朝の一幕

朝の一幕


※色々注意

※究極のif

目覚まし時計のけたたましいベル音が頭上から宿儺の頭に降りかかる。爽やかな朝の空気などはこの音でかき消され、不快感しか残さない。


「……チッ」


思わず漏れ出た舌打ちと共に時計を止めて寝床からゆっくりと這い出ると、寝ぼけ眼のまま身支度を始めた。

自室を出ると、同居人……悠仁の部屋から物音がした。おそらく起きているのだろうが、部屋から出てくる気配は無い。

同居人の虎杖悠仁は、彼が言うには双子の兄弟らしいが自分にはその記憶が無い。けれど互いの顔を見比べれば、血が繋がっていないという方が不自然である程に濃い血の繋がりを感じる。疑う方が馬鹿らしいと言う物だろう。

なので共に暮らす事は別に良い。

けれど、目が合う度に罪悪感に溢れた顔で目を逸らしながら謝ってくる事が、どうしようも無く腹立たしかった。自分でも不思議になるくらい苛立ったが、その理由は多分、同じ顔にも拘わらず自分がしないであろう表情や行動を見せられる事に腹が立っているのだろうと思っている。

悠仁の部屋の前で少しの間足を止め、雑念を振り払うようにその場を後にする。極力顔を合わせないようにする方が互いの為だろう。


洗面所で顔を洗えば漸く目が冴えて来たが、鏡に映る自分の姿はまだ少し眠気を孕んだ表情をしている。昨晩見た悠仁の顔とよく似ていた。

顔を拭き時間を確認するとまだ5時半にもなっていない。この時間ならまだ大丈夫だ。


「ん? 何が大丈夫なんだ?」


まだ大丈夫とはいえ、ゆっくりもしていられないので、気持ち急いで台所に立ち手早くボウルに卵を割り入れる。フライパンには油を引いて弱火で温めている間に卵を溶いて味付けを……。

──なぜ俺はこんな事を? 分からない。

充分温まったフライパンに卵液を流し込み、巻いていく。

──別に朝食なんぞ何でも良い。手間が掛かる分こんな物よりもそこにあるシリアルでも良い。

焼き上がった卵焼きをまな板に落とし、ソーセージ2本に切り込みを入れてフライパンで焼いていく。

──なぜ こんなことを?

宿儺は出来上がった卵焼きとソーセージを皿に盛り付ける事もせず、立ったままその場で全て胃に詰め込んだ。卵焼きの味付けは、自分で作った物なのに好みの味付けではなかった事がなんとも奇妙な心地だったが、何故か馴染みのある味でもあり宿儺をより混乱させた。

噛み合わない行動と感情、記憶に気分が悪くなる。何とかそれを落ち着けたくて飲み物を取る為に冷蔵庫を開いた。


「……? 何だこれは」


目を引いたのは殆ど空と言っても良いほどの冷蔵庫の隅に3つ重ねられたタッパーだった。“宿儺”と名前が書いてある事から自分の物である事は分かるが、記憶に無い。

全て取り出して中を見ると、それぞれ野菜炒め、煮物、揚げ物が少しずつ入っていた。

少し摘んで口に入れると冷えてはいるものの不味くはない。が、好みの味付けではなかった。


「本当に何なんだ。全く記憶に……。?いや、俺が作ったんだったか? 何のために……っ、う……」


その3つを見ていると頭にモヤがかかり気分の悪さと共に痛みまで走る。深く追求しない方が良い。

中身を全てゴミ箱に捨て、タッパーは調理器具とまとめて洗った。


「はぁ……気分が悪い」


ソファに沈み、冷蔵庫から今度こそ取り出した真新しいミネラルウォーターの蓋を捻る。パキリ、と乾いた音が静かな朝のリビングに響いた。時計の長針はそろそろ12を指そうとしている。


「おわっ! え? 宿儺? 電気もつけんで何やってんの!?」


水を一口飲んだところで悠仁がやって来て照明のスイッチを入れた。

そういえば明かりをつけるのを忘れていた、とぼんやりしながら驚いた様子の悠仁を眺め、もう一口水を飲んだ。


「別に電気代に困る程生活費がヤバいって訳でもねぇから全然、って……それは覚えてるか」

「………」

「あー、その……ごめん」


怒っていた訳でも無かったが、何を勘違いしたのか悠仁は気まずそうに謝りつつ顔を逸らした。それだ。その態度が苛つくのだ。

知らず知らずの内に険しい顔にでもなっていたのだろう。恐る恐る此方を伺い見た悠仁が肩を跳ねさせ、再び小さく謝りながら台所へと走って行った。


「…………チッ」


テレビを付けるとニュースキャスターが朝の挨拶をしていた。何の興味も湧かず、ただひたすら眺めていると、悠仁が台所の方から声をかけて来た。


「シリアル食うー?」

「……もう食った」

「……分かったー」


少し沈んだ声になった気もしたが、知ったことでは無い。

ソファに座り、水を飲みつつニュースを観ていると、先行くなー、という悠仁の声と共に玄関の扉が閉まる音がした。

学校に行くには些か早すぎる時間だ。

大方気まずさから早く家を出たのだろうと予想が付く。

別にわざわざ共に行こうなどとは微塵も考えていなかったが、こうもあからさまに避けられるとは思っていなかったので、少し面食らってしまう。


「……ふん。避けられたからといって、その程度で腹を立てる訳でも無いがな」


ただ天気を知らせるニュースキャスターの能天気な声が、やたらと耳に付いて鬱陶しく感じた。

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