本物メイショウドトウ 個別ストーリー第二話

本物メイショウドトウ 個別ストーリー第二話



メイショウドトウと出会ってから数日後。

自分とメイショウドトウは、練習用のグラウンドに居た。

「では、本日はよろしくお願い致しますね。」

Ωうん、よろしく。

彼女はたおやかに一礼すると、グラウンドのコースへと向かって行く。

あの夜の日に聞いた、スカウトされるための道を知りたいという彼女の願い。それを果たす為の第一歩である。


「……はっ!」

トレーナーからのスカウトを受ける為には、何はともあれ走る姿を見せることが必要となる。

そうなると、まず手っ取り早いのが彼女のトレーニングの光景を見せること。

そこで、新人とはいえトレーナーである自分が組んだトレーニングメニューをこなしてもらう事にした。

「はっ……はっ……。」

走り込むメイショウドトウを見つめながら考える。

今日までの数日間、自分は改めてメイショウドトウのことを調べていた。

あの時は分からなかったが、実際問題「彼女は手放しでスカウトされる程の存在なのだろうのか?」という疑問を解消するためだ。

「……はああぁっ!!」

結論から言うと、レース関連に関しては別段目立った成績も無く、正直なところレースの実力面ではそもそも選考対象にすら入らないレベルであった。

ここから言える事は、どう考えても「優秀なトレーナーからのスカウト対象にはならない」という事実だ。


そうして考えている時も、彼女は淡々と練習をこなしていた。

そして━━━




「はぁっ……はぁっ……。」

メイショウドトウは頑張っていた。

自分が与えたトレーニングのノルマをただひたすらストイックにこなしていた。

しかし、彼女に反応するトレーナーは居なかった。

Ω(……まあ、そうだよな。)

新人の自分でも分かる。練習風景だけでスカウトを持ちかけられるような都合の良い話はまず存在しないのだ。

とは言え、そこも自分が想定していなかったわけではない。

この練習の目的は単なるアピール行動などでは無く、トレーナーとウマ娘を結びつけるレース……即ち「選抜レース」に向けたものであるからだ。

ドリンクとタオルを携えて、全てのトレーニングメニューを完了させた彼女の元に向かう。

Ωお疲れ様。

「ありがとうございます。」

Ω練習メニューはどうだった?

「わたくしにはまだ質の良し悪しは分かりませんが……とても充実した練習であると感じました。」

Ωそう言ってもらえると助かるよ。

「こちらこそ、急なお願いにも関わらずお付き合いしてくださって感謝しています。」

彼女は深々と頭を下げる。

それを見て、自分は彼女の「レース以外の」評価を思い出していた。


入学前後の情報から伺える評判はと言うと、学業テストは常に上位で成績優秀、ウマ娘の身体能力を活かした武芸でもこれまた上位の成果を出している文武両道。

更に宝石商である親の後について世界各国を渡り歩いていたとのことで、複数の語学を堪能している。

度重なる環境の変化にめげる事なく、様々な国の人々との交流を深め、どの場所でも結果を残してきた……と、一般的な尺度で見れば非の打ち所のない学生である。

それでいて驕ることなく、しかし卑屈になることも無い。それが彼女の評判であった。


Ωスゴいな……。

確かに、これ程の成果と実力があればあの時の異様な自信も頷ける。


「とは言え、確かに今のわたくしがレース関連での成果を出していないことは事実でした。」

Ω!?

「……口に出ていましたので。」

Ω変な事言ってごめん!

「……? 概ね事実ですので大丈夫ですよ?」

心を読まれたのかと一瞬焦ったが、気を取り直して会話を続ける。

Ωこの調子で練習して、次の選抜レースで結果を出す事が出来ればスカウトされるかもしれないね。

「……。」

疲れのせいだろうか。彼女からは以前会った時の覇気が感じられなかった。


「あの、わたくしの走りについて聞きたいことが━━━」





「おお!そこに居るのは我が永遠のライバル!ドトウじゃないか!!」


彼女の言葉を遮るように、自信に満ち溢れた大きい声が響いた。


……そしてその瞬間から、メイショウドトウの表情が見たこともない曇り方をし始めた。


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