目を閉じて、


「ん、ちゅう……ちゅ、っ」


 あまりにも呆気なく、私はルフィの唇を奪う。

 同時に。ゾクゾクゾクッ! と、爆発的な法悦が全身を駆け巡った。

 信じられない。私は今、ルフィとキスをしているのだ。あのルフィと。

 下腹の奥に熱が灯り、キュンキュンと切ない疼きを訴え始める。早く目の前の雄を寄越せと、私の中の雌が催促しているのだ。


 ああ、でも。焦らないで。

 せっかくやっと食べられるようになった、今まで手が出せなかった極上のご馳走が、すぐ目の前にあるのだから。

 もう少し味わわせてほしい。隅々まで堪能させてほしい。


「はぁっ、はっ、ん、ちゅ……ちゅる、っ、んぐっ……ふっ……れろっ……ちゅうっ……んっ」


 気がつけば私は欲望のままに、ルフィの唇を貪っていた。

 舌で口唇を舐め回し、咥内に舌を捩じ込んで、彼自身の舌を絡め取る。


 ゴム人間としての体質故だろうか。

 ルフィの舌はグニグニとした伸縮性があって、容易に私の咥内にまで誘い込むことができた。

 私の口の中で、ルフィの舌をめちゃくちゃに可愛がってあげる。


 欲しい。足りない。もっとちょうだい。


 たっぷり十分間は味わった後、私はようやくルフィの唇と舌を解放した。

 混ざり合った唾液のアーチが、二人の口の間にかかる。

 だがこんなのは軽いオードブルだ。

 まだまだこんなものじゃ終わらせない。終わりたくない。


「ルフィ、服脱がせてあげる」


 私はルフィの服に手をかけた。

 プレゼントの包装紙を丁寧に剥がしていくように、一つずつボタンを外していく。

 上着を取っ払うと、長年積み重ねた鍛練と戦闘経験によって鍛え抜かれた、鎧のように筋肉質な身体が露になった。

 大小様々な傷が刻み付けられた肉体には、まだ真新しいものもいくつか見られる。

 先日のモモンガ中将との戦闘で付いたものを始めとした、逃亡の中で私を守ってくれたことによる傷跡の数々だ。


「こんなに傷だらけ……」


 手のひらで腹筋を擦りながら呟く。

 私のせいでこんなに傷つけてしまったことへの罪悪感と、こんなになってまで私を守ろうとしてくれることへの途方もない愛しさが、同時に込み上げてきた。


「私が癒してあげるからね」


 瘡蓋になった傷跡に沿うように、チロチロと舌を這わせる。

 最初は首筋、次に胸板。逞しく隆起した腹筋周り。

 執拗に舐めしゃぶり続けたことで、ルフィの身体は瞬く間のうちに私の唾でベタベタになった。

 さながら毒液を滴らせる蛇が這い回ったみたい。


 昔読んだ本によると、蛇は悪魔の化身にして、最初に生まれた人間に禁断の果実を与えて楽園追放に導いた堕落の象徴らしい。

 ならきっと私は、ルフィにとってはまさしく蛇そのものだろう。

 次代の英雄としての呼び声高く、陽の当たる世界に居た彼を、暗黒の道に引きずり込んだ悪魔。


 なら、いっそどこまでも堕ちてしまおう。

 二人きりでどこまでも、この絶望の逃走劇を続けよう。

 きっと私はもう狂ってる。でもそれでいいじゃないか。狂うことの何がいけない?

 ルフィと一緒にいられるなら、後はどうなろうと構うものか。神も正義も糞食らえ。全部ぶっ壊れちまえばいい。


「ね、ルフィ?」


 目の前で眠る、愛しくて愛しくて仕方がない少年に問いかける。

 その寝顔が今は私の世界にいる、心だけの彼が見せてくれる笑顔と重なった。


 そろそろいいだろう。

 私は逸る鼓動を抑えながら、恐る恐るルフィの股間に手を伸ばす。ルフィの男性の象徴は、ズボン越しでも分かるほどに、硬く怒張していた。


「……あはっ♪」


 思わずそんな声が漏れ出る。

 触っちゃった。ルフィの男の子の部分。

 海兵時代、いやもっと前から、私が毎晩のようにはしたなく求めて止まなかったものが、今はこの手の中にある。

 興奮が抑え切れない。多分今の私は、女の子としてしちゃいけない顔をしてると思う。


 軽く擦ったり、揉んだりしてあげると、ルフィのそれはますます硬くなっていった。

 ルフィが私の手で気持ち良くなってくれている。

 たとえ外的刺激を受けたことによる生理的な現象だったとしても、彼が私で勃起してくれたことが嬉しくて仕方ない。


「苦しそうだね。私が今から、助けてあげる」


 私は一度ルフィの逸物から手を離して、彼のズボンに手をかけた。

 高揚のあまり手が震える。ベルトをなかなか外せないのが苛立たしい。早く、早く外れろ。

 縺れる指をどうにか動かして、やっとベルトを外すことができた。

 ジッパーを下ろし、そのまま下着もろとも勢いよくずり下げる。同時、ルフィ自身が弾かれたように、ぶるんとまろび出た。

 ビクンビクンと青白い血管を浮かせて脈打つ、グロテスクだけどどこか雄々しさを感じる造形のそれはまさしく。


「こ、これが……ルフィの……」


 こんな風に直に見るのは、昔まだ小さかった頃、一緒にお風呂に入った時以来だ。でもあの時とは全然違う。

 強く逞しい男に育った私の幼なじみは、こっちの方も立派に成長したらしい。


 私は餌を前にした犬よろしく、はぁはぁと呼吸を荒げながら、だらしなく舌を垂らしてルフィのそれに顔を寄せた。

 据えた雄の匂いが、鼻腔いっぱいに飛び込んできた。


 噎せ返るくらいに濃厚。クラクラする。

 もう我慢しなくていいよね?

 それじゃあ……いただきます。


「あーん」


 大きく口を開ける。

 そのまま一口で、ルフィの剛直にかぶり付いた。

 瞬間、口の中に青臭くてしょっぱいような、何とも不思議な味が広がる。

 これが男の人の味。ルフィの味。たまらない。


「んふー、んふー……んむ、ふっ……じゅる、じゅるるるるるる! じゅぽ、じゅぽ、じゅぱっ!」


 気付けば下品な音を立てながら、私はルフィのものに無我夢中で奉仕していた。

 カリ首に舌を巻き付け、竿を手で扱きながら、口を窄めて吸い上げる。

 口の中でルフィ自身がビクビクと反応しているのが可愛らしい。どうやら私のテクニックはなかなかのもののようだ。

 こっそり購入していたディルドで練習していた甲斐があったというものである。

 無論、そのディルドはいずれルフィにこうしてフェラチオしてあげるための練習台として買ったものであり、断じてそれで膜を破ったりはしていない。

 私の処女はルフィ専用で、あのような玩具にくれてやるものではないのだから。


「ぷはっ」


 私は一度口を離す。

 ルフィのそれはディルドよりも一回り以上大きかったので、顎が疲れてしまった。

 しかしちょうど良い頃合いだろう。十分準備は整った。そろそろメインディッシュを頂くとしよう。


「えへ、えへへへへ。ルフィ……そろそろ一つになろうね? いいよね? 愛してるからね?」


 私は未だ痙攣しているルフィの逸物を掴むと、自分が穿いている下着を脱ぎ捨てた。

 愛液でグチャグチャになっていて気持ち悪いったらなかったので、すっきりした気分だ。

 でも今からもっとすっきりすることができる。ルフィと一緒に。


 えへへ、嬉しいなあ。

 ずっとずっと、こうしたくて仕方なかった。


「……ん、ふあっ」


 ルフィの先端を私の秘部に宛がう。

 すっかり濡れそぼった私のそこは、ただ先が当たるだけで軽く達しかけるほど敏感になっていた。

 そうして。ゆっくり、ゆっくりと、腰を深く落としていく。


「あ、あぐぅっ! かはっ……」


 激痛が走ると同じくして、何かが破れる感覚があった。

 お腹の奥が圧迫されるような異物感。

 やがてそれは何かに当たって止まり、ふと見れば私の陰唇が、ルフィの男根を深く深く飲み込んでいた。

 そして、鮮やかな鮮血が結合部に滴っている。

 つまりそれが意味するところは一つ。


 ルフィと繋がった。

 ルフィに処女を捧げることができた。

 ずっと密かにこうなりたいと慕い続けてきた、初恋の少年に。


「……………………………………………ははっ」


 途端、頬を熱いものが伝った。

 それは止めどなく溢れ出て、ルフィの胸板にポタポタと落ちていく。


 それは果たして、どういう涙だったのか。


 十数年越しの想いを遂げることができた歓喜か。

 こんな形でしか彼に一番大切なものを捧げられなかったことへの諦念か。

 それとも、他の何かか。

 グズグズに焼け爛れた心情を覆い隠すように、私は激しく腰を振り始める。


「あっ! はっ! んぅっ! やんっ! ルフィ! ルフィ……ッ!!」


 夢にまで見たルフィとの交わりに対する悦楽と、破瓜に伴う激痛とが入り雑じる。

 目の前がチカチカして現実感が遠退く。

 ルフィの剛直は私の中をゴリゴリと抉って、自身の形へと変えていく。

 何度も何度もぎこちなくピストン運動を続けるうちに、ただでさえ大きなそれがますます膨張を始めたのを知覚した。

 まだ誰も踏み入れたことのない私の秘密の宮殿を占領せんと、侵略の証を刻み付けようとしているのだ。


「はっ、はぁっ、ん……いいよ、ルフィ。来て……来てえ……!!」


 だってここは、あなたのための場所だから。

 全部全部、あなたの色に染め上げて。


「あ、あぁああああああああああああああああああ――――――ッッ!!!!!!」


 ルフィが一番奥に辿り着くと、私は絶頂を迎えた。

 初めてはイけないって話をよく耳にしていたけど、そういうわけでもないらしい。

 同時にルフィが私の膣内に、凄まじい量の白濁液を放った。

 ただでさえ彼は性への関心が薄い上に、この生活が始まってからはマスターベーションすら満足にできない状況が続いているのだ。

 きっと途轍もない量が溜め込まれていたのだろう。

 ビュービューという音すら聴こえてきそうなほどに、彼の射精は長く続けられた。


 ああ、なんて幸せなんだろう。

 私の大切な場所が全て、ルフィに蹂躙されていく。

 もっと。もっと熱くさせて。

 全部忘れてしまえるくらいに。


 ルフィの射精が終わる。

 それと共に、私は彼へと倒れ込んだ。

 欲望を吐き出し終えたルフィのものが私の中から抜け出て、収まりきらなかった精液が溢れ出た。勿体ない。


「ルフィ、ルフィ……大好き……」


 逞しい胸板に顔を埋めながら、私は譫言のように呟き続ける。

 ルフィがくれた熱がお腹の中で激しく暴れていて、言い様のない充足感が胸を満たしていた。

 こんなに出されちゃったら赤ちゃんできちゃうかも。

 可愛いんだろうなあ、ルフィとの赤ちゃん。早く抱っこしてあげたいなあ。






 ………………え? 赤ちゃ、ん……?


「…………あ」


 そこでようやく、熱に浮かされた私の脳は正常に戻った。

 今がどんな状況なのかも、私がしてしまったことの重大さも、全て正確に理解が追いついていく。

 何をしてしまった?

 私は今、ルフィに何をしてしまった?


「あ、ああ……ルフィ! ごめ、ごめんなさいごめんなさい……! 私っ……!!」


 世界全てから逃亡を続けている現状で子供を身籠るような行為をするなど、とても正気とは思えない。

 そんな当たり前のことすら忘れて、私はルフィの身体を好き放題に貪ってしまった。

 それも合意を得てすらおらず、能力で眠らせて無防備になったところを襲うという最低のやり方で。

 ただ自分が我慢できなかったからという、極めて身勝手な都合でだ。


 謝って済むような問題ではない。

 けれど私は嗚咽を漏らしながら、ずっと彼に謝罪を続けていた。

 そんなのでやってしまったことを消すことなんてできないのに。どこまで愚かなんだろう。


 夢の中でルフィが笑っている。

 こんな最低な私のことを心配してくれて、世界を敵に回してでも守ろうとしてくれている。

 なのに私は、そんな純粋で優しい彼を裏切った。


 結局私は、どこまで行っても海賊の娘なのだろう。

 海軍の英雄を祖父に、やり方はどうあれ世界を良くするという大義のために行動している革命家を父に持つルフィとは違う。

 ただただ自分の欲望のままに振る舞い、他者から奪い取ることしかできないクズ共と同類なのだ。


 私はルフィの傍にいるべきではない。

 私のようなゴミが傍にいるだけで、彼の清らかな魂が穢れてしまう。

 でも、自分から離れることはできない。彼の隣はあまりにも暖かくて心地好いから。

 ルフィが絶対に自分を突き放したりはしないと確信しているから、私は彼に寄りかかって甘えているのだ。


 死んでしまえ、醜い売女。

 お前にはルフィの名前を呼ぶ権利などない。

 ルフィに名前を呼んでもらえる資格すらない。


 でも、死ぬのは怖い。

 ルフィの隣に居られなくなるのは、あまりにも。


「ごめんなさい……」


 こんなクズが幼なじみでごめんなさい。

 身の程知らずにもあなたに恋をしてごめんなさい。

 だけどどうか、許してください。

 薄汚い私が、それでもあなたの隣にいることを。




 雨はまだまだ、降り続いていた。

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