暗闇の烏

暗闇の烏


⚠︎︎砕蜂視点


「平子副隊長が沼になってしまった」という支離滅裂な報告が耳に入ってきたのは夜明けが近くなってきた虎の刻(=4時)頃の話だ。

平子副隊長、というのは砕蜂にとって腐れ縁のような悪友のようなそんな関係の男だ。先の藍染の離反からお互いに慕っていた人のことを大手を振って話題にできるようになってからはその人たちのことを語り一日が終わることも珍しくは無い。それまでは傷口を舐め合うような、そんなぬるま湯のような関係だった。


閑話休題。

彼女がその報告を耳にすることが出来たのは先の滅却師の侵攻から程なくして、平子隊長へ報告する声が聞こえたからだ。

そばに控えていた雛森3席はその報告に困惑していたようだったが、平子隊長は「ほー、最近はめっきり無くなったのに珍しいなぁ」と納得した様子でその部下に場所を案内させていた。

彼が泥になった?一体どういうことだ??と失礼ながらもその後を追うことにする。状況が理解できない時は自分の目で見るに限る。腐れ縁であるあの男のことであるなら尚更な事だった。


そして、後を追った先で見たのは一面の闇だった。ツン、と腐臭のようなものが立ち込めていて思わず眉を顰める。よく見れば闇の中から小さな手や足そして顔のようなものが見て取れる。それはどれも未発達なそれだった。一目で分かる、これに呑まれたらもう戻ることは出来ないものだ。

攻撃をすればたちまちこちらを呑み込もうとするだろう。そう考えたら、下手に攻撃ができない。思わず歯ぎしりをする。


「   」

平子隊長が彼の名前を呼んだ声がした。驚きで思わずそちらに目を向けると、平子隊長の前に闇が集まりやがて人の形を形成する。そこに居たのは今よりもやや幼くなっている気もするが、確かにその名前の持ち主だった。暁闇を落とし込んだような髪はいつもと同じように太陽の色を落とし込んだ瞳を隠している。

しかし、しばらくしてその形は崩れ再び闇へ溶けていく。


思わず息を飲んだ。確かにこれは「沼になった」と表現するのがふさわしい。同時にこの闇が彼であることが分かってしまい衝撃を受ける。


大きな溜め息が聞こえ、そちらに目をやる。すると、ここにはいないはずの人物が腕に赤子を抱えて佇んでいた。大罪人、藍染惣右介の姿だ。

「相も変わらず、怖い人だ。平子隊長は。」

何故ここに?という疑問とその赤子は?という疑問がごちゃ混ぜになり、なんて言えば良いのか分からなくなる。後から振り返ると、藍染の方へ考えがシフトして言ったのは現実逃避に近いものがあった。

赤子はこの状況が分からないのか、藍染の顔を遠慮なくぺたぺたと触っている。藍染はそれを窘めながらも、赤子を抱え直した。


辺りの隊士達は口々に藍染になぜ、どうしてと声を荒立てる。それを見た藍染はため息をついて、肩を竦めた。

「彼らから目を背けて、私の方へ注視しても現実は変わりはしない」

そう言って赤子を見せると、しゃがんで赤子を床へと下ろした。赤子は床に接触した所から溶けるように泥へと変わり、赤子を下ろしたはずの場所には泥濘のような闇が広がっている。

「やはり、私ではこれが限度か。」と目を細めている藍染の声は届かない。


この赤子は彼で?なんで藍染の所に?というか、なぜ平子隊長も藍染も彼がこんな状態になっているのに平常でいられるんだ?この状態になったのは初めてではないということだろうか。

頭の中がぐるぐるして何も考えられない。


ただ1つ、言いたいことがあるとするならば。


誰か、説明してくれ。




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