最低な人

最低な人

一瞬ウーサールート開拓なるか!?ってバカな考え持ってしまいました

それは高校生の頃だった、オレ達サッカー部は勝てば全国進出のかかった大事な試合の日のこと

「キャプテン、遅いですね…」

「全く、珍しいもんだ。こんな大事な日に…」

いつもなら1番最初に集合場所にいたキャプテンが今日は遅い

もう30分前だというのに、どうしたんだろう

「オレちょっと電話してきます!!」

まだギリ間に合う。急いでオレは少し離れてキャプテンの連絡先を入力した

…反応がない、着信はされているけれど本人からの応答がない

…まさか、まさかとは思うけどキャプテンは…いいや焦るなオレ、まだそうだと決まったわけじゃない、ここはトネリコにも電話して…

『立香!?急にどうしたんですか?』

よかった、こっちはちゃんと出てくれた

「キャプテンが…ウーサー先輩がまだ来てないんだけど、トネリコわかる!?」

『それ本当なの!?…わかった、私探してきます!決勝、頑張って…』

簡潔に要件を伝えた後すぐに電話が切れた

…見つかるといいんだけど

「藤丸、そろそろ時間だ。…ウーサーには悪いが観客席で我らの勝利を見届けさせる他ない」

「…わかりました……」

オレ達は主将不在のまま決勝戦の会場へ向かうことを余儀なくされた


スタジアムは熱狂の渦に包まれていた。

これに勝てば全国。どちらも優勝候補に上がるほどの強豪校であり各プロチームのスカウトまでもが視察に来ていた

「キャプテン、結局来ませんでしたね…」

勿論キャプテンが目当てで来ている人も沢山いた。

キャプテン、プロ入りが濃厚だったもんなぁ

「仕方あるまい、私が代理を務める」

「貴様がか?ここは私がするべきだろう」

「貴様は空気というものが読めぬのか!?オレ以外に誰がヤツの代わりをやるというのだ!」

オレもそうだけれど、チーム全員がこの状況を不安に思っていた

「…この状況で本当に勝てるのでしょうか」

「オレにもわからない…でも。やってみなきゃわからないよ!」

こうなったからには腹を括るしかない。

そう思っていた矢先…

「…そうか…ウーサーが…わかった…」

「監督!キャプテンはどうなったんですか!?」

監督は誰かと連絡を取っていたらしく、たった今電話を切った

「試合直前になって言うのも申し訳ないが…ウーサーが交通事故に遭った」

「………え?」

薄々察してはいたけど、信じたくなかった。

「…キャプテンが…そんな」

「うろたえるな!我らが勝てたのはヤツのおかげか!?」

「…ふん、貴様に言われるのは癪だが。私も同意見だよ」

…そうだ、例えキャプテンがいなくても。オレ達にはオレたちの力があるはずだ

「我らでヤツに全国への切符を渡しに勝とう!!」

「「「「オー!!」」」」

円陣を組んで、いざ試合開始。










結論から言えば、オレ達はここで敗退してしまった

「あと一歩……あと一歩だったのに…!!」

試合終了直前にゴールを決められ、2-3というスコアで試合が終了してしまった

いくら実力面でこちらが優れていても、精神的支柱を失ってしまえば簡単に崩れてしまう

キャプテンの存在は、想像していた以上に大きかった。

「ウーサー……ウーサー!!」

「私達はここで終わるのか…」

「くそ……くそっ!!!」

キャプテンに甘えていた事実が何より悔しい、全国への花を持たせることも出来なかった。





帰りはお通夜モードで、誰も発言することが出来なかった。

その後すぐキャプテンが搬送された病院にもすぐ向かった。

病室には先に来ていたトネリコが座り込んでいた

「先生、彼は…ウーサーはどのような状態で…」

「…残念だけど、彼はもう運動出来る状態では…」

監督と医者の人の話が聞こえてしまった。もう、キャプテンとサッカーができないなんて…すごく嫌だ

「そんな……ウーサー君…嘘だよね…?」

トネリコもその話を聞いて完全に気が動転してしまっていた

「手術が成功したとしても、復帰できる可能性は低いんだ…もうプロは諦めるしか…」

「私の…せいだ……」

「トネリコ、待ってよ……!」

話を最後まで聞く前にトネリコは抜け出してしまった

そんな彼女の姿を放っておけずオレもすぐさま後を追った


病院の外まで追いかけて、ようやく手を捕まえられた

「待ってってば!」

「私が…あんなこと言わなかったら……ウーサー君は…」

「落ち着いて!」

「…ごめんなさい、取り乱しました…」

とりあえずこのまま戻る訳にも行かないので敷地内のベンチに座らせて、すぐそこの自販機で買ってきた飲み物を渡した

「…その、昨日のことなんですけど…私、ウーサー君と話をしてまして…」

彼女が重たい口を開けた

「彼、プロになったら俺と付き合って欲しい…って。私に言ってくれたんです」

「私、そんな彼の顔を見てしまったら断りきれなくて、約束してしまったんです。全国で優勝したら考えてあげるって」

「…だから、それが彼の重荷になったのだとしたら…私は……」

「ごめんなさい……立香……ごめんなさい…!!」

自分のした事を嘆いてひたすら慟哭するトネリコを、オレは黙って慰めることしか出来なかった。

何も声をかけられなかった。なんて言葉をかけたらいいのか思いつかなかった。


…その日から、トネリコは学校に来なくなってしまった。




















大学生になってからもオレは定期的にキャプテンの見舞いに行ってる

「…いつもすまないね」

あれからキャプテンはずっと療養中だ

手術も成功して、今はリハビリをしている

「いいんですよ、キャプテンと話すの楽しいですし」

「だからもうキャプテンではないって」

「オレの中ではずっとキャプテンですよ」

オレだったらとっくにサッカーを諦めているのに、この人は未だに諦めていない。すごい尊敬してしまう

「…彼女は、元気にしてるかな」

「まぁ、なんだかんだ元気だと思いますよ、表面上は結構変わりましたが…」

巷では冬の女王モルガンなんてよくわからない渾名が付けられているのだとか

「…そうか、ならいいんだ」

「キャプテン…」

この人はとても悔しい思いを今でもしてるはずだ

…あの時無事なら全国だって…

「…ははは、そんな顔しないでほしいな、正直、ほぼ諦めてるさ」

「…え?」

「プロにはいずれなるつもりでいる。でも、彼女にはその気がないなんて最初から気づいてた事なんだ」

「それって…」

「決意表明…と言えばいいだろうか。正直申し訳ないことをしたと思ってるよ」

オレからみてもお似合いで…今だから言えるけど正直敵わないと思ってた

この人ですら厳しいなんて、オレは尚更ダメだろうな…

「君が何を言いたいかはわかる、そう思ってくれてるのは光栄だけど。…俺から言わせてもらえば…」

なんだろうか、キャプテンから見てお似合いの人がいたりするのだろうか

…そんなすごい人。知らないけど

「…ここから先は野暮かな、よし!この話は終わりだ!いいね?」

「え?あ、はい」

…なんて考える間もなく話を切られてしまった。仕方ない、オレもこれ以上考えるのはやめとこう


「そういえば今週の選手ガチャ引いたかい?」

「引きましたよ!あのめちゃくちゃ強いRWGの選手!」

「いい引きしてるね、俺も引いたけど。やっぱり別格のスピードだね」

「いやぁ、今年は世界大会ありますし。活躍も楽しみですね」



































夫婦っていうのは基本的に一夫一妻らしい

これ以外にも色々な形はあるが、まぁ大体はそういうものとして出来上がっている

で、2人以上の人と付き合うことは不誠実な人と思われやすい

昔の偉い人は側室を設けたりしていたけど、今と昔では事情が違う

とにかくみんな誰か1人を愛するのがスタンダートな形って染み渡っている


…何が言いたいかというとそれを踏まえて言うならオレはクソカス野郎だろう

本来ならどっちかを選ぶべきなのに、どっちも選べないでいる

選ばなかった方に悪いから…というわけじゃない、ふたりが同じくらい大好きだからこそ選べない。すごい困ってる


なんで好きなのかと聞かれると。あんまり言葉に出来ないけれど、ずっと一緒にいたから…離れたくないっていうのが第1かもしれない

それならそのままでいいじゃんって思うかもしれないけど、そうじゃない

最近はそのままでいるのが苦しい。今の関係を壊したくなくて一定の距離を保っているが、これもすぐに崩壊するだろう

ここでどちらかを選んでしまえば選ばなかった方とは永遠に会えなくなるかもしれない、そんな予感が過ぎっていた


…そして、そんなオレの元に究極の選択が舞い降りた


お祭りを一緒に行こうと言うのだ。


お祭り自体はほぼ毎年行ってたけど、今年は訳が違う

…2人だけで行こうって双方から誘いが出た。

これが何を意味するかは言うまでもない

きっとふたりともいつもより気合を入れてきている。だから今日で決着を付けるつもりなんだろう


「はぁぁぁ…どうしよう、こんなんじゃ嫌われてもしょうがないよな…」


待ち合わせ場所はふたりとも別々の場所だった

恐らくそこにオレが来なかったらその時点でダメだったと思われるだろう

…ほんとにオレでいいんだろうか

ふたりにはオレよりふさわしい人がいるんじゃないか

…なんて思ってしまう。考えれば考えるほど嫌な方向へと向かってしまう


…でも、そんなことを思えばふたりに悪いから。覚悟を決めないといけない

「ごめん…」

意を決して。オレはあるものを準備した





































「全く、こんな丘の上に呼び出したかと思えば」

「一体なんですか、話があるってメッセージをよこして」

祭りの会場から離れた丘の上。そこにふたりを呼び出した

予想以上に気合いの入った着物はふたりの魅力を引き立たせていて。正直オレの身がもたない

「ごめん、せっかく誘ってくれたのに呼び出して…」

「それは良いのです、ですがこの状況を説明しなさい」

「リツカと言えど、オレには選べません。なんていわれたら怒りますよ」

…その言葉を聞いて、胸がきゅっとなる

今から言う事はふたりにとっても、オレにとっても酷い事だ。

…多分1番とっちゃいけない選択肢だと思う

だけど。オレにはこれ以上が考えられなかった


「…ごめん、実はその通りなんだ…オレ…」


「っ…この期に及んでまだそんな甘いことを…」


「見損ないましたよ!えぇ!!」



「仕方ないだろ!!オレはふたりが大好きなんだから!!!」




「「え?」」

勢いのままに、本心を打ち明けてしまった

「正直、こんな事言うのは最低だって思ってるよ!だけどさ…」

「オレ、やっぱりふたりと一緒がいいよ…!」

最悪すぎる告白だと思う。うん、優柔不断かつ堂々と不誠実アピールをするもんだ。ここまでくると清々しいね

「呆れました、まさかここまでだったとは…」

「まぁ、どうせこうなるとは信じてましたけど…」

あまりの衝撃発言にふたりもドン引きしただろうか、なんか消えたくなってきた…いやもう消して…

「本気にしていいんですか?私達2人を相手にして無事でいられるとでも?」

「リツカなら大丈夫だと信じてますが、甲斐性なしに付き合う義理はありませんよ?」

うっ…ふたりの言葉がすごい突き刺さる…

でも言った以上は…

「オレ、絶対にふたりのこと幸せにする、もう不幸になんてさせないから…!!」

かっこ悪いと思われるだろうか、それとも欲張りなやつだと罵られるだろうか

でも、オレはただ、ふたりを幸せにしたい

「…その言葉、努努忘れないように」

「わたしたち以外に恋人、作らないでくださいね」

ちょっとずるだけど、オレとふたりは。恋人になった


※現在日本では重婚が禁止されているので、それがない世界だと考えて欲しいぞ!切除はするなよ!















「一緒にお祭り、行きたかったのに…」

「こんな離れた所に呼び出すとか聞いてないですよ!」

「それはほんとごめん…でもここ。いつかの時3人で来たでしょ?」

「…あ、そっか!そうだった!」

「待ちなさい、いつの話です」

「あれは確か…」

「3人で星空を見上げたじゃないですか」

「…あぁ、あの時の…」

「そう!そう言えばここ見晴らしが良かったなって…ほら、会場の方見てよ!そろそろ来るから」

「あ~~~~!!花火だ!!よく見える!!すごーい!!」

「…これは、すごい…よく気が付きましたね」

「3人だけで見たいなって。オレ思ってたからさ…」

「ふふ、2人きりじゃないのになんか嬉しいですね。」

「…えぇ、独占出来ないのが悔しいですが」

「それはわたしも思ってますけど…まぁリツカらしいからいいかなって!」

「…それもそうですね」

「……せっかくだし写真撮らない?ほら、ふたりとも寄って寄って」

「肩組んだ方がいいのでしょうか?」

「馬鹿なのですか?ここは腕を組んで…」

「…あぁもう!撮るよー!!!!!」

「「「ぴーす!」」」











「ちょっと、顔近くない!!?」

「あなたには早すぎましたか、私は余裕ですが」

「なにおう!!!」

「…無意識とは恐ろしいものだ…アルトリアめ…あんなに密着しているとは…」

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