月と狼 前編

月と狼 前編


この部屋に監禁されてから…どのぐらいたったんだろう…

何日の何時かも…わからない…

きっかけは…そうだ…ホシノ先輩に関する事だったのは覚えている…

ホシノ先輩が…アビドスのためと言って…『良くないもの』を勧めてきた…

私たちは…それに逆らって…意識が無くなって…

気づいたら…部屋の中だった…

最初は脱出しようと…躍起になったけど…武器が全部取られてたし…

人が出入りできる扉も…一つだけで…頑丈で…内側から開かなくて…結局ダメだった…

それから…ホシノ先輩が…食べ物を差し入れるときに…アビドスが賑やかになっていく音が…外から聞こえた…

笑い声や…叫び声…工事の音や…爆発の音…

でもそれは…『良くないもの』のせいだってわかっている…

…でも…どうしようもない…

私たちに…できることは…『良くないもの』が…入っている…可能性がある…

食べ物を…食べないで…反抗することだけ…

でも…段々と…手足の感覚が…無くなってきた…

動く…気力も…とっくに…無くなって…ノノミや…セリカ…アヤネも…動こうとしない…

このまま…死ぬのかな…けど…それは…

嫌だ…嫌だけど…意識も…朦朧と…してるし…

もう…いい…かな…

諦め…そうに…なった…時…

ガチャリ!

「大……で……!?」

扉…を…開けた…音と…誰かの…叫んだ…声…が…聞こえて…

「………」

意識が…無くなる…直前…口の…中に…温かい…ものが…入った…気が…した…



「…ぱい!」

声が…聞こえた。

「…先輩!」

誰かが、必死に呼びかけている。

「シロコ先輩!」

必死に呼びかける声を聞いて私は意識を取り戻した。

私を呼びかけていたのは、セリカだった。

「せ、セリカ…」

「良かった…目が覚めた…」

私が目を覚ましたことで、セリカは安心したのか泣き出しそうな声だった。

後ろにあった壁を背もたれにして起き上がると、

他の皆も寝かせられていたようで、同じような体勢だった。

「何が、あったの?」

「…私も詳しくはわかりません。ですが、誰かが私たちに何かを食べさせたようです」

私の質問に対してアヤネが答えた。しかし、その顔はどこか不安げな表情だった。

無理もない。『良くないもの』が入っていた可能性がある。

場を沈黙が支配していたその時、

ガチャリ!

出入り口の扉が開いた。そして…

「目が覚めたようですね」

ウサギの耳のような装備を付けた子が入ってきた。あれはたしか

「月雪ミヤコちゃん…ですよね?」

ノノミが彼女に名前を尋ねた。

「はい。RABBIT小隊所属、月雪ミヤコです」

彼女は冷静にそう答えた。

もしや、救助に来たのだろうか?

「もしかして、救助に来たの!?」

同じことをセリカも考えていたらしく、嬉々としてミヤコに尋ねた。

しかし、帰ってきた答えは

「いいえ」

否定の言葉だった。

「えっ?」

「現在のRABBIT小隊は、アビドスの廃校対策委員会の委員長である小鳥遊ホシノの指示に従って行動しています」

「はっ?」

「私に与えられた任務は、『砂糖』と『塩』…皆さんが言うところの『良くないもの』が入っていない食事を届けることと会話をすることです」

「はぁ!?」

淡々と述べるミヤコの言葉にセリカは驚きの声を上げた。

「皆さん意識が戻られたようですので、私は哨戒任務に戻ります。今後も私が食事を届けに来ますので、しっかりと食べてください。また餓死寸前になってもこちらが困りますので」

そう言って、ミヤコは出て行こうとした。

「ま、待ってくださ…きゃあ!?」

アヤネが立ち上がろうとしたが、力が入らなかったのか、そのまま倒れてしまった。

「アヤネちゃん!?」

ノノミがアヤネの方を向いたが、彼女も力が入らないらしく、立ち上がることが出来なかった。

「…皆さんは餓死寸前だったところから、意識を回復したばかりです。あまり身体は動かさないでください」

私たちを一瞥した後、そう言い残して、ミヤコは部屋を出て行った。

「アヤネちゃん、大丈夫ですか?」

ミヤコがいなくなった後、ノノミは心配しアヤネに声をかけた。

「はい…大丈夫です…」

アヤネはそう言って、壁伝いに何とか元の体勢に戻った。

幸いにも怪我はなかったらしい。

「あぁもう、なによアイツ!自分の言いたいことだけ言って!」

セリカはミヤコに対して怒りを覚えたらしい。

「…『薬』が入ってないって本当でしょうか?」

「ホシノ先輩の指示に従うとも彼女は言ってましたね…」

アヤネとノノミは先ほどミヤコが言っていた言葉を思い出していた。

「…敵なんでしょうか?」

「敵よ敵!今のホシノ先輩に従ってるのよ!敵に決まってるじゃない!」

ノノミの疑問にセリカが当然のように答えた。

「…私も敵だと思います」

アヤネもミヤコを敵視しているようだ。

「…シロコちゃんはどう思いますか?」

ノノミが私に対して聞いてきた。

「よく、わからない。けど…」

「けど?何ですか?」

「悪い子じゃないと思う」

彼女の目には安堵の色が混ざっていた。

少なくとも、根っからの悪人ではない。私はそう思った。

「…それに、『砂糖』と『塩』に関しては本当のことを言ってると思う」

「どうしてそう言い切れるんですか?」

私の言葉にアヤネが疑問に思ったようだ。

「ん、みんなの様子を見てたけど、みんないつも通りだった。私の身体も頭も起き上がる体力がないだけで、おかしくなった様子はないし。少なくとも意識がないときに食べさせられた物の中に『砂糖』と『塩』は入っていないのはほぼ間違いないと思う」

「で、でも今後って言ってたじゃない!今回は入れなかっただけで後から油断したタイミングで入れるかもしれないでしょ!」

「…」

それに関しては完全には否定できない。今回は命の危機だったから入れなかっただけで、元通りになったら入れる可能性は0じゃない。

「…でも安心しました。シロコちゃんが大丈夫って言うなら、たぶん大丈夫ですね」

「!」

「ノノミ先輩!?」

「ひとまずはシロコちゃんの意見を信じましょう。もちろんセリカちゃんが言うように警戒は必要ですけどね」

良かった、信じてもらえて…

…なんで私はミヤコを庇ったんだろう?


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後編に続く(SSまとめ

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