楽しみと喜び前編
空虚だ…
既に滅びた島エレジアに住む少女ウタは嵐が過ぎ去った海を見ながら自身の空虚な人生に絶望していた。
愛していた父に利用されて国を滅ぼす算段に加担させられ用済みとばかりに山盛りの宝箱を見せつけるように捨てられた。その後は生き残った国の元国王であるゴードンに引き取られ世界一の歌手にすると言われて10年に及ぶ歌の勉強をしているが父の海賊団の音楽家になる夢を既に潰されて歌う意義が見出せず世界一の歌手にすると言いながら未だに島の外に出してもらえずコンクールの一つも参加させてくれない。この島に閉じ込められたまま空虚な日々を過ごし貴重な10代の青春と大切だった幼馴染との誓いが失われてしまう現実に押し潰されかけてた。
もう…疲れたな…
そう思ったウタはまだ荒れている海に向かって歩みを始めた。
おーい!
突然見知らぬ女の声が聞こえてウタは驚きを隠せなかった。声のする方を見ると海岸に乗り上げた小〜中型の一隻の船から大柄な女が手を振っていた。
「いや〜助かったよ!嵐に巻き込まれてね!おまけにご飯まで用意してくれてありがとう二人とも!」
ヤマトと名乗ったその女はゴードンが用意した食事を食いながら城に案内してくれたウタと食事をら作ってくれたゴードンに感謝しながら豪快にかつうまそうに用意された食事を平らげていった。
彼女と出会ってからウタは胸のドキドキが押さえられなかった。大柄な身体に関わらずバレエや舞台女優のように整ったスタイル。そして初めて出会った自分に明るく接してくる彼女にウタは惹かれ始めていた。食事を終えた後ヤマトはウタに旅の話を聞かせてくれた。10年間島から出たことがないウタにはその話一つ一つがとてもワクワクして聞くだけで楽しかった。
そして羨ましかった…
「ウタ夜も遅い。彼女を浴室に案内してくれないか?ヤマトくん君の寝室を用意するからその間身体を風呂で休ませてくれたまえ。」
ゴードンの言葉に乗り上げた船の部屋で寝るつもりだったヤマトは心から感謝してその申し出を了承した。
「ヤマトさんここが浴室だよ。」
ヤマトを浴室に案内したウタは用事を済ませた後自室に戻ろうとした。
「君も入ろうよ!」
ヤマトはウタを呼び止め一緒に入ろうと言ってきた。その言葉にドキッとしながらも後から風呂に入ろうと思ったウタは断る理由がなく。了承した。
パシャ…
どうしてこんなことに…
二人は身体を洗った後二人で湯船に浸かっていた。そんな状況にウタは顔が赤くなってヤマトに背中を向け湯船で身体を丸めてブクブクしていた。
ヤマトの身体を洗ってあげたが彼女の身体はとても美しく引き締まっていてとてもドキドキしたのを思い出す。ふと彼女はもし自分に同性の友達がいたらこうやって交流したりしたのだろうか?と考え心が暗くなった。何も人生の『楽しみ』も知らず過ごしてきた事実に…
「ヒャッ⁉︎」
そんな彼女をヤマトは突然後ろから優しく抱きしめウタは驚く。
「君は優しいね…それにとてもいい匂いがする…」
ヤマトは抱きしめたまま彼女の首元に顔を埋めながら言う。
「ん…////」
「今は僕がいる…寂しがらなくていいよ…」
まるで心を見透かしたように耳元で語りかけるヤマトにウタの心は溶けていく感覚に酔いしれた。
ウタの心の闇を探っている狩りを行う獣のような目に気づかずに…
その日の夜ウタはのぼせてしまい目をグルグルさせながらベッドで就寝することになった。
終