根を張り宿り一面に咲く

根を張り宿り一面に咲く


生存ルートinワノ国

登場人物 ホーキンス

ファウスト(キャラはイメージ)

あらすじ

キラーとの戦いで奇跡的に生き残ったホーキンス。しかし、自身は深手を負い、この討ち入りで船員達も多く失った。ホーキンスは海賊としての人生に区切りを付けることを密かに決め、朝早く、数少ない生き残りの一人、ミンク族のファウストを呼びつける。



 ファウストは丸い目をした、それはもう水晶の如し。

「ガルチュー! 最近、全然してなかったでしょう」

枕元の柔らかい笑顔に安心感を覚えかけたが、それどころではない。ファウストは寡黙な男であるため、口に出さないが、今すごく動揺している。まだまだ船長は寝ていなければいけないからだ。何をしているんです、自分のベッドに戻って休みましょうよ、とぐいぐい体を押すが、

「照れてる? 可愛いんだから」

心配が伝わっていない……! どうしたものか。

 ファウストは声の通りが人よりずっと悪い。子供の頃は声を出していたが、とにかく小さかった。一人と一人の会話ですら何度も聞き返され、声を張り上げようとしたらキュッと裏返ってしまう。その時、自分にとっては笑い事じゃないのに、その声を笑われたのだ。踏んでいた地面まで一気に返され、ファウストの心は絶望の淵へと叩き落とされた。

 以来、ファウストは誰とも口を聞かなくなっている。あの笑い声は、両耳に血の跡のようにこびりついて離れない。かと言ってずっと黙っているままでも苦痛ではあったから、なんとも苦しい人生だった。あれこれと気を使われた日々は、そうした彼らの良心こそがまるで自分そのものを真っ向から否定している気がして、ファウストの口を固く固く縛りつけていった。

 その内に誰とも会わずに引きこもって薬や毒の調合に耽るようになったが、それもまた苦しいのだ。ぐらぐらと煮える液体を鍋でかき混ぜている間は別段考えることでもないが、それ以前、本を読んでいる時は特に、ひゅうう、と心の木枯らしがファウストをからかいにきた……寂しいね、悲しいね、と。ファウストは何も思っていないと活字に目をずいと近づけるのに、偶に、日々の中で偶にある少しばかり悪い日、落ち込んでいる日は、近づけた活字が足掻けば足掻くほど滲んで、そして、目からほろりと涙が落ちた。

 そんなファウストを変える出会い、

「私の所は皆ちょっと変わってるの。無口な子だって居てもおかしくないし誰も気にしないでしょう」

ワインを飲み干し可笑しげに語りかける女性は、名をホーキンスと言った。北の海で海賊団を結成し、まだ駆け出しとはいえ、少しずつその名を上げつつあった。元からみなしごだったファウストは、この落ち着きはらった雰囲気と言動に何かを突き動かされ、そのまま調合のレシピブックやら諸々の荷物を整えて船に乗り込んだ。

 以来、数年の付き合いになる。喋れない不便は辛くなかった。彼女の夢を共に目指す日々、子供の頃に置いてきた笑顔と心の安寧が戻りつつあるのを、ファウストはじんわりと感じつつあった。

 その矢先のこと。

「ミンク族か」

突如、空から落ちてきた四皇……カイドウ。同盟を組んでいたキッド海賊団の船長も船員もその強さに歯向かおうとしたところ皆倒れ臥し、オンエア海賊団の面々は援護もせず、船長は何故か余裕そうに笑っている。そんな状況で直に注がれた視線は険しく、全身がザワザワと、危険に怖気づくのを感じた。ホーキンスさん……でも、命なんて惜しくない。ホーキンスさんは、自分などに囚われていては……、

「部下に降りましょう。ただし、船員の自由は確保してもらいます」

唇は震えていても、凛とした口調で。そんな、自分を……守ろうと?

「良いだろう」

息を飲んだ。ぼたぼた、体中から汗が流れ、ただ、これだけ悲しく心苦しいのに涙は出ない。ファウストは考える。同族を殺戮してきたカイドウの元に降るなら死んだ方がマシだった、だが、船長が傘下に降った理由は他でもない……自分のためじゃないか。どうすれば良い?

 その夜、ファウストはホーキンスに胸ぐらをがしりと掴まれた。

「ファウスト!」

ホーキンスは叫んだ。怒りと悲痛に身を刺されながら、目を潤ませ、

「あなたは私の仲間よ。助けられることに罪悪感なんて必要ない、死んでしまったら……仲間が死ぬなんて、私、絶対に嫌!」

思えば、ホーキンスはワラワラの実の能力者で、藁人形に宿した命を身代わりに使う戦い方だが、自分達のような船員を身代わりにしたことが一度もない。気になっていても、ちゃんと理由を聞くことはしないままだったが……ホーキンスは仲間を心の底から愛している、それが答えなのだろう。ファウストはその日、

「申し訳ありません」

初めて言葉を発し、ホーキンスは、

「いいえ、あなたが謝ることもないの。何もかも私が……弱すぎて……っ」

そこから何も言えず、悔しそうに泣き声を上げていた。ファウストの目から涙は流れなかった。苦しみ、辛くなり、船長の側でその感情を共にした。

 辛い日々、痛ましい姿で戻ってきた船長、頬擦りをされながら……やっと解放されたのだ、思う通りにさせてやれば良いじゃないか、と、手を下ろす。

「ファウスト……私、寂しいわ」

頷いて、お返しのガルチューをしばらくした。

「一緒に行きたい場所があるの、支度が出来たら呼んでね」

背筋をぴんと張って、ゆっくりと歩いていくその後ろ姿に懐かしさを感じる。扉が閉まる。ファウストの目に映るホーキンスは、朝ぼらけの陽の光を思わせる笑顔をよく浮かべていた。しかし、ワノ国に来てから光は影に呑まれ、固く冷たく締め付けられていく彼女の様子が日に日に増え、それだけでない。そんな顔を見せるわけにはいかない、と会うことさえ叶わなくなっていき……討ち入りの日にはファウストは生存確率が低いため、と、共に戦うことを船長命令で許されず、更に、何か根回しがあったのか、望まぬ裏切りを強いられた立場としてミンク族達に保護されることに。

 本当に久しぶりだ。

 ホーキンスは布で体を隠しファウストと共に歩きながら、こうして見るとワノ国も悪くない場所ね、と目を細める。悪い夢であってほしい、そう何度でも思っている内に花の都の人々の笑顔も楽しげな声もチリチリと焦げるように胸を刺し続け、自由な航海の日々が恋しくて縋り、前がよく見えていなかったみたいだ。今は、この国を自由に楽しめないまま離れなければならないことが少し恋しい、そうまで思える。

 根を張り宿り、一面に咲く。人気のない桃色の森の入り口、花々は綺麗だ。しかし、感じるのは一抹の不安……ファウストは、此処に入るつもりか、と立ち止まっているホーキンスに顔を向けた。

「満開ね」

意味ありげな笑み。

「ワノ国の人々は、この美しい場所に近寄らないの。何故だか分かる?」

勿論分からないので、ファウストが首を傾げると、ホーキンスは歩き、入口に近づきながら言った。

「満開の桜の森に入ると、良くないことが起こるんですって」

咄嗟だった。ファウストはホーキンスの腕を掴む。しかし、無情にも払われ、ホーキンスの歩みは止まらない。

「ファウスト」

どくん、どくん、カイドウと会った時と同じくらいの怖気が体中を駆け巡ったその時、木陰に落とされたホーキンスは振り向き、頭を覆う布を脱ぎ、真っ直ぐに目を見て言った。

「私、引退するわ」

森の入り口が遠のいていく気がする。船長の姿がとても小さく、離れて見える。首を何度も横に振るファウストを見たホーキンスは微笑む。

「船長がこんなになっていたら新世界を生き抜けない……分かるでしょう」

分かっているけど、その決断を受け入れ切れず、

「不甲斐ない船長で、本当に……ごめんなさい。今までありがとう」

ファウストの足は動かない。ただ、小さくなる桜の森を、散る花弁を見るだけ。ホーキンスは体の中から、ぽとり、ぽとり、と藁人形を抜き出していく。それは、キラーとの戦いで使ったもの。もう既に傷つき使い物にならないものばかり。これが、自分の限界……。

「私が今まで落としてきた命達……」

同情するわ。木の下にしゃがみ込み、土を右手で掻き分けるが、やりにくい。

「ファウスト、手伝って」

ファウストは汗を垂らすだけ。

「私がまだ船長でいられる内に、手伝ってほしいの」

整理のつかない心持ちをどうにかしまいこみ、ファウストはこの狂気の森へと進む。心なしか……その花が、血に塗れているように見える中で。

 土の中に埋め込まれる、あちこちに切り傷を作った藁人形達、

「これが私への、私達への報い」

二人は目をしばし閉じ、そしてまた次の木へと向かい、土で手を汚しながらも藁人形を埋める。その繰り返しだ。繰り返していくと、自分の中の憑き物がひとつ、ひとつと取れ、軽くなっていく。それと同時に、広がる海、未知の島への執着をも舞う花弁に吸われ、ホーキンスの体を軽くする。軽くする……ああ……上を向けば、おびただしい死体から赤々とした血液や彼らの体の内の臓物やらが、はらはらと降る、それだけ。

「さあ、次へ行きましょう」

二人は歩き出す。

 ホーキンスは座り込んで、藁人形を見せる。

「これで最後」

おや……今までと何か、訳が違う。あちこち人の手で毟られたような跡が頭部にあり、顔が潰れてしまったみたいだ。胴の部分は大量の穴が開かれ、手足が切り落とされている。ファウストはゾクリと全身を震わせた。ダメージの身代わり、つまり、こんな酷い真似を船長にする者がいたということか……とても、とても許し難い。ホーキンスは抑揚のない声で話し出す。

「これが誰の命か、気になるでしょう」

恐る恐る頷く。頷いて、後悔する。ホーキンスは、今までの彼女が絶対に見せることのなかった、悪辣さ、怒りや、憎しみ、とにかく攻撃性を存分に内包した笑い方をして、こう言った。

「アプーよ」

ゴオオオ、風が吹き荒れる。ファウストが恐怖し四方を焦って見渡すと、地面の上の花弁は渦を巻き、ぼろぼろぼろと空からも花弁が落ちてくる。仰ぐ、

「あ」

口から思わず声が漏れた。ただの桜があるだけというのに、違う。見られている、見下ろされている、そんな気がする。落ちゆく花弁、人の命……考えかけたところ、肩をずんと腕で小突かれ、

「ぷっ……うふふはははっ!」

笑われた。花弁が舞う、花弁が舞って、ホーキンスを、自分を攫わんと巻き込ませにかかる。ゴオオオオ、風は叫び続ける。冷たく虚しい声で叫び続ける。ちょうど、真ん中で。ファウストの目にホーキンスは映らなくなった。ただただ、満開の桜から花弁が落ち、後は何も……何も……、

「ファウスト、大丈夫?」

船長?

「ずいぶん顔色が悪いけど……」

ホーキンスは、戸惑った顔でファウストを覗き込んでいた。

 帰り道、

「ごめんなさいね」

ファウストはむん、と口を尖らせた。

「そんなに怖がりさんだなんて思っていなかったから」

全く、酷い。

「で、でもおかしいでしょう。あんなになるまで使われるライフがどれだけの命を持っているのかって、考えてみて。ほら、おかしすぎるでしょう」

落ち着いて考えると確かにそうだが、ただでさえ不穏、どうにも不安な予感がしていた時にあんなことを言われたらゾッとするに決まっているだろう。

「でも、急に風が吹き出すとはね。私もあれには少し驚かされたわ」

本当だ。祟りか、と考え込んでしまうほどに間の悪い強風だった。

「勘違いしちゃったのかしら」

ホーキンスは悪戯っぽく笑った。

「あれだけは、私から生み出された藁じゃないのに」

ファウストはまた驚く。

「ワノ国にも藁があるの。それを集めて藁人形にして」

アプーだと思って、痛めつけたそうだ。

「悔しかったのよ」

それは同意だ、とファウストは思った。あの野郎が紆余曲折の末、のうのうと生き残ったらしいからだ。ドレークから聞いた話だ、と船長に教えてもらった時には心の底から、死んでほしいとは思わないから、否、やっぱり死んでほしい、と思ったものだ。

「望みは薄いけれど、次会う時は絶対にライフにするわ。本当に同じ目に遭わせてやるんだから」

藁備手刀でひゅんひゅんと突く真似事をするホーキンスを見ながら、うーん、あれだけ傷つけるのは流石に絵面が……まあ船長がそうまでしないと気が済まないならそれで良いか、と、ぼんやり考えるのであった。

「待って。もしかしたら、あの男なら確かに、あれぐらいされたらようやく死ぬかもしれないわね。あ、もしかしてファウスト、それで本気にしちゃったの?」

ファウストはまた口を尖らせた。

「もう、ごめんなさいってば」

だんだん可笑しくなってきたのか、困り顔が揺さぶられ、くくく、と、ホーキンスは口を手で押さえる。

「その顔、面白い」

ファウストの口は一気に脱力し、

「……ふふっ」

静かに笑いに震えた。

「ファウスト……私は夢を追うために海に出たわ。でもね、夢はひとつじゃないの。一番の望みを諦めるのは辛いけれど……新しく追う夢を決めたら、もう後悔なんてしないと思う」

ファウストにとってその言葉の優しさはどこか切ない。急に、船長が自分と同じ立場になったと感じたのだ。なんだか、今まで頭の中にあったものが失われ、その部分だけ綺麗に空になってしまったようで……。

「皆でお店を作るの。どう?」

店?

「もちろん経営するのは私で、そうね……化粧品や入浴剤の類を売るの。初めてのお客さんには占いをしてあげて、一番運気が良いとされる商品を勧める」

ふむふむ、と頷く。香りの成分の調合などで今までの自分の知識が流用できそうだ。他の船員も、彼女が決めたことならばきっと協力してくれるはず。

「遠い田舎の村で、不要になった家を買い取りましょう」

そう語る船長の姿はあの時と同じ、キラキラと子供のように目を輝かせ、明るく、楽しげで。そんな人だからファウストは共に歩むことを決めた。現在も、それは同じだと気づく。ファウストの心中にあるこの感慨も、この期待も、空になったわけじゃない。船長はまだ、夢を追っている。

「ホーキンスさん」

「?」

やりましょう、ファウストはそう言うように頬をぎゅっとくっつけた。

「ふふふっ」

ホーキンスは笑った。満足気に笑った。



〜エピローグ〜

登場人物

キッド

キラー

???


 根を張り宿り、一面に咲く。ある夜の日、桜の森の満開の下を一人、奇妙な好奇心に誘われたか歩く者がいた。キラーである。ごうごうと風が吹きつける中、木の側の不自然に盛られた土に目がいった。どことなく何かあるような気がして、他人事ではないような気がして、何故か、手で、土を掘った。しかし、そこには何も無い。キラーは操られるように木々を巡り、土の中に手を入れる。何も無い、何も無い、何も……何も。

 風の音が妙に恐ろしく、心を震わせる。跳ね上がる心臓の音、気でも狂ったかのように、彼は何故か、キッドの名を叫んだ。その時、森の道の真ん中に、何かが倒れているのが見えた。嫌な予感がして恐る恐る近づく……この姿は、ああ、この姿は……キラーは焦り、笑い、その名を叫び、走り、倒れ伏して動かないキッドを抱え何度も叫び、おいおいと泣いた……桜の花弁が、悲しみが、笑うキラーの心に、キッドの体に降り積もる。

 キッドの唇にふわりと落ちた花弁が、目についた。取ろうと手を伸ばした。その時、風がごうと吹き荒れる。伸ばした先にあるのは桜の花弁だけ。舞う、舞う、舞う、花弁が、咲き誇る満開の桜が、舞う。森には誰も居ない。何も無い。ただ、ただ降り積もる、桜の花弁だけ。桜の花弁だけ……、

「何しとるワレェ!」

突如、風が止んだ。この声は……!

「あほっ!!!」

頬を思いっきり殴られた。この感触も……覚えている。

「まだ早いわ、この意気地なしと一緒に戻らんかいっ!」

小さな子供は、かつての友達二人にハキハキと喝を飛ばすと、どん、と、背中を強く押した。

「……は」

目を開ける。ざざ、ざざ、海の音が聴こえる。マスクが壊れたために露出した肌を貫かんと眩しく照る太陽、だんだんと、あの森の景色を、夢の記憶を薄めていく。不思議な夢だった。それにしても、此処は何処だろう……恐らく島らしい。人の気配は見えるような、見えないような……。砂浜に手をつき起き上がろうとすると、体が思うように動かない。その時、嫌な現実の断片にキラーは勘づき、ファファと笑い、辺りを見回し、船長の、相棒の姿を探す。

「キラー……起きたか」

その声で後ろを向いた時、垂れ下がった髪で、日陰の下で座り込んで、しかし、燃え上がるような目で自らを見つめるキッドが、そこにいる。キッドは口惜しそうにこう言った。

「次こそぶっ倒してやる」

「キッド……」

キラーは笑い、涙をポロポロと流す。

「ここで折れるわけにはいかないだろ、なあ?」

痛々しく血の跡のこびりついた唇を、それでも誇るように上げ、ニヤリと歯を見せて笑うキッド、キラーは応えた。

「違いない……!!!」

その時、遠くから人の声がした。

「店長、店長! あそこに倒れている人達が! それに、壊れた木材のようなものも……恐らく嵐に遭ったのかもしれません!」

「店があるのか……こんな寂れた島に」

声の方を追おうとしたキッドの体は、ピタリと硬直した。

「大変ね、行かなくちゃ」

何やら記憶に新しい声がしたためだ。レースの服を身に纏った、ポニーテールの女性が走ってくる。

「そこの方々ー! 大丈夫ですかー!」

張った声の通りも、何やら既視感がある。誰だ……?

「キッド、自分の記憶を信じるなら、恐らくあの女を、おれもお前も知っているはずだ」

「何?」

「大丈夫で……」

走る女性は、突然呼びかけるのをやめ、立ち止まった。その姿、キッドは、はたと勘付いた。

「お前、まさか」

「キッド!? それに、キラーも……海賊団の皆まで……何があったの!」

「こっちのセリフだ、一体何でお前が此処にいるんだ!」

「話は後にするわ、とにかく治療するから店へ! 皆、運んで!」

「了解!」

あれよあれよという間に、面々は店へと連れ込まれていく。

「ホーキンス、此処はお前の縄張りなのか!!」

「縄張りも何もないのよ、私もう引退してるんだから。それに、今はあまり大きな声で喋らない方が良いわ、傷が開く」

「は、はぁ!? 引退って……うっ」

ズキ、と腹の傷が痛む。

「ほら言った通りじゃない、もう……ちゃんと治してあげるから、今は大人しくしてて」

キッドは訳も分からないまま、薄れる意識を受け入れ、少しばかり心が安らぐのを感じながら目を閉じた。

「店長、何があったのかは知りませんがキッド海賊団の者達を助けると、後々、不都合なことになりませんか……?」

海水に濡れた船員を三人ほど運びながら、一人は心配そうに聞いた。

「心配しないで、彼らと交渉もするから。私だって元は海賊団の船長、堅気に戻ってもルールくらいはちゃんと頭に残っているわ」

「全く、これだからせん……店長は」

「大丈夫よ。今は言い直したって、此処にいる彼らも、どうせ私のこと知っているじゃない。お客さんの前では言っちゃダメだけどね」

「は、はいっ」

「それに、店主として、そしてこの村の人間として、倒れている人は誰であろうと放っておけない。賞金首のこの人達を匿えるのは私達くらいよ。だから助けるの。私の判断は間違っていないでしょ」

「ええ、その通りです」

ホーキンスは笑って、店の中へとキッド達を連れて行く。

 島の外、昇り始めた太陽の光を映す海で、恐らく立派なものだっただろう船の残骸がぷかぷかと浮き沈み、砂浜に流れ着こうとしていた。

 そんな、新しい夜明けの日。


Report Page