未定、壱

未定、壱

みていへん、編導入











じりじりと蝉が鳴く頃に、ぼんやりと何かを思い出そうとして

うだるような夏の暑さと共に、今日は何日かとカレンダーをめくる。

そこには空白だけがあり、いつの間にやら周りは全て真っ暗だった。


「こんばんは。今日はいい天気だね?」

「だからさ、光なんて付けないで、くつろご?」


暗闇の中、あなたは少し戸惑い、術式、もしくは便利な現代の機器を使って光を灯すかもしれない。すると、どこからか声が聞こえてくるだろう。女とも男ともつかぬ、人ともわからぬ、そんな声だ。あなた達がその姿を見ようとしても、その声の主がどこに居るかもわからぬ。その声の主は光を灯されることを嫌っているようだ。


そして、その声は

「これ、招待状。来てくれたら、君の碌でなしな行動を許してあげる。」

「来なかったら……? さぁ? でも君にも大切な人、大切なものはあるでしょう? 一個くらいはさ。」

と告げてくるので、あなたは驚きなのか恐怖なのかはわからぬが少し固まってしまうだろう。そうしてあなたが固まったままでいると、水がどこかへ落ちたかのような音が鳴り、あなたは自身の手から汗が落ちたことを自覚する。


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ふと、先ほどまで固まっていたのが嘘みたいに体が動く。自身が横たわっていることに気がつきがばりと起き上がるといつもの布団の上だった。

あなたは夢かと安堵したいだろうが、手に握られた便箋がそれを許さなかった。


あなたは一瞬捨てようと思うかもしれないが、

「君にも大切な人、大切なものはあるでしょう?」

その言葉を思い出す。単なる脅しかもしれないが、夢にまで介入してくるやつなら実際に出来てしまいそうで、あなたは便箋を捨てられずにそのままぺり、と便箋を開いた。すると、『京都高専の門前まで。』と書いてある。門前まで?何故中に入らないんだろうとあなたは疑問を持つかもしれない。だが、それでも、あの言葉を思い出すと行かない訳にはいかず、あなたは書かれている場所まで歩を進めた。


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あなたがそこまで行くと、数名の人が居るだろう。みなみな手に紙を持っていて、あなたの顔見知りが多いのでは無いだろうか。一人で居た人に少し話をかける。するとその人も夢を見たという。光を灯そうとはしなかったらしいが、ここに来てと言われたらしい。脅しのことを聞くと、ふわりと微笑んで誤魔化したように見えた。これ以上話は聞けなさそうだと見て、少し遠くの一人きりで居た他の人に話を聞きに行く。その人は夢?と不思議そうにして、「ふと来なきゃいけないと思ったから来た」といった趣旨の事を話した。顔見知りな気も、違う気もした。何か不思議で、その場を離れた。そして、少し気になり、振り返ってみるとそこには人など存在しなかった。

あれは人ではなかったのか、でも呪霊にも見えなかった。なら……などと考えてしまい、あなたは恐怖心に包まれるかもしれない。恐怖心に駆られると、妙に静かなのが嫌になり、人の多い高専の門の前へと歩を戻した。


……そう、そこからが、始まりなんです。

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