最高の結末を!
今は一人しかいない島、亡びた島エレジアにも新しく開発されたというワクチンが届いた。倒れてしまったゴードンは仮死状態であるらしく、これさえあれば息を吹き返すのだという。
ただ。
───それと引き換えに、悪魔の実の能力者は死ぬのだという。
たった二本のワクチンを宝物のように抱え、ウタは壊滅した街を見回っていた。
「~~、~~♪」
ふん、ふんと鼻歌交じり、足取りは軽く。
幼い頃の記憶ではあるが、まだ覚えている。ここはシャンクスに新しいアクセサリーを買ってもらったお店、ここは独創的な楽器ばかり造っていた職人さんの家、ここは、ここは。たった幾日かの、崩壊する直前の美しい街を思い出す。
奥底に沈めていたそれは、少し前であれば唐突で理不尽な別れを想起させるだけの苦しいものだったけれど、今は違う。
あの電伝虫を、あの映像を。
真実を知った後であるならば。
何度も何度も繰り返し夢に見た、ウタを置いて財宝の上で笑う父の姿の理由だって、もう分かっていたから。
城へと戻る。
ゴードンは、育ての親は、仇を押し付けられた国王は、柔らかなベッドの上で寝息も立てずに死んでいる。
横の椅子へと腰掛け、ずっとまともに見れなかった顔を見る。安らかな表情、事切れているなど信じられない優しい表情。
「……ごめん、ごめんなさい、ゴードン」
愛する国をめちゃくちゃにしてごめんなさい。
引き取ってくれて、ずっと気を使ってくれたのに無下にしてごめんなさい。
どうか、隣で眠ることを許してください。
息を止めてゴードンの腕に注射器を押し当てる。丁寧に、丁寧に。やり方はよく分かっているから。医療はホンゴウに一通り教えてもらったから。
まさしくウタは赤髪海賊団の愛で生かされていた。そして今、その愛で大切な人を拾い上げられたのだ。
整った唇が弧を描き、ふふ、と笑みがこぼれた。
今際の際であるからだろうか。激情家であるはずの自分の感情は、こんなにも凪いでいる。腕を刺す注射の痛みなんてもの、どうってことないくらいに。
養父の隣に滑り込み、シーツを引き上げる。
二人が簡単に収まるベッドの上に寝そべったまま、かちり、と電伝虫のスイッチを押した。
……途端に流れ始めるのは慟哭と剣戟の音。
『歌姫』の最期には似つかわしくなく、『エレジアを滅ぼした主犯』には最も相応しい鎮魂歌。
幼き頃の自分の罪を、目に焼き付けながら。
「ねえ、シャンクス……」
愛しい名前を呼ぶ。あの鮮烈で穏やかな、赤を。
「こんな私だけどさ」
電伝虫の流す悲鳴と破壊に混ざって、ひとりぼっちの嗚咽を。
「ひとつの国を滅ぼした、どうしようもない娘だけど」
諳んじるように。歌う、ように。
「この最期くらいは、褒めてくれる、かな」
そうやって、ことり、落ちた。