月に誓う

月に誓う


「……100%?」

私は自室のベッドの上で、思わず目を疑った。いつものように占いをして、ふと気になったことを占ってみた結果が、100%だった。だが、そんなはずは無い。だって、彼と私はただの同僚であり、良くても友人関係だ。それ以上でも、それ以下でもない。きっとこれは、何かの間違い。気を取り直して、もう一度カードを混ぜ合わせる。ペタペタと宙にカードを貼り付け、結果を見る。

「……ドレークが、私のことを、好きな確率……100%……」

そんなわけない。私は彼を好きだけど、彼はきっとそんなことない。そんなことないんだってば!

もう一度占う。もう一度、もう一度、もう一度……。

何度やっても、結果は変わらなかった。

ドレークが私のことを好きな確率は、100%から変わらなかった。

それはつまり、彼が私のことを、少しでも魅力的に思ってくれているということであり、私に欲情することが可能であり、私に恋慕の情を抱いているということに他ならない。

きゅぅ、と喉がなった。思わずベッドに倒れ込む。顔が、あつい。キュンと心臓が締め付けられる感覚が妙に心地よかった。


***


百獣海賊団に下り、少し経った頃。私は同じ最悪の世代と銘打たれた海賊、"赤旗"X・ドレークと行動を共にすることが多かった。

彼とはどうやら同郷であり、年齢も近い。海の戦士ソラが好きで、教養があり、星が見える夜には星見の話も出来た。

真打ちに上がり、さらに彼と共に過ごす時間が多くなった。誤って私の着替え途中に私の部屋に入ってきて、顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまったこともあり、『女の裸に弱い』という意外な一面を知ることも出来た。

強くて、芯があって、かっこよくて、たくましくて、優しくて、しっかり者なのに少し抜けている、年上の男……精神的に追い詰められていた私が、優しい彼を好きになるのは、自明の理だった。

心の奥でずっと引っかかっているキッドとキラーへの感情を覆い隠すにはうってつけの、甘い甘い恋だった。


***


ノックの音で私は慌てて体を起こした。数分ではあるが、部屋着にも着替えないで寝転がってしまった。ブラウスはシワになっていないだろうか。顔にシーツのあとはついていないだろうか。

「……ホーキンス、おれだ。入っていいか?」

「ドレークね。少しお待ちになって」

大慌てで服を整え、髪をとかして、ベッドメイクも済ませた。これで先程の自堕落な態度は誤魔化せるはずだ。

「ごめんあそばせ、ドレーク。お待たせしました、どうぞ」

ドキドキしながら、気取った声でドアを開ける。きっと今までの私では考えられない態度だ。こんなにあたたかくて甘くて苦しい気持ちは初めてなのだ。

「……どうした、ホーキンス。顔色が良くない。改めようか?」

「そんなことないわよ。大丈夫よ、ありがとう。ご心配には及びませんわ」

あなたを見てるとドキドキするなんて、口が裂けても言えないじゃない。「そうか?」と首を傾げるドレークを促し、真打ち以上になると割り振られる個室に入った。自分好みに改造していっている、わりかし気に入っている部屋だ。本当なら船に置きっぱなしのお気に入りのオブジェや、観葉植物やらハーバリウムなんかを置きたいのだが、そうわがままも言っていられない。美しい意匠の水煙草を端に追いやり、「コーヒーを淹れるわ」と言えば、「ああ、いや、お構いなく」と穏やかな声が帰ってきた。

「長居するつもりはないんだ。次の任務のことで話したいだけだ」

「……そう。わかった……ねえ、ドレーク。貴方、この後の予定はあって?」

「この後?うーん……特にないが……どうしたんだ?」

「なら、少しゆっくりしていってくださらない?話し相手が居なくて暇なのよ」

「お前、おれを暇つぶしに使う気か?」

ドレークが眉をひそめた。少しでも長く一緒にいたくて咄嗟についた嘘だったが、よろしくなかっただろうか。不安を押し殺したくて、ぎゅっと彼のマントのはしを握った。

「……ダメ?」

「……」

「……お願い、ドレーク……」

「……わかったから、その目をやめろ。おれが泣かせたと思われる」

困ったように微笑んだ彼を横目に、サイフォンをセットする。素敵な時を過ごせる気がする。そんな予感に、私は久々に笑みを浮かべた。



***



それから、ドレークは暇を見つけては私の部屋を訪れるようになった。私たちは実力や相性も込みで、任務で組まされることが多かった。なので、必然的に暇になるタイミングが被る。

私の方も、ドレークが来そうなタイミングが分かるようになってきていた。傷つき、ささくれだって、酷いことになっていた心が穏やかに、なめらかに、たおやかに、修復されていきそうな気がした。

彼の大きい手が私の髪を梳くのが好きだ。私の頬を撫でるのが好きだ。私だけに向ける優しい眼差しが、彼の太い腕が私を抱きしめる温もりが、私に口付けるくちびるの柔らかさが大好きだった。


――大好きだった。


ある夜、彼の腕に抱かれて眠っている時、「すまない」と小さい声が聞こえた。

「……何がすまないなの?」

あたたかい素肌にキスをして、Xの刺青が入った立派な胸板に頭を預けながら問いかけた。

「ン……起きてたのか。…………いや、おれの感情を押し付けちゃあいねェかと思ってな……」

「そんなこと!……ごめんなさい、そんなことありませんわ、あなた。私はあなたを愛しているわ」

思わず身体を起こしてそう言うと、ドレークも身体を起こし、私を抱きしめた。するりとシーツが滑り落ちる。

「……すまん。おれもお前を愛しているよ、ホーキンス……」

とろけるような甘い声で言い、ドレークは私に口付けた。3秒ほど見つめ合い、彼は私を優しく押し倒し、覆いかぶさった。もういちど、くちびるが重なった。


「ッはあ……ぁ……ん、ドレーク、ドレーク……」

「……なんだッ……ホーキンス……」

「誓って、ドレーク……私を、あんっ……愛してるって……ずっと、愛して、るって……」

「……なにに、誓えばいい……」

「ふぅ……ん……なにに、誓ってくれるの?」

「……」

「……」

「……月。あの美しい月に誓おう……じきに、満月だ……」

「……ふ、ふふ……ふふふ……ひどいひと……」

「海賊だからな……」


ああ、ひどいひと。ほんとうに、ひどいひと……。


月は、形を変えてしまうのに。あなたの愛は、月のように変わりやすいだなんて。ひどいひと……。


そんなことだから、あなたは呪われるのよ。わたしを一生忘れられないの。

そんなことだから、あなたは私に愛されるの……魔女に愛されて、無事で済むなんて思わないで。


「……あの1%はね……私よ……!」


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