歪んだ船長と一人目
1新しくできた部屋で見つめ合う…いや…睨み合う2人。
「………………」
「………………」
どちらも会話をすることなくただただ睨み合う。
それがしばらく続いたとき、ようやく1人の男が喋り出す。
「どうした?ゾロ?そんな怖い目して?」
「……お前…昨日のあの後…何しやがった…?」
「んー?何もしてないぞ?ちゃんとウタの部屋に行った後に戻って寝ただけだ!」
「おれは昨日、寝ていない」
「…………!」
「お前の様子がおかしかったからな…ちゃんと戻ってくるのか確かめるためにな…。」
「…………ヘェ……」
「お前は昨日戻ってこなかった。………あの女の部屋で何しやがった…!」
ゾロは刀に手をかける。返答次第では、すぐさまケジメをつけにかかるだろう。
「……ははっ!何って…おかしいこと言うんじゃねェよ…ゾロ…」
「……………………」カチャ
「男と女が2人で部屋にいるんだぞ?そんなの決まってんだろ!」
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「男と女が2人で部屋にいるんだぞ?そんなの決まってんだろ!」
「!!!」ギラ
おれは刀を抜き飛びかかる。この…船長の姿をしたナニカに…
「おわっ!危ねェ!何すんだよ!ゾロ!」
「もう一つ聞くぞ…それは合意か?」
「あー…嫌がるウタは可愛かったなー!」
「!!!…もういい黙れ!テメェは誰だ!ルフィはどこに行った!」
部屋を傷つけないように立ち回りながらナニカは逃げる。
「おかしなこと言うなー、お前らは…ウタにもそれ言われたぞ。」
「………!」ギリ
思わず歯を食い縛る。
「おれたちの知ってるルフィはそんな最低なことをするやつじゃねぇ!」
「そうかもな!今までのおれだったらな!……でもよ…ゾロ……」
覇気を込めた刀が掴まれる。そして引き寄せられる。
「お前が今のおれの何を知ってるんだよ…」
その言葉と共に絶大な覇王色が放たれる。
「ぐっ……!」
思わず膝をつく。そして、刀を手放すという初歩的で致命的なミスをする。
「流石だなァ!ゾロ!全力でぶつけたのに耐えるなんてな!」
刀を大事そうに立てかけ、こちらに近づいてくる。
「はぁっ!はぁっ!」
未だに立ち上がれない。それほどまでにルフィの覇王色は強力だった。
「内緒にしといてくれよ!ウタもよ!最初は嫌がってたんだけど、続けてくうちに心を開いてくれてな!今じゃあすっかりおれの“もの”だ!」
「!!!!!」
今こいつはなんて言った?
「お前は…!…本当に…!誰だ!」
「だからよ!おれはおれだって言ってんだろ!疑うなんて失敬だぞ!」
未だ立ち上がれない。
「(ありえねェ!ここまで差があるはずがねェ!)」
「おれの邪魔をしないでくれよ…ゾロ……気づいてんのはお前だけだ…お前が黙っててくれれば、おれは何もしねぇ…仲間を傷つけるなんて、おれはしたくねぇ…」
「………!!ぐぅ…ああ!!」
意地で立ち上がる。
「テメェの…夢は何だ!答えろ!」
これをそくと「海賊王になることだ。」……!!」
聞いた瞬間に答えが返ってくる。
「最初のおれとの約束は何だ!」
「野望を断念するなら腹を切る」
くそ!……狂っているが…こいつは本物だ…偽物であって欲しかった…!
「今は見逃しといてやる!だが、女にうつつを抜かすようだったら覚悟しておけ!」
「ああ」
そうしてルフィは立ち去った。
立ち去った瞬間、膝が崩れる。
「…………くそ!………修行が足りねェ………!」
あの日のルフィを止めることができなかった。
今のルフィの覇気の前に屈しそうになった。
それらも悔しかったが…それ以上に…
今のルフィを元に戻すことができなかった。
それがどうしようもなく悔しかった。
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「………………」
刀を回収し、部屋の外に出る。外ではなぜか宴が始まっていた。
「お!おっせーぞ!ゾロ!早く一緒に宴しようぜー!」
「………おう」
先ほどの出来事などまるでなかったように振る舞うルフィ。
もう手遅れなことなのだったのだとはっきりと理解した。理解してしまった。
少し離れたところで、新しく加入した座っている少女の前で楽しそうにしているルフィを見る。
酒を飲みながら、ルフィが言っていたことについて考える。
『今じゃあすっかりおれの“もの”だ!』
自由を愛する男が、不自由を嫌う男がはっきりとそう言った。
ウタはおれの“もの”だと……
「………どこで歪んじまったんだよ………お前は………」
お前だけはそれを言ったらダメだろうが………