歌姫と騎士後編

歌姫と騎士後編


パーティーも佳境に入り社交ダンスが行われていた。軍高官に誘われたたしぎと別れたウタはダンスには参加せず会場の隅の椅子に座ってその様子を眺めていた。

踊れないわけではない。エレジアにいた10年で彼女は歌以外にもクラシックバレエやダンスなどさまざまな音楽に関係する技能をもう一人の育ての親と呼べるゴードンから学んでいた。最初の頃はうまくいかずヒールの踵で踏んづけてしまったゴードンの足の小指の爪を粉砕してしまったのは今では良い思い出だ。

「踊らないんですか?」

突然横から声をかけられ振り向くとアインがいた。彼女は自分の護衛をする海兵部隊の指揮官で副官的立場で右も左も分からなかった頃から自分を補佐してくれている。たしぎと同じくいや七武海に入った当初からの付き合いだからそれ以上に世話になってる。

彼女は長い髪をポニーテールにまとめ男性用の特殊な礼服と儀仗用のサーベルを身に付けておりまさしく男装の麗人という出立ちで彼女の凛々しさと相まってウタは思わずドキッとしてしまった。

「興味ある男性がいなくて…」

自分が今一緒に踊りたい男は今この場にはいない。アイツはきっと今頃どこかの海で冒険してるのだろう…あの男の帽子を大事にして…!

ギリッと歯軋りをするウタをアインは黙って見つめる。

私は彼女を支えられているのか…彼女の様子と腕の傷を見てアインは心が痛む。自分がもっと強ければ…もっと警戒すれば防げたケガだ。右も左もわからぬ彼女の世話を焼いてるうちに…自分達を大切な仲間としてお礼をしてくれた彼女に…アインは惹かれていた。

彼女は改めて誓う。彼女を支えられる自分になると。

「姫?」

「ふぁ…⁉︎はい?」

突然姫と呼ばれた『歌姫』は驚きながらも返事をする。アインは彼女の前で跪き彼女手を取る。

「今宵は私と踊っていただけないでしょうか?」

そう言ってアインは彼女の手の甲にキスをした。

それにほおが赤くなりながらも笑顔でウタは答える。

「はい喜んで…!」

次の日ニュース・クーではお似合いというべき様になる絵でダンスをする二人の写真が紙面を飾り世界中で黄色い歓声が上がった。


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