本物メイショウドトウ 個別ストーリー第三話
「おお!そこに居るのはマイライバル!!フランス語で言えばリヴァルだね!!」
Ω(言い直した!?)
自分とメイショウドトウがすぐに返答しなかったため、聞こえていなかったと思ったのだろうか。
だがそんな彼女の方を向く事すらなく、メイショウドトウは自分に向かってニッコリと笑った。
「……ご紹介いたしますね。こちら、わたくしのクラスメートの『バカ(テイエムオペラオーさん)』ですわ。」
━━━かすかに震えた声から出された「テイエムオペラオーさん」の言葉の裏に随分と汚い表現を感じたが……気のせいだと受け流すことにした。
「すぐに追い返しますので少しだけお待ちいただけますか?」
Ωあ、ちょっ……
「……オペラオー。所有形容詞という言葉はご存知かしら?『My Rival』という英語をフランス語に直す場合は『リヴァル』だけでは正しい言葉遣いとは言えません。女性形の所有形容詞を足して『マ・リヴァル』とするのが一般的には正解です。」
「まあ、あえて補足するならばそうなるだろうね。しかしボクはテイエムオペラオーで君はメイショウドトウだ。その関係性は、既存の言葉で言い表すには狭すぎる。」
「ですから既存の言葉で言えなければテストでは減点だと何度言えば……っ!」
「しかし言語の使われ方というものは移り変わるものだろう?君とボクとの関係性は常に流動し、進化し続けるべきだ。故に、君とボクとの間で発せられた言葉が常に最新の解釈。メインストリームとなるべきなのさ!」
「仰っていることは殊勝ですが単なる言い訳でしょうがあなたの場合は!!!」
「流石はドトウ。以心伝心とはこの事だろうね!」
「普段オペラ知識を仕入れるために使っている時間を!少しでも赤点回避のために使おうという気は無いのですか!?」
「な い ! !」
Ω(……。)
先程までの深窓の令嬢のお手本のような柔らかさとは打って変わって、別人のような刺々しさで会話をしている。
その様子を見てつい呆気にとられてしまっていたが、彼女達の会話から「ライバル」という言葉が確かに聞こえた。
相手のウマ娘はテイエムオペラオーという名前らしいが……今の自分からはメイショウドトウのクラスメイトという事しか分からない。
「……今ちょっと時間が惜しいのです。何しに来ましたの?」
「なあに、さっきまでそこでアヤベさんとライバルとして分かり合っていた所だったのだけれどね。」
「アヤベさんを巻き込んでオペラやって騒いでいた、と。」
「その時、アヤベさんが教えてくれたのさ!『あなたに最も相応しいライバルがあそこに居る』とね!」
「で、アヤベさんはわたくしにオペラオーを押し付けて逃げた、と。」
「何より、ついに君が選抜レースへ向けての準備を始めたと聞いてね!」
「……。」
先程まで逐一皮肉を繰り返していたメイショウドトウが、「選抜レース」の言葉を聞いて一瞬口を噤んだ。
「この時を待っていたんだ。さあ、今こそボクの最大の障壁として━━━」
「今日はトレーニングで疲れているのでまた後日お願いします。」
「おっと、ボクとした事が嬉しくて焦りすぎてしまったようだね。アルノルト・シェーンベルク作曲の━━━」
「"期待"は分かりましたから!今はお引き取り下さいませんこと!?」
「そうさせてもらおう我がライバルよ!エルザの祈りが届くその日まで!ハーッハッハッハ!!!」
Ω(嵐のようなウマ娘だった。)
嵐のようなウマ娘、テイエムオペラオーが去った後、自分もメイショウドトウも押し黙ったまま立ち尽くしていた。
「…… …… 。」
そしてようやく我に返ると、さっき彼女から聞きそびれていた質問があった事を思い出した。
Ω……そういえば、さっき何か聞きたがっていたよね?
「……その前に一つお聞きしたいのですが。」
Ω?
「何故わたくしはあのような"バカ"からライバルとして付きまとわれているのでしょうか。」
Ωバカってそんな……。
「バ!カ!なん!です!!!」
Ω!?
「赤点の常連で!見かねて勉強を教えても、ちーとも覚えようともしない!あまつさえはこちらに『もっと心惹くような脚本で頼むよ!君なら出来る!』などとのたまう始末!!!」
「こちらが優しくしていれば!そこに付け入るようにわたくしがこなせる範囲ギリギリの無理難題を押し付けてくる上に『君なら出来る』の言葉でこちらを気持よく持ち上げようとする!!」
「ビート板が無ければ泳げもしないくせに何故か堂々とプールに飛び込みを行う!毎度ハラハラしながら見届ける身にもなれという話です!」
Ω(聞いてもいないところまでどんどん話してくる……!)
「挙句人前でこの様な醜態を……!おのれオペラオー……ッ!!!」
Ω分かった!落ち着いて!
「……ッ!」
Ω深呼吸。
「……ふーっ……すぅー……。」
深呼吸するメイショウドトウ。どうやら彼女とテイエムオペラオーの関係性は、少々特殊なもののようだ。
「……お見苦しいところをお見せしてしまって……。」
Ω大丈夫だよ。
メイショウドトウが落ち着いた事を確認し、今日はもう遅いという事でそのまま解散となった。
結局、彼女が何を聞きたがっていたのか。その疑問を抱えながら眠ろうとした時、自分の元に彼女から新着メッセージが届いていた事に気がついた。
『聞きそびれていた質問です。今のわたくしの走りの、客観的な評価を教えてください。』
「RKSTポイント……ですか?」
Ωそう。
RKSTポイント。毎年7月に発表される、デビュー前のウマ娘への評価ポイントの事を指す。
正確な能力の比較などではなく、あくまでウマ娘評論家などによる「期待値」としての客観的な予想ではあるのだが、今の彼女の「客観的な評価を知りたい」という要望に一番近いものがこれであった。
「なるほど……つまりこちらのポイントを見れば、今のわたくしの世間的な評価が分かるということですのね?」
Ωそういう事だね。
そして今自分達は、そのRKSTポイントを確認出来るデータベースへと接続したPCの前に座っている。
後は、メイショウドトウ自身がそのポイントを確認するだけだ。
「分かりました。では早速……。」
メイショウドトウは画面を操作して自分の名前を探していく。
「……上位の数値は何億という数値なのですね。」
Ωそれでも数千、数百万くらいの子も多いよ。
平均値だけで言うならば大体2000万という数値が出てくるが、それを下回る子も珍しくないという話をする。
「なるほど……アヤベさんも流石ですわね。トップロードさんはこんなところに……あら?」
そう言うと彼女は画面のスクロールを止めた。彼女の視線の先を見ると、とあるウマ娘の評価値が書いてあった。
テイエムオペラオー:1000万
「あらあら。よくもまあこの数値であれ程の自信を持てたものですわね。ふふ……ところでトレーナーさん。」
Ω何かな。
「……わたくしの名前がまだ見つからないのですが。」
Ω ……。
「この一覧表はポイント順に並んでいるのですよね?」
Ω そうだね。
「……。」
そしてメイショウドトウは、意を決して自分の名前を検索欄に入力する。
そして━━━
「……あっ、ありまし……た…………」
メイショウドトウ:500万
「ゴッ…………。」
Ωまた固まっている……。
あの三女神像前の時のように、メイショウドトウはフリーズした。