××村調査任務

××村調査任務



深い山の中を一台の車が走っていた。

運転席にはスーツを着た中年の男。助手席には、今どきあまり見ない書生服を着た金髪の男。後部座席には少年が二人と、少々奇抜な髪型をした男が並んで座っている。

窓の外を流れていく一面のクソ緑を眺めるのに飽きたのか、黒いパーカーの少年…虎杖が口を開いた。

「てかさ、乙骨先輩に直哉さんって、調査任務にしては過剰戦力じゃね?なんで?」

「そうだなぁ…発生場所による呪霊の特徴って聞いたことある?」

「ある!地方と東京だと狡猾さ?が違うんだっけ。人が多いとそれだけ呪いが強いとかなんとか…」

「そうそれ。ちゃんと教えてもらったんだね」

「だが、その理屈ではこれから向かう先では強い呪霊は生まれないということにならないか。両手で足りるほどの数の家族しか残っていない、小さな村だと聞いたぞ」

「そうですね。確かにこれから行くような環境では、発生直後はほとんどが低級です。なんですけど、えっと──」

「問題は発生した”後”や」

術師歴1年未満の虎杖と、そもそも人間歴が1年未満である脹相への説明の仕方に乙骨が悩んだ気配を察してか、助手席の直哉が口を挟んだ。

これはもちろん代わりに説明してあげようという親切心ではなく、乙骨の丁寧な語り口を聞いて”すっトロいんじゃ”という持ち前の短気を発揮した結果である。

「山間やら限界集落やら、そういった街から離れとるとこには土着の信仰が多い。発生した呪霊の被害にそういったもんが紐づけられることがある」

「紐づけられる?呪霊に?」

「せや。非術師には呪霊が見えん、せやから呪霊の被害の原因がわからん。でもわからんままでは済まん、人間は理由を求める生きもんやからな」

「その理由を自分たちの持つ信仰に、信仰の対象に求めるということか」

「ふーん…でもさ、呪いって負の感情から生まれるんでしょ?俺あんま信仰とか宗教ってよくわからんけど、負のイメージかっていうと違う気がする」

「神社やお寺にお参りに行くくらいの人にとってはそうだね。でも神様に対する感情って正のものだけじゃないよ。負の感情…”畏れ”だね。畏敬とか畏怖って言えばわかりやすいかな」

「それに日本の神さんにはお誂え向きに”荒御魂”ちゅうもんがある。お鎮まりください、障らんといてください、祟らんといてください。──呪わんといてください、や」

「呪うな、か。裏返せば呪いの存在を補強しているようなものだな」

「特にど田舎の土着信仰なんかピンキリやしな。なんとかのご利益がどうたらいうんやなく、日々無事に過ごせますように~くらいの適当なもんやで。せやから日常から外れたことが起こった時に、容易に信仰と紐づいてしまう」

「形のない漏出呪力でも、元々信仰って土台があると”方向性”が付与される。発生した時点では低級でも、呪霊に通常よりも大量に追加の呪力が注ぎ込まれてしまうんだ」

「そうなると等級がどんどん上がってまう。田舎ならではのようあるケースやね」

珍しく脹相が、いつものように直哉の話に天然の煽りを入れることもなく静かに聞いている。有用な内容だからか。

その脹相を横目で見つつなるほど、と虎杖は一人納得していた。英集少年院の呪胎や特級呪霊・真人の変態からもわかるように、呪霊も人のように”成長”する。土着信仰のある土地ではそれが起こりやすいということだろう。

「山村での呪霊討伐任務が蓋を開けてみたら産土神信仰なんかと結びついていて、派遣された術師以上の等級に跳ね上がって死傷者が出る…なんてこともよくあるみたいだよ」

「ついこないだうちのカスどもがそれ系に当たって結構な数死んだからな。下っ端といえど御三家の術師無駄死にさせて腰が引けとんのとちゃうか。特級一級揃い踏み、俺が突っ込まれたんもそれ関係やろ」

雑魚どものせいで迷惑なもんや、と舌打ち混じりに補足が入る。

直哉のそういった倫理的にギリギリアウトな言動も、きりが無いのである程度スルーする判断ができるほどには付き合いも長くなった。

「というかこの程度のことなんで知らんねん。呪霊の発生と成長プロセスとして基礎中の基礎やぞ。高専は何をしとんの」

「うーん、五条先生忙しいしなー」

「そういや悟君が担任なんか…あん人が教師できるはずないやろ。知識としては持っとるやろうけど、知らんと対応できん雑魚の気持ちがそもそもわからん。教えるって考えに至らんタイプや」

しょっぱい顔の虎杖と苦い笑いを浮かべる乙骨を見るに、この二人と直哉の認識は五条悟に関してはそうズレていないらしい。

虎杖の疑問はある程度解消されたらしく、後部座席は別の話題へと移っていく。今は道中や合間で食べる用に持参したお菓子をお互いに品評しているようだ。

直哉が雑談の呑気さに何度目かの舌打ちをする。隣の補助監督が胃の痛そうな表情を強めたのを気にも留めず、今回の任務の通達書を確認しようと端末を取り出した。すでに目は通したし大した記載量でもないため改めて読むまでもないが、今はとにかく後部座席の会話をシャットアウトしたい気分であった。

通達書の1ページ目には、愛想もない文体でこう書いてある。

【呪術総監部より通達】

下記4名に××県××村で発生した呪霊被害の調査任務を命ず。

 1級査定保留中 虎杖 悠仁

 特級術師    乙骨 憂太

 呪胎九相図1番 脹相

 特別1級術師  禪院 直哉

詳細については次項以降を参照のこと。

以降なんやかんやあって爆発炎上する因習村から乙骨パイセンの危険運転で脱出。ハッピーエンド。

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