来いよ
「エ〜〜〜ス〜〜っ!!!」
なにやら感動の再開をしているらしい声を小型ボートの上で聞きながら、赤いリボンの麦わら帽子を被ったドクロを見上げる。
あいつの兄、エースは、おれが「実在」していたことにたいそう驚き喜んだ。本人確認代わりに「らんらん妖怪」の話をしてやると随分丁寧に礼を言われ、そしてそのまま小船に乗せられて今に至る。四皇幹部であるはずの男がたった一人、機動力だけを望んだ船で元部下を、ドラムを襲撃したあの"黒ひげ"を追っているというのはつまり、そういうことなのだろう。
「上がってきてくれ!おれの用事はもう済んだ!」
少しして頭上からかかった声に、羊頭の船へと飛び乗る。
おれにとってこれは、13年ぶりの再開だ。あいつにとっては、どうだろうか。
「ひさしぶりだな。ルフィ」
「…ロー?」
「ああ」
応えるやいなや、あの頃よりは随分伸びた背で飛びついてきた麦わら帽子の男を受け止める。こういうところも、相変わらずらしい。
「ロー!ひっさしぶりだな〜!!」
「変わらないなお前は…」
目を丸くするクルーたちに気がついているのかいないのか、ルフィはそのままぶちまけるような勢いでこれまでの冒険を語りはじめた。手漕ぎの小舟で外洋に出ようとするな。応急処置セットとナイフはたしかに役立つだろうがまずは航海士を揃えろ。本当によく生き残れたな。
率直な感想を述べていると、口をあんぐり開けているチョッパーが目に入った。どうやらおれの弟弟子は、一味に上手く馴染めているらしい。
「…じゃあなルフィ。ローも、会えて良かったぜ」
「エース!もう行くのか!!?」
「言っただろ、お前に会いに来たのはコトのついでなんだ」
おれたちの様子を満足げに眺めていたエースが、小船に飛び降りロープを巻き取りながら笑う。
「次に会う時は、海賊の高みだ」
ルフィの兄、"白ひげ海賊団"二番隊隊長。"火拳"のエース。
B・Wの追手の船を見事に沈めたその男は、間もなく水平線の向こうへ消えて見えなくなった。
「さて、ルフィ。早速だがお前に一つ提案がある」
「なんだ?」
手を振り回して兄を見送っていたルフィが、きょとんとこちらに顔を向けた。
それにしても、すでに役者が揃っているとは。こいつの人を巻き込む才能は、やはり本物だ。
去っていったエースとルフィの差に驚きを隠そうともしないクルーたちを宥める顔は、世界会議の内部資料で見たことがある。
王宮に運び込まれたダンスパウダーの原料たる"銀"の買い手。狙ったように町を襲う砂嵐。ジェルマから流れる武器と"秘密犯罪会社"B・Wの存在。
そして、海賊船に乗った王女。
ドフラミンゴの読みは当たった。これでまた、探求を進められそうだ。
遠い裏切り者の血族、ネフェルタリの血は獣の愚かを克すものか否か。
「"七武海"を一人…おれたちで引きずり降ろそう」