楔ーとどめるー

楔ーとどめるー


「…出来なかった、か。残念」

手元の妊娠検査薬の反応を見て溜息をつく。

私の大好きな人はすぐに自分を犠牲にした手段を実行しようとする。

当人は「必要な状況だったからそうするだけ」とあっさり言うが私や周りの人が感じる喪失への恐怖を顧みようとはしない。

ようやく、彼の記憶から大事な思い出を、大切な家族を奪った連中との決着が付いた。

彼の身体と心にたくさんの傷と悲しみを残して。

彼は帰って来たが、次に帰って来るかは分からない。

大切な人達の危機には手段を選ばない…文字通り、自分の安全や命すら投げ捨てかねない勢いがある。

「だから私が君を縫い止める。置いて行く、なんて絶対に許さないしさせない。」

私のもとに必ず帰って来るように、私から離れないようにするために。


「…子ども出来たら、責任感強い君なら危ない真似もしなくなると踏んでるけど…簡単にはうまくいかないね。

逆にそんな理由だと生まれて来る子が可哀想かな?」

既成事実を作るべく、硝太と身体を重ねている。

ハジメテは彼の悲しみを癒すため、二度目は彼に私を刻むため、三度目は彼を私のもとに留めるため。

二回は避妊した。まだやるべきことが彼にはあるから。三度目は全て終えたはずだから、先の未来も一緒にいて欲しいから。

「硝太、早く帰って来ないかな…父親に嫌味と恨み言ぶつけて来る、て言ってたけど多分許しちゃうんだろうなぁ」

帰って来た硝太が悲しそうなら癒してあげよう。明るくすっきりした顔なら笑顔で抱きしめよう。

「子ども出来たらお姉ちゃん達怒るかなぁ…桃さんには呆れられて、つばめさんは困った顔するかな?ルビーやみなみは…」

「少し先の」未来で周りがする反応を考えながら時間を潰す。幸せな事を考えるのは楽しい。

そのためにはやっぱり

…硝太が嫌じゃなきゃ今日も抱いて欲しいな。

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