【朽ちゆく灰 と 嗤う蒼穹】

【朽ちゆく灰 と 嗤う蒼穹】

Part08 - 71

───此処には“灰”しか無い

鉄臭い道に死体の山、あまりにも終わっているありふれた光景。

この平時の惨状も、数刻すれば血すら残さず、跡形もなく消えるのだろう。


……嗚呼、そうだな。此処には“灰”すら無い。


最期には灰も残らない。


当たり前のように人が死に、

当たり前のように人が溶け、

当たり前のように食われる。


何も残せるものなど無い。

強いて言うならば傷痕くらいだ。

……それも、いつかは埋められるだろうが。


濡れたスーツを脱ぎ捨て、空を仰ぐ。

今日は珍しく青い空とやらが拝めるらしいが、相変わらず曇天なグレーしか見えない。

そんな色の無い空を嘲笑って、煙草に火をつける。


「───おっ、煙草かい?俺も吸いたいと思っていたんだ」


鈴の音のような声、されど内容は凡庸そのもの。

聖女のような優声で老けた男のような言葉が来たものだから、驚いて振り向いた。


「火、持ってるか?」


………その日、オレは初めて“蒼穹”を見たんだ。


Report Page