本物メイショウドトウ 個別ストーリー第一話
トレセン学園へとやってきて早数日。ウマ娘をスカウトするべく校内を歩いていると━━━
「……。」
「三女神像前」の噴水広場、その噴水の縁の石に堂々たるポーズで腰掛けていたウマ娘が居た。
「……。」
……別段、彼女に用事がある訳では無いのだが、あまりにも堂々としていたのでつい気になって足を止めてしまう。
そうして少し見ていると━━━
「何かご用でしょうか?」
当然、彼女の方も自分に気付き、こちらに声をかけてきた。
Ωここで何をしてるの?
「トレーナーからのスカウトを待っています。」
Ωスカウト。
ストレートな答えを聞いてつい呆気にとられてしまったが、この学園での「トレーナーからのスカウト」と言えば、まず間違いなく「トレーナーからの契約の申し出」の事を指しているのだろう。
しかし、そうであればとにかくトレーナーに対して走りをアピールする必要がある。
Ωじゃあグラウンドで走りながらアピールとかした方がいいんじゃないか?
「一理あります。しかし、それはわたくしには不要だと判断しました。」
Ωえっ!?
あまりにも予想外の答えについ声が大きくなってしまった。
「驚くことでは無いと思いますが……単純な話です。わたくしが走っていると、トレーナーさん方は声を掛けづらいと考えました。ですので、こうして万全の状態で待っているのです。」
Ω ……。
レースの能力を示す事もせず、ただ座ってスカウトを待ち続ける。こんなウマ娘は見たことが無い。というか聞いたことすら無い。
しかし彼女の佇まいからは「絶対に来る」という自信が、口に出さずとも伝わってくる。
……どこまで自己肯定感にあふれたウマ娘なのだろうか。
そう考えた上で改めて彼女を見る。確かにメリハリのある身体付きをしており、これだけの肉体があれば高等部のウマ娘にも引けを取らないだろう。見える範囲での話だが、脚の筋肉の付き方も悪くはないと感じる。
もしかしたら新人である自分が知らないだけで、彼女は実績のあるウマ娘なのかもしれない。
Ωここで見ててもいいかな?
「構いませんが、あなたの用事はいいんですの?」
Ω焦ってやるものでもないからね。
「わたくしは構いませんわ。」
自分は彼女の邪魔にならないよう、離れた位置にある長椅子に座り、引き続き彼女に視線を向けた。
そして━━━
一時間が過ぎ━━━
二時間が過ぎ━━━
夜になった。
彼女の様子はこの数時間変わる事は無かったが、数分前から放心しているように動きが止まっていた。
すると、震える様子でこちらに歩いてきた。
「な、何故……。」
「何故スカウトが来ませんのーっ!!!」
Ω ……。
彼女に何と言うべきか、迷った。
彼女の様子からして、本気で分かっていないのだろう。となると予想していたようにスカウトされるだけの実績があるとは到底思えず、そもそも「スカウトの条件」を把握していたとも考えにくい。
少しの間悩み、ここは直球でズバッと言ってしまうことにした。
Ω走ってないからじゃないかな……。
「……えっ?」
Ω走った姿を見ない事には、君の実力が判断出来ないよ。
「……。」
彼女は少し悩んだ様子を見せた。
その後、ゆっくりと口を開く。
「ここは日本でも随一のトレーナーが集まっている場所と聞きました。であれば━━━」
「走らずともわたくしの才能を見抜き、スカウトの声がかかる。そう考えていたのですが……。」
Ω……。
Ωいやいやいや!
「違いますの?」
Ω違うと思うよ。
「そんな……。日本のトレセン学園のトレーナーはとても優秀であるとお父様から聞いていましたのに……。」
Ω限度があるからね……。
「……分かりました。では、考えを改めます。」
そういうと彼女はゆっくりと姿勢を正し、優雅な動作でこちらに一礼した。
「申し遅れました。わたくしはアイルランドより参りましたメイショウドトウと申します。」
「袖振り合うも多生の縁。どうか、この学園のルールを教えていただけないでしょうか?」
……これが、ご令嬢ウマ娘「メイショウドトウ」との出会いだった。