月明かりの夜に
ーアルバーナ決戦前夜
「こんな所で何してんだ?」
一人で星を眺めていたビビにルフィが声をかける。ビビは少し黙った後に困ったような顔をして言った。
「…どうして気がついたんですか?」
「んー…勘!!」
「勘って…いつも私がいじわるしてる時にはそんなこと言わないくせに」
「ししし!やられっぱなしは俺の趣味じゃねぇからな!!」
ーずるい。
隣で笑うルフィの顔から少し目を逸らしながらビビは思う。
ーいつも女の人と関わる時は顔を真っ赤にしておどおどしてるのに、こういう時に限って当たり前のように寄り添ってくれる。
「(…はぁ。これじゃナミさんのこと全く笑えないなぁ。)ねぇ、ルフィ少しお願いしたいことがあるけど…良い?」
「ん?なんだ?」
少しだけ頬を染めながらビビがルフィに尋ねる。
「その…少しだけ胸を貸してくれるかしら?」
「…ああ、いいぞ。ほら。」
そう言うと、ルフィはそんなことかと言わんばかりの顔で微笑みながら両手を広げた。そして少し遅れてビビがその胸に抱きつく。
ーホント、ずるいよ
「(いつもなら、こんな事したらすぐに顔を真っ赤にして逃げ惑うくせに。体に触れただけで全身を固まらせて何も喋れなくなる癖に)」
ーこうして、誰かの胸を借りるのはいつぶりだっただろうか。
そう思うビビの脳裏にアラバスタにいるであろう父の姿が浮かぶと、それをキッカケにかつての平和な日々が次々と思い浮かんでいく。しかし同時にその日々は消えていき、大切な人々や国そのものが砂となって次々と消えていくイメージが浮かび上がってくる。
「…大丈夫だ。俺たちが必ず助ける。」
「…ぁ」
そう言ってルフィがいつの間にか震え始めていたビビを抱きしめると、ビビの両目からは自然と涙が溢れ始めた。やがてビビはルフィの胸の中で啜り泣き、そんなビビの姿をルフィは彼女が泣き止むまで黙って抱きしめていた。