曇らせを晴らすのは、この女〜〜〜〜〜

曇らせを晴らすのは、この女〜〜〜〜〜



……私たちがここに着いた時、アズサちゃんは変わり果てた姿でした。

全身から鮮血を垂れ流し、その声はかつての可愛らしいものではなく、ただのうめき声に。

私たちは気づいてしまいました。

きっと私たちが知る、アズサちゃんはもう死んでしまっているのだろうと。

……でも、それでも。

私は、こんな終わり方、絶対に嫌です。

私たちの物語が、こんな風に終わるなんて認めません。

だから……。


「先生、きっともうアズサちゃんは動けません。だから、もう襲っては、来ないから、どうにかして、治療法を探してくれませんか?」


今のアズサちゃんは、地面に倒れ伏してたまに首を動かしているばかり。

私たちなら、もうなんの脅威もないはずです。

既に死んでいるとしても、それでも、こんな風なお別れ、嫌ですから。

だから、可能な限り足掻きたいんです。

先生はすぐに頷いてくれました。

危険なアズサちゃんの口だけをごめんなさい、と謝りながら皆で塞いで。

それから、私たちはアズサちゃんを連れ帰りました。

あの、補習授業部で使っていた合宿場にこっそり寝かせて。

先生と、皆で必死に情報を集めました。


……その成果もあって、これがどう言ったものなのか、アズサちゃんはどうしてこうなっているのか、知っている子が現れました。

元アリウス生のその子が言うには、これは『マダム』によって開発されたもので、失敗作として投棄されたものだと言います。

神秘が大きく傷ついた子に撃つと、一度死んだような反応を示したのちに、こうしてゾンビのようになってしまう恐ろしい弾丸。

失敗作である理由は、力が強くなって制圧しづらくなる上に、むしろ、狂ったように使った者に襲いかかってくるために、同士討ちには使えない……と言う話でした。

……とても恐ろしい話ですが、それは。

アズサちゃんは本当に死んだわけではなく、妙な弾によってこうなったのだけなのだという天啓でした。


生きているなら、きっと、なんとでもやりようがあります。

皆で、それを治療するための情報を必死にかき集めて、集めて。

トリニティ皆どころか、三大校、更にはもっと沢山の学校の人たちが協力してくれました。

先生は更に怪しい人とも話をしたりして……。


ついに、その治療薬が完成しました。


「……じゃあ、先生。飲ませてあげますね」


″うん。くれぐれも、噛まれないよう気をつけてね……″


「……アズサちゃん。目を覚ましてください。一緒に物語の続きをまた、始めましょう。まだまだ、始まったばかりなんですから」


一錠の、錠剤をアズサちゃんに飲ませます。

アズサちゃんは思いの外暴れず、大人しくそれを飲んでくれました。


……




私が、ここに連れて来られてから何週間も経った。

手足は動かないし、体はがっちりと拘束されている。

とても、とても不快だったけれど、私はいくらでも待つことができた。

皆は、私を助けようとしてくれているんだ。

きっと、私は今普通じゃないんだろう。

どう抗っても、どうにもならないことがあるんだろう。

でも、皆、皆、私の代わりに抗ってくれてるんだ。

ただ、その事実だけが私は嬉しかった。


……そして、ヒフミが、祈るように私に錠剤を飲ませる。

口の拘束が解かれ、薬を持った手を出されると涎が流れ、噛みついてしまいそうになるが……。

必死に、必死に、自分に抗い、食い止める。

皆ずっと頑張ってくれてたんだ。

ここで、私が台無しにするわけにはいかない。

…………ごくん、とそれを飲み干す。

その効果が出るのは早かった。

徐々に、徐々に、視界がクリアになっていく。

祈る声が聞こえてくる……。

私を呪っていた、本能のような空腹が引いていく。


「……ヒフミ? 先生……? 私、は……?」


全身の傷も癒え、私は、私を取り戻せたようだ。

今まで、何が起こっていたのかも分からないけれど。

でも、はっきりとわかるのは……。


「アズサちゃんっ!!!! お帰りなさい!!!!!」


肌につたわる、その温もりだった。

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