歌姫は桜色の天使を食らう

歌姫は桜色の天使を食らう


クロス注意、別作品同士のCP注意















「あっ…」


やってしまった。

ウタがそう思った時には既に後の祭りだ。

これは全て夢の中の出来事、次の瞬間にはまだ暗い自室の天井が視界に飛び込んでくるはず。

そんな風に現実逃避したって、目に映るものは変わらない。


丸い両目を見開き、口元を抑える少女。

驚愕か、羞恥か、或いは別の感情のせいか。

ふるふると全身を震わせ、結んだ桜色の髪が揺れている。

あ、とか、う、とかの言葉が漏れ、ウタを現実逃避から引き戻す。


「い、いろは…」


名前を呼ばれ、いろはの頬が赤く染まり出す。


切っ掛けは何だったろうか。

偶々今日は二人きりの時間が出来て、

他愛のない話を続けて、

やちよ達の前では見せない甘えん坊の妹といういろはの姿に、つい魔が差したのだろうか。

気付けばウタは自分の唇をいろはのに重ねていた。


額や頬へキスした事はある。

けれど唇へはこれが初めてだ。

いろはの事は好きだけど、そこへキスするのは駄目だ。

そこはいろはが将来恋人を作った時の為に取っておかなければいけない。

女の子のファーストキスを奪ってしまった罪は重い。

以前、鶴乃が偶然ういと口でキスをした時のやちよの言葉が圧し掛かる。


何て事をしてしまったのだろう、取り返しがつかない。

後悔の味が口の中に広がり、余りの苦さに表情が歪み出す。

だがもっと辛いのはいろはだ。

このような形でファーストキスを奪われ、怒らないはずがない。悲しまないはずがない。

馬鹿な真似をしでかした己を胸中で何度も罵倒し、謝罪の言葉を口にする。


「ごめんなさいいろは!私――」


ふわりと、唇に柔らかい感触。

見開いたウタの目が捉えるのは、自分からキスをしてきたいろは。

つま先立ちになり、ぷるぷると震えながらもウタと唇を重ね数秒が経過した頃、ゆっくりと離す。

呆然とした状態から抜け出せないウタを見つめる瞳は熱を帯び、吐息には隠し切れない興奮が宿っていた。


「……いい、よ」


ポツリと、蚊の鳴くような声が二人きりの部屋に溶けていく。


「ウタさんなら……ウタお姉ちゃんとならいい。だから……」


もっとして。

その一言でウタを抑えつけていた全てが崩壊する。


「んんっ!?ふ…ちゅ……んむぁ……」


三度目のキスは酷く暴力的だ。

侵入させた舌が歯茎を舐め回し、歯の一本一本を丹念に味わう。

いろはという少女を口の中から喰らい尽くすかの如き貪欲さ。


「ふぅ…れる…ぷぁっ…!いろは…いろはぁ……」


口を離すとお互いの唾液でアーチが生まれる。

想像以上に甘く、脳みそが弾けそうな刺激。

舌の感覚が無くなるまで味わい尽くしたい。

ウタの瞳に宿り、燃え続ける欲にいろははゴクリと唾を飲む。

恐怖ではない。ハッキリとした期待からだ。


「いいよ。全部食べて?」


言い終わるや否や、ウタの手がいろはの服を下着ごと乱暴に脱がせた。


――――


やってしまった。

ウタがそんな風に思うのは今日で二度目。

同じベッドで横になり、裸でシーツに包まっている。

こんな状況を見られては言い訳のしようも無い。


チラと視線を落とす。

可愛らしい寝息を立てるいろは、その体中に付けられた赤い印。

我ながらやり過ぎてしまったとウタは反省する。


(いやあれはいろはが可愛過ぎるのも悪いというか……)


お姉ちゃん、ウタお姉ちゃんと切な気に自分を求める姿。

あれを目の当たりにして理性を保てと言う方が無茶ではなかろうか。

この娘は誰にも渡さない、私だけの妹だと所有痕を付けるのはむしろ当然の行動である。

などと誰に対してのものか分からない言い訳を、頭の中で繰り返した。


「皆に何て言おうかな……」


やちよは荒れに荒れるだろう。

シャンクスが知ったら卒倒しそうだ。

ルフィは……何だかんだで祝福してくれるだろうか。


ぼんやりと各々の反応を思い浮かべながら、いろはの頬を軽く突く。

くすぐったそうに微笑む顔を見ているだけで心が満たされる、とはならない。

いろはの体も心も、全部独り占めしたい欲が溢れているのが自分でも分かる。


「私ってこんなに欲張りだったんだ」


海賊の娘だから?

冗談めかして呟き、眠るいろはの唇にそっとキスを落とした。

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